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第2部 誘拐事変
第25話 隊舎にて 後編 ラグス目線
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「赤い竜の眼?」
「そ! 名前だけ聞くとめっちゃ強そうだよね!」
「そうそう!名前だけ聞くと隊長に勝てそうだよね!」
「ふたりとも名前だけって連呼してるけど、実際はどうだったの?」
「一部は強かったけど」
「その他大勢は弱々だね!」
レットとレッソの言葉に、ふうん、と小さく呟く。
「いや、というかそもそも竜の眼は黄色だろ」
「ラグスもそう思ったかい? ボクもそれをまず初めに思ってね。まれに亜種で緑とかの子もいるけれど、カロンの実の色に近いから、赤にはならないだろうね」
「カロンの色は橙色ともいいますね」
ふいに思ったことを呟いた俺に、オストとスプシアが言葉をかえす。
「いやいやいや、3人とも! ツッコミどころそこじゃないから?!」
「そうか?」
「ああ! もう天然三人揃うとややこしい!」
叫ぶように言ったマノンに、「天然はこの二人だけだろ」と返せば「いやラグスもだろ」と双子が声を揃えて言う。
「っていうかラグスは直で相手を見たじゃん」
「っていうかラグスは一戦交えてるじゃん」
「一戦っていうか……あれ」
あれを一戦といえるかどうかは微妙なところではあるが、確かに相手は見ている。
「ま、一応ね。それにラグスが見たアイツも一応、組織員だし。戦闘員とも言えるかな。首謀者は別にいる」
「別にいる、って言うってことは、情報掴んだ?」
「もちろん。それに」
マノンの問いかけに、イハツは言葉を一旦止め、そんな彼女に皆の視線が集まる。
「ちょろちょろと動かれるの、いい加減、いい迷惑だから一掃する作戦会議を始めようと思うんだけど、どうかな?」
にっこり、と良い笑顔を浮かべたイハツに、サイラス筆頭の面影を思い浮かべたのは、きっと俺だけでは無いはずだ。
「たいちょー、前フリ長すぎぃー」
「そうだよ隊長、もっとパパッと始められたはずじゃんー?」
「誰のせいだと思ってんのよーー!!!」
双子の台詞に、ついに切れたイハツに、マノンとスプシアは彼女をなだめに行き、俺とオストはただ静かに苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、国外の人間じゃなくて良かったよね」
「んあ?」
作戦会議を終え、部屋を出ると同時に、マノンが軽く息を吐きながら言う。
わざわざそんなことを言うなんて珍しい。
そう思い、今の一連の流れを思い返して、ふと一つ、心当たりが見つかる。
「ああ、スプシアが終始不安そうな顔してたからか?」
「……よく分かったね」
「……なんとなく」
若干、驚いた顔をしたマノンに、首を傾げながら答えればマノンは「なんとなくかよ」とクツクツと静かに笑い声を零す。
「ほら、スプシアはさ、キギリと仲が良いだろ?」
「まあ訓練生のときの先輩後輩だし、スプシアは面倒見もいいからな」
「それにキギリにとっては、ある意味ちゃんとした先輩後輩っていうのはスプシアが初めてだからね」
「ちゃんとした?」
「そ。ちゃんとした」
「ふうん?」
四番隊隊長、名前はキギリ。副隊長はルシオという名。彼女らは一部の人間しか知らないがキギリは王族の関係者で、ルシオは幼少期からキギリの護衛だ。
王族関係者だからといって、贔屓目があるわけでもなく、キギリもルシオも実力を買われて四番隊隊長、副隊長を任されている。
そもそも、現団長はそういった類の特別対応など一切考えていないだろう。
現に、キギリと別に、もう一人、王族関係者がいるのだが、彼は、剣筋の実力は皆無とも言えるほどの腕だ。
