悪役令嬢は悪魔と復讐のダンスを踊る

村上かおり

文字の大きさ
3 / 52

3.

しおりを挟む


 真っ当な人間であるならば、まず罪の正当性を疑うだろう。本当にアデライーデがその罪を犯したのか、証拠はあるのか、動機はなんだと、罪人にだって弁護をされる権利はあるはずだ。なのに、証拠は証言のみでーーしかも被害者とその取り巻きの証言だけというお粗末さ。

 国庫の使い込みの時は一応裏帳簿らしきものは提出されたようだが、たぶん、きっと、それは王子とその愛妾になったミシュリーヌミミのものだろう。

 何せ王子との結婚後、アデライーデが表舞台に呼ばれることはなく、ただひたすら王子と王子妃の執務を熟していた。

 王宮で与えられた部屋だって、王子妃の部屋は愛妾に奪い取られ、使用人の部屋よりも多少マシなくらいなものを宛がわれた。部屋は日当たりも悪く、執務しかしないのだからと衣装ですらも最低限。

 食事やお茶ですらも侍女長が厳しく管理していてアデライーデは、たた与えられるものを享受するしかなかった。そんなアデライーデに使い込みをする要素がどこにあるというのか。

 その上、訳の分からない正義感をひけらかす騎士団長の子息だとかいう男は、アデライーデが反論しようとすれば激昂して剣をチラつかせて平気で脅してくる。これは学園時代から変わらずで、王宮で暮らしていても顔を合わせればミシュリーヌがどうしたとか、他の女性の名をあげてはアデライーデが悪いと決めつけていた。

 さすがのアデライーデも冤罪をかけられては堪らないと声をあげたが、無視をしたのは王子で、そんなアデライーデを嘲笑い処刑台で得意気に剣を振り下ろしたのもこの男だった。

 だから、この男に殺された回数が一番多い。

 アデライーデの人生は早い時で18、遅くても23,4で終わり、どういった理屈でなされるのかは分からないが7,8歳まで時が遡る。

 どうやらその都度その都度の記憶はないようで、でもだからこそ同じことを繰り返していた。

 王子様に傾倒して、王子様のために頑張って、そして王子様のせいで死ぬ。しかも見下され蔑まれ貶められながら。

 いったいアデライーデが何をしたと言うのだろう。

 数える限り6回の人生を繰り返し、無駄に消費されることになんの意味があるというのか。

「……そう言えば」

 彼女はふと呟いた。

「悪夢の中で精霊だけは毎回違っていた……」

 この世界では術者と一生涯を共にするために、10歳の儀式で召喚の儀を行う事になっている。

 それは教会で行われる行事で、教会の奥庭に召喚用の魔方陣が刻まれた広場があり儀式の時だけ解放される場所だ。10歳を迎えた子供は必ず教会に連れてくるよう国も法を定めているし、平民であれば特に費用も掛からない。貴族の子弟の場合は、もちろん心付けが必要だが。まあ、それはどうでもいいだろう。何せ金額の多寡で呼び出すものの優劣はつけられないのだから。

 召喚の儀で必要なものは魔力。

 そして呼び出されるものは幻獣などの召喚獣や精霊や妖精といったところで、その人が持つ魔力に相応しいものが召喚される、らしい。

 一応アデライーデの悪夢の中でも何度も召喚の儀は行われていた。そしてアデライーデは必ずと言っていいほど中位や上位の精霊を呼び出すのだ。それに保有魔力量も王族に次ぐほどに多く、だからこそ王子の婚約者に選ばれてしまう。それに王族に嫁ぐにも爵位に問題がなかったというのもある。何せ公爵家のご令嬢だ。これを分不相応としたら誰も王族には嫁げない。

 けれどアデライーデには、それが悲劇にしかならなかった。

 深層のご令嬢だったが故に望まれるままに王子の婚約者となり、文句の一つも言わずに王家の望むがままに生きて死ぬ。いっそどこかでブチ切れてしまえばいいものを、そうする事さえ知らずにただひたすら耐えるだけ耐えて。

 ループする度に記憶はリセットされてはいたようだが、それでもこころに刻まれた恐怖や苦しみ、痛み、哀しみは完全に消えることはなく、一回一回、繰り返される時間にアデライーデのこころは削られて。

「聞くことができるとしたら精霊しかいない、はず……」

 とは言え新しく召喚する精霊が、ループする前の事を覚えているのかなんて彼女にも分からない。

 それにアデライーデが彼女になってしまった影響が出てくる可能性だってあるかもしれない。

 暫くはもぞもぞと寝具の上で起き上がろうとしてはいた彼女は、ついに諦めて身体の力を抜いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ご一読ありがとうございます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...