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しおりを挟む精霊の儀は恙無く終わった。
何せ一組ずつ大聖堂に併設された広場のような場所に、親と一緒に案内されたら石畳の上に刻まれた魔方陣の中央に立って、決まり文句を呟けばいいだけなのだ。何も難しい事はない。
何を呼び出したとしても、それを知るのは司教と両親だけだ。そして司教は、決して誰が何を呼び出し契約をしたのか、国王にすら漏らすことは出来なかった。
これはどこの教会でも同じで、精霊の儀に関する守秘義務は神から教会のトップである教皇以下の人たちに課せられた約束事、だそう。
約束と言われると破られたりもしそうだが、そこはやはり神。何某かの罰があるらしかった。とは言え、この世界での神の存在は薄い。精霊の方がよほど身近な存在だ。
けれど、その約束事があるおかげで、アデライーデは安心して魔方陣の上に立つことが出来る。
そして、気負うことなく召喚呪文を詠唱した。
間髪入れず、あっさりと現れたのは、長い紫の髪と朝焼け色の瞳を持つ美丈夫。
アデライーデは思わず感嘆の溜息をもらしてしまった。もちろん、この場にいる司教や父母にも見えているのだろう。三人の息をのむ気配が伝わって来た。
『ふふ、ようやく会う事が出来ましたね、我らが愛し子、契約を完了させるため、私に名前をつけてください』
美丈夫は柔らかい笑みを浮かべながら言う。
この魔方陣の中にいる限り、召喚された精霊や幻獣などの姿は確認することが出来るらしい。けれど、その会話は契約主にしか聞こえないとの事だ。
事前にそんな事を説明されていたアデライーデは、いきなり名前をつけろと言われて戸惑う。
一応、召喚の手順として名づけが必要だという事は説明されていたが、まさかこんな位の高そうな精霊が出てくるとはさすがにアデライーデも思っていなかった。だから、この成人男性に見える精霊につける名前なんてアデライーデには咄嗟に思いつかない。困った。
紫色の髪……時の精霊、紫、時、時間……クロノスくらいしか思いつかない、まさか神様の名前をつける訳には……紫、紫式部、違う! あ、そうだ。
「紫!」
『ユカリ……』
「い、嫌ですか……?」
『いや、大丈夫、とても綺麗な名前だと思う。これで私とあなたの契約は結ばれた、いつでも私を呼び出してください』
そう言って精霊は、またもやあっさりと姿を消してしまった。
え、これだけ? とアデライーデが唖然としても仕方がないだろう。
何せ召喚呪文の詠唱はあるものの、魔方陣は淡く光るだけで、精霊も光の中からぱあっと現れる訳でもなく、スッと現れたかと思えば、ちょっと会話しただけで、あっさりと消えたのだ。
まあ、それでも契約したからか、ちゃんと紫とのパスが繋がっている事は分かる。だから、アデライーデも心配はしていないのだけれど。
ただ、折角のファンタジー要素が、あまりにもあっさりしすぎていて、アデライーデの楽しみが少々削られたような気がするだけだ。
うん、そう。問題は何もない。後は家に帰るだけ。
そう思ったアデライーデは、父母の元へと向かった。もちろん両親は無事、精霊との契約を果たした娘を抱きしめて祝福してくれる。司教もどこか満足気に笑いながら言祝いでくれた。
ーーーーーーーーーー
時の精霊のカラーは紫。
ちなみに地→茶、水→青、火→赤、風→緑、光→白、闇→黒でイメージしています。
2022.03.01 一部加筆修正しました。国の中央にある大きな教会や教会の総本山にあるものは大聖堂としています。そのほかの街や町村にあるのは教会と呼んでいます。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
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