悪役令嬢は悪魔と復讐のダンスを踊る

村上かおり

文字の大きさ
11 / 52

11.

しおりを挟む
 
  
 翌日からアデライーデは、身体を動かそうとしたがもう暫くは安静にと母に止められてしまった。おかげで退屈で仕方がない。

 かと言ってターニャに刺繍を勧められたが、アデライーデはあまり気乗りがしなかった。別に刺繍が苦手、という訳ではない。どちらかと言えば年の割には得意な方だ。でも、どちらかと言うと編み物がしたいな、と思う。

 あれだけドレスにレースを使っているのだから、レース編みはあるはずだが、アデライーデにはかぎ針を使うのは職人とされていて、アデライーデ自身がレースを編むという事はなかったようだ。という事は、道具や糸も用意されていないだろう。

 今後のためにも頼んでおこうか、なんてアデライーデが思っていると、ターニャが「何か本でも読まれますか?」と聞いてくる。

 マルチェッロ家にある蔵書室には多くの書物が収められていて、アデライーデは言葉を理解するようになると自然と蔵書室に籠って本を読み耽っていたようだ。

 もちろんアデライーデ付きのメイドであるターニャはその事を良く知っている。だからこその言葉だろう。

 だから蔵書室から何冊か本を持ってきてもらった。

 最新の貴族年鑑と自領の産物について纏められた冊子とこの国の歴史の本というラインナップに、アデライーデはどういうラインナップだよ、と思わず突っ込みそうになる。

 ターニャ曰く、最近アデライーデが読んでいた本だというが、貴族年鑑はお茶会に必要だったからだろうし、あとは勉強のために読んでいたんじゃないかと思われた。

 せめて恋愛小説くらい、と思わなくもなかったが、よく考えれば、この世界ではまだ活版印刷の技術も発展しておらず、本は手書きが当たり前だった。製本も手作業なら装丁も凝ったものばかり。となれば高価なものになる。そう考えると娯楽本の類があるはずがなかった。せいぜいあるとすれば、貴族の趣味で作られる、紀行本や自叙伝くらいのものだろう。

 しかしターニャがわざわざ持ってきてくれたものだ。一番薄い自領の産物について書かれたものに目を通してみる。

 ふむ、読める。

 なんとなく大丈夫だろうとは思っていたけれど、文字の読み書きが出来なくなっていたら不味いと思っていたアデライーデは、本に目を通しながら安心した。

 ここでもし文字が読めなかったりでもしたら、今からまた勉強する羽目になる。それだけは嫌だったのだ。

 何せ前世ではあまり勉強は好きじゃなかった。もちろん生活に必要なものなら努力はしたし、ヴィジュアルバンドに傾倒してからは、彼らが使う言葉の意味を知るために辞書を片手に頑張った。美容系の専門学校では初めての事ばかりで、それでも必死で食らいついた。

 就職してからも、知人の店だからと甘えは許されなかったし、オーナー兼店長の趣味で手作り化粧品の類の知識も蓄えた。もちろん店で販売するものは、横文字の会社のお高いブランド品がメインだったが、度重なる脱色や染色を繰り返す自分たちの髪をケアするには、自分たちの髪に合うものを作った方が安い分、気兼ねなく使える。

 まあ、それでも自分の過去の話はいい、と彼女は思った。

 多少、普通の人生とは違っていたかもしれないけれど、それでもアデライーデの6回分の人生のきつさにはほど遠い。

 確かに彼女も恋愛運はあまりいい方ではなかった。付き合ったバンドマンが二股、三股当たり前の男だったりとか、彼氏(別の男だ)がファンと刃傷沙汰を起こしたとか、金を貢いだのに捨てられたとかーーまあ、それなりに色々あった。だが、自分の婚約者が学園で浮気をし、尚且つ冤罪で婚約破棄されたり、結婚したとしても冤罪で処刑されるとか、そんな重すぎて気が狂いそうな経験はさすがにない。

 特にあの、イカレたオレンジ頭の騎士団長子息には今世では会いたくない、と思えるほどにはトラウマだ。

 何せ、学園にいた頃から難癖をつけてくるわ、話し合いを試みようにも一方的に決めつけられまともな会話一つできず、更には薄っぺらな正義感を盾にして何度も何度もアデライーデを糾弾し、最後には嬉々としてその剣を振るった男だ。自虐趣味でもなければ、あんな男に何度も会いたいとは思わない。

 そして、もちろん婚約者だった王子殿下にも会いたくはなかった。

 だが、12日前の王妃様のお茶会で、この二人に出会ってしまった

 らしい、というのはアデライーデにその時の記憶がなかったのだ。母が言うには、王子殿下を見た瞬間顔を青褪めさせ、騎士団長の息子を見た途端に怯えて気を失ったようなのだが。

 まあ、青褪めて怯え、気を失ったーーついでに言えば10日間も目覚めなかったくらいだーーここ数日、アデライーデの記憶は更に同化していても、その一瞬の出来事は思い出せなかった。

 その前に新しく作ってもらったドレスや靴、髪留めが嬉しかった事なんかは鮮明に思い出せるというのに、不思議だなと、アデライーデは思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...