悪役令嬢は悪魔と復讐のダンスを踊る

村上かおり

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 そんな事をアデライーデが考えていると、2人が乗っている馬車がいつの間にか停まっていた。

「お兄様?」
「うん、どうしたんだろうね?」

 マルチェッロ家から王城へは2台の馬車で来たのだが、内訳としては1台目の馬車に、父と母と姉、メイドが1人、御者席に御者と侍従が1人。2台目にはアデライーデとセル、兄、メイドのターニャと兄の侍従が乗っている。

 馬車の乗り心地はーーアデライーデがサスペンションのきいた車を知っているからかーーあまりいいものではなかった。だが、まあ、クッションのきいた座席と背凭れに、ラタンチェアでも愛用している大きくて柔らかなクッションも用意したから、それほどダメージはない。

 アデライーデ達が停まったままの馬車の中でおとなしくしていると、兄の侍従が外に出て何があったか確かめに行った。

「……!」
「!!……」

 馬車の窓から外に視線を向ければ、緑豊かな森林公園のような趣がある所だが、これでも一応、城の敷地の中だ。

 不埒者がこんな場所にいるはずもないし、ある意味、どこにいるよりも安全なはずだが、内容はアデライーデの耳には届かなくても、苛立ちの混じった応酬がされているのは分かる。

 アデライーデは普段、王族の住まう離宮に来ることはないが、王太子妃候補として毎月城に登城している。だから潜った門は確かに王城のものであったのは確認しているし、御者も王城の人で(マルチェッロ家の御者は今頃休憩室でゆっくりしているだろう)、本来、途中で停められるような事があるはずがなかった。

 兄に身体を寄せて、馬車の前方へと視線を向ければ、木々に隠れて奥の方へと続く小道がある事に気づく。そして、その小道にひっそりと馬車が停まっていた。

「こら、あんまり身を乗り出すんじゃない」

 兄もそれに気が付いたのだろうか。

 アデライーデは、兄の言葉に仕方なく元の位置に座りなおした。しかし、何時まで経っても兄の従者が戻って来ないし、馬車も停まったままだ。

「どうしましょうかお兄様」

 アデライーデがこの状況に至る可能性を、頭の中で吟味しながら問えば兄も眉間に皺を寄せる。

「うーん、ある程度は予想がつくけれど、母上がどこまで手配しているとかは知らないのだよね」
「ですよね。わたしも特に関わってはおりませんし、本当はお母様が乗っている馬車を停めようとした。もしくはこの馬車にお母様が乗っていると思った、とか」
「それはどうだろう? 今日は精霊の義を終えた子供たちを祝福するためのパーティーが開かれるんだ。いくら早い時間に来ているとはいえ、母上が父上と一緒にいないはずがないと思うのだけれど」
「そうですわね。まあ、でも、貴族には仮面夫婦も多いですし」
「……アデライーデ、どこでそんな言葉を覚えてきたんだ」

 眉間に皺を寄せたまま、兄が指でこめかみを押さえて小言のような事を言った。しかしアデライーデは気にしない。なぜなら馬車の扉をノックする音が聞こえたからだ。

 もちろん、それに対応するのはメイドのターニャで、兄やアデライーデが直接応えるような事はしない。

「どうされました?」
「……あちらの馬車にいるご夫人が、アデライーデ様をお呼びしろと仰っておられるようでして」

 凄く困ったような兄の従者の声が聞こえ、アデライーデはふうっと溜息をついた。

「ご夫人とは誰か」

 ターニャに扉を開けさせて兄が問う。

「さる高貴な方としか」
「さる高貴な方ね……」

 思わず呆れた声を出してしまうアデライーデだった。それはそうだろう。明らかに陛下方のプライベートな場所である離宮に向かう途中だというのに、それをわざわざ停める事が出来る高貴な方なんて、誰の事を指しているのか丸わかりだからだ。

 相手も、それが分かっているから名乗りもしないのだろうけれど。あまりにも非常識過ぎた。これに呆れずにはいられない。

「仕方がありませんね、挨拶ぐらいはしないと」
「アデライーデ」
「……お兄様もついてきてくださいます?」
「……そう、だな。一緒にご挨拶に行くか」

 一瞬、咎めるように名を呼ばれたけれど、兄は瞠目するとアデライーデの意見に頷いた。

 何せアデライーデの予想通りであるならば、相手には権力がある。いくら次期当主と公爵令嬢であったとしても、無視して先に進む事を選べる者ではなかった。



ーーーーーーーーーー

ご一読ありがとうございます。
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