けれど、剣筋の才はなくても、彼には参謀の才能があった。
そして、数年の三番隊での活動を経て、彼はサイラス筆頭の隊に所属している。
まあ、そんなわけで、知る人ぞ知る王族関係者のキギリなのだが、その彼女と、五番隊のスプシアはとても仲が良い。
それは騎士団員なら殆どの人間が知っている話だし、先輩後輩の関係などあらゆる場所で発生するのでは。
そう考えるものの、出身が違うと色々あるのかも知れない。
「家に地位があるってのも大変なんだな」
俺にとっては一生縁遠い話で、思わずそう言えば、マノンが「まあね」と笑う。
「家庭の事情ってやつだな」
「……いつまでもどこまでもついてくるんだもん、嫌になりそう」
「それを引っくるめてお前なんだから、いい加減諦めろ」
「まったく。ホントにラグスは簡単に言ってくれるよねぇ」
「いまさらだろ。公爵家だとか侯爵家だとか、いまさらお前にそんなの求めねえよ。俺も、クート達も」
「知ってる」
「ならもういい加減諦めることだな」
渋い実を齧ったような表情をしながら言うマノンに、ククッと小さく笑えば、マノンが「くっそー」と悔しそうな声を零す。
「ま、国外の人間だろうが、国内の人間だろうが、俺達に喧嘩うったことをすぐにでも後悔するだろ。多分」
「あー。多分ね。今回イハツは結構イライラが溜まってたみたいだしねぇ」
「…………大変だな、アイツも」
「楽しそうだからいいんじゃん?」
楽しそうか? と首を傾げれば「え、だいぶ楽しそうでしょ」とマノンもまた首を傾げる。
「……よく分からん」
「ま、いいんじゃない? それで」
ぼやくように言った俺に、マノンはケラケラと笑う。
「さて、と。ボヤキはここまで、ですかね」
「ああ」
「じゃ、ぼちぼち行きますか。隊長?」
視線の先には、自分たちの帰りを待つ、隊員たちの姿。
その姿を見て、握った拳を俺に突き出し、マノンが笑う。
そんな相棒の手を、ゴン、と突き返し「おう」と呟けば、相棒は口角をほんの少しあげて頷いた。
「そ! 名前だけ聞くとめっちゃ強そうだよね!」
「そうそう!名前だけ聞くと隊長に勝てそうだよね!」
「ふたりとも名前だけって連呼してるけど、実際はどうだったの?」
「一部は強かったけど」
「その他大勢は弱々だね!」
レットとレッソの言葉に、ふうん、と小さく呟く。
「いや、というかそもそも竜の眼は黄色だろ」
「ラグスもそう思ったかい? ボクもそれをまず初めに思ってね。まれに亜種で緑とかの子もいるけれど、カロンの実の色に近いから、赤にはならないだろうね」
「カロンの色は橙色ともいいますね」
ふいに思ったことを呟いた俺に、オストとスプシアが言葉をかえす。
「いやいやいや、3人とも! ツッコミどころそこじゃないから?!」
「そうか?」
「ああ! もう天然三人揃うとややこしい!」
叫ぶように言ったマノンに、「天然はこの二人だけだろ」と返せば「いやラグスもだろ」と双子が声を揃えて言う。
「っていうかラグスは直で相手を見たじゃん」
「っていうかラグスは一戦交えてるじゃん」
「一戦っていうか……あれ」
あれを一戦といえるかどうかは微妙なところではあるが、確かに相手は見ている。
「ま、一応ね。それにラグスが見たアイツも一応、組織員だし。戦闘員とも言えるかな。首謀者は別にいる」
「別にいる、って言うってことは、情報掴んだ?」
「もちろん。それに」
マノンの問いかけに、イハツは言葉を一旦止め、そんな彼女に皆の視線が集まる。
「ちょろちょろと動かれるの、いい加減、いい迷惑だから一掃する作戦会議を始めようと思うんだけど、どうかな?」
にっこり、と良い笑顔を浮かべたイハツに、サイラス筆頭の面影を思い浮かべたのは、きっと俺だけでは無いはずだ。
