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『キジンの復活』編
第1話 ⑥
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しかし、長旅になりそうだし、オレも早めにアスカの性格には慣れてた方がよさそうだ。ここは少しでも友好的に進めて……
「ここら辺のモンスターは、時々、村の中にも入って来てたけど弱いんだ。今のうちに練習しといた方がいいんじゃないか?」
「あ、そうね。レベル上げは基本よね」
「その……レベルっていうのは、オレの強さか何かか?」
「そうよ。HPとか攻撃力とかが数値でわかるのよ」
「いつの間にか数値化されてるオレ……」
オレの体はどうなったんだ。もうやだ、普通の人間に戻してっ。
ああ、オレがオレでなくなっていく……
「いいじゃん。便利でわかりやすくて」
「便利の一言で済ますな! 気分の問題なんだよ!」
とか揉めているうちに、目の前に白い毛のネズミが現れた。
ネズミといっても体の大きさはオレの腰の高さと変わらないくらい巨大だ。
「あら、かわいい。大っきなハムスターね」
「かわいくねぇよ! あれはホワイト・ラット。ハムスターじゃなくてモンスターだっての!
さっさと倒さないと仲間を呼び寄せて厄介だぞ!」
「わかったわ。じゃあ、英雄剣を抜いて!」
「うっ……
自分で言っておいて英雄剣を抜くのには抵抗が……」
アスカに身を委ねる。なんと勇気のいることか。
とはいえ、魔族と戦うことになるなら、そうも言っていられない。弱いモンスターで戦いに慣れてもらわねぇと、魔族との戦闘はもっと怖いことになる。
オレは決死の覚悟で英雄剣を抜いた。さよなら、オレの体っ!
「先制攻撃! いくわよ!」
「い、いきなり突っ込む!?」
いきなりラットに突っ込んでいくが、剣を振るタイミングが早すぎて盛大に空振りする。
その隙にラットが突進してきた。
「バカッ、避け──」
体当たりで左足をはねられたオレは、前のめりに顔面から地面に倒れた。
「……いっ……」
体を起こして『痛い』と声を出す間もなく、Uターンしてきたラットに背中を踏みつけられて、また地面に突っ伏す。
「ぐえっ」
「なんか強いわよ、あのネズミ。やっぱりチュートリアルじゃないからかなぁ」
「の……、のんきに解説してんじゃねぇよ! どうにかしろ!」
魔族より好戦的なラット。英雄剣には『チュートリアル』という魔族の力を抑える力があったとでもいうのだろうか。なんかそれ絶対に違う気がするが。
とりあえず、今のオレに言えることは『村を出てすぐ死んじゃいそう』の一言。
「必殺剣、いきましょう!」
「お、おう……
あ、そうか。叫ぶんだな、あれ」
技名を叫ばないといけないことに自分もまだ慣れていない。
光る英雄剣を構え、恥じらいを捨ててオレは叫ぶ。
「〈ヒロイック・スラッシュ〉!」
素早く振られた刃から放たれた光の斬撃は見事ラットに──避けられた。それはもう、ぴょーんと軽快なジャンプで。
おい、冗談抜きで村のすぐそばで死にたくないぞ……オレ。確信的な危機感を覚えたオレはアスカを促す。
「もう一回、使うぞ! ヒロイッ──」
「無理よ!〈ヒロイック・スラッシュ〉は六十秒に一回しか使えないの!」
「なんで六十秒!?
じゃなくて、そんなことは先に言え!」
と、文句を言ってる背後から視線を感じる。
見れば、オレの背後と右側に別のラットが現れていた。
「いつの間にか、もう仲間を呼び寄せてる!
今のお前じゃ三匹を一度に相手するのは無理だ!」
「一度逃げるのね、わかったわ!」
最初からいた一匹が前方にいたので、オレを左へ走らせるアスカ。だが、オレは気付いていた。
「ちょっ、待て!
そっちはが──」
『崖だ』と言いきる前にオレの体は足を踏み外してガクリと傾く。
まあ、崖というか急勾配の土手だなぁ……と、スローモーションで目に映る景色を解説してみる。
「って、どわあああぁっ──」
オレの体は転がる転がる。
やっと止まったかと思えば、すでに自分が仰向けなのか、うつ伏せなのかもわからないくらいに目が回っていた。
「──大丈夫?」
アスカが心配そうにオレの顔をのぞき込んできた。どうやら死んではいないようだ。でも、体中が痛い。
「……ああ、大丈夫じゃない」
「ごめん。だってさっき左にしか逃げられなかったし」
「崖があるって、見えてなかったのかよ……」
「うん。視点カメラを敵に向けてたから、そっちにばかり気を取られちゃって」
視点カメラ……? そんなもんどこにあるのか、今はつっこむ気力もない。
視点どころか、むしろアスカは目隠しされてるんじゃないかとさえ思えてきた。ゲームとは言ってたけど、目隠ししてる奴に操られるってどんな罰ゲームだよ……
そうか、オレとアスカの関係ってアレだ。去年の忘年会の時に罰ゲームでやらされた。ひとつの羽織を二人で着込んでする──
「……二人羽織……」
「ん、なんか言った? また聞こえなかったわよ」
にらまれようが怒られようが、もう意識がなくなる寸前だ。体の痛みが原因じゃなく、いわれのない罰ゲームをやらされてるって実感が湧いたショックで気絶しそう。
二人羽織の前と後ろなら、せめて後ろがよかったわ……って、そうじゃないだろ、オレッ!
「早く助けて……」
「あ、そうだ。今こそ回復スキルね!
──〈ヒーリング・エール〉!」
と、アスカがオレに両手をかざして言うと、緑の光がオレを包んだ。
すると、急に痛みも消えて体が軽くなる。服の汚れさえ消え去ってしまった。
「今のは魔法?
いや、前に言ってたオレにしか効力がないスキルってやつか」
「そうそれ。これで助かったわね。無事、逃げきれたみたいだし」
「無事に逃げきれたんじゃなくて、有事の末に死にかけたんだよ……」
アスカはオレに英雄剣を鞘に収めさせながら苦笑する。
「落ちないように見えない壁がある場合もあるんだけどね。
でも、このゲームはリアル志向だし、崖からは落ちちゃうのね」
「むしろ落ちない崖とは? 見えない壁とは?」
この世の常識を知りたい。オレが非常識なのか……?
「ま、うっかり落ちちゃうってよくあることだから気にしないの」
「よくあってたまるかぁっ!」
アスカと一緒だと命がいくつあっても足りないぞ。だから英雄剣は使いたくないんだ。
でも、英雄剣を使わないと魔族には勝てないし、どうすりゃいいんだ……
「そうだ、アスカ。しばらくはオレが自分の剣で戦うから、それを見て感覚をつかんでみろよ」
「英雄剣じゃなければ『オート戦闘』になるってