虹色の被検体

kiruki

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今日も暇だ。何もない部屋で何をすることもできず寝っ転がって壁を眺めていると、幼い声が突然聞こえた。

「あら、もう眠たいの?寝るんだったら、私があげた枕とブランケットをちゃんと使って!」

牢の中にいつの間にか、一人の少女が入ってきていた。甲斐甲斐しく俺の体に触れて世話を焼いてくるのを、俺は黙って見つめる。

この少女は俺の世話係として任命されているらしい。ここに来てからしばらく経って、彼女が俺のもとに来た。

それまで牢の中で放ったらかしにされてボロボロになっていた俺に対し、幼いなりに心配してくれていた。部屋にあるブランケットや枕は彼女が俺に与えてくれたものだ。

……彼女の言動は、どこか世間知らずなところがある。俺はそれがとても気に入らなくて、度々不快な気持ちで少女と接してきた。

「お前、なんでこんなところで働いてるんだ」

気まぐれでこんなことを聞いてみたことがある。本当に気が向いたから話しかけただけなのに、少女は俺の声に嬉しそうな様子で反応した。

「お父さんが研究者なの。だから、私もここにいる」
「一日中ここにいるだろう。学校に行かなくていいのか」
「さあ、わかんないわ」

困ったような、寂しそうな笑顔で、少女はそう答えた。幼い子供がするには大人びた表情だなと漠然と思った。

薄暗い牢屋の中でも、ダイアモンドの瞳は視界をきらきらとさせた。

「それに、この国は今、子供に勉強の場を与える余裕もないみたいよ」

ああ、確かにそうだ。閉鎖的な空間で外の情報から隔離されたせいで世情に疎くなっていたが、今は戦時中だった。

世間知らずだと少女を馬鹿にできる立場では、無くなってしまったんだ。

頭を垂れて自嘲を漏すと、一瞬だけ誰かの指が前髪に触れた気がした。きっとあれは気の所為だろうけど。



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