「たいちょー、前フリ長すぎぃー」
「そうだよ隊長、もっとパパッと始められたはずじゃんー?」
「誰のせいだと思ってんのよーー!!!」
双子の台詞に、ついに切れたイハツに、マノンとスプシアは彼女をなだめに行き、俺とオストはただ静かに苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、国外の人間じゃなくて良かったよね」
「んあ?」
作戦会議を終え、部屋を出ると同時に、マノンが軽く息を吐きながら言う。
わざわざそんなことを言うなんて珍しい。
そう思い、今の一連の流れを思い返して、ふと一つ、心当たりが見つかる。
「ああ、スプシアが終始不安そうな顔してたからか?」
「……よく分かったね」
「……なんとなく」
若干、驚いた顔をしたマノンに、首を傾げながら答えればマノンは「なんとなくかよ」とクツクツと静かに笑い声を零す。
「ほら、スプシアはさ、キギリと仲が良いだろ?」
「まあ訓練生のときの先輩後輩だし、スプシアは面倒見もいいからな」
「それにキギリにとっては、ある意味ちゃんとした先輩後輩っていうのはスプシアが初めてだからね」
「ちゃんとした?」
「そ。ちゃんとした」
「ふうん?」
四番隊隊長、名前はキギリ。副隊長はルシオという名。彼女らは一部の人間しか知らないがキギリは王族の関係者で、ルシオは幼少期からキギリの護衛だ。
王族関係者だからといって、贔屓目があるわけでもなく、キギリもルシオも実力を買われて四番隊隊長、副隊長を任されている。
そもそも、現団長はそういった類の特別対応など一切考えていないだろう。
現に、キギリと別に、もう一人、王族関係者がいるのだが、彼は、剣筋の実力は皆無とも言えるほどの腕だ。
けれど、剣筋の才はなくても、彼には参謀の才能があった。
そして、数年の三番隊での活動を経て、彼はサイラス筆頭の隊に所属している。
まあ、そんなわけで、知る人ぞ知る王族関係者のキギリなのだが、その彼女と、五番隊のスプシアはとても仲が良い。
それは騎士団員なら殆どの人間が知っている話だし、先輩後輩の関係などあらゆる場所で発生するのでは。
そう考えるものの、出身が違うと色々あるのかも知れない。
「家に地位があるってのも大変なんだな」
俺にとっては一生縁遠い話で、思わずそう言えば、マノンが「まあね」と笑う。
「家庭の事情ってやつだな」
「……いつまでもどこまでもついてくるんだもん、嫌になりそう」
「それを引っくるめてお前なんだから、いい加減諦めろ」
「まったく。ホントにラグスは簡単に言ってくれるよねぇ」
「いまさらだろ。公爵家だとか侯爵家だとか、いまさらお前にそんなの求めねえよ。俺も、クート達も」
「知ってる」
「ならもういい加減諦めることだな」
渋い実を齧ったような表情をしながら言うマノンに、ククッと小さく笑えば、マノンが「くっそー」と悔しそうな声を零す。
「ま、国外の人間だろうが、国内の人間だろうが、俺達に喧嘩うったことをすぐにでも後悔するだろ。多分」
「あー。多分ね。今回イハツは結構イライラが溜まってたみたいだしねぇ」
「…………大変だな、アイツも」
「楽しそうだからいいんじゃん?」
楽しそうか? と首を傾げれば「え、だいぶ楽しそうでしょ」とマノンもまた首を傾げる。
「……よく分からん」
「ま、いいんじゃない? それで」
ぼやくように言った俺に、マノンはケラケラと笑う。
「さて、と。ボヤキはここまで、ですかね」
「ああ」
「じゃ、ぼちぼち行きますか。隊長?」
視線の先には、自分たちの帰りを待つ、隊員たちの姿。
その姿を見て、握った拳を俺に突き出し、マノンが笑う。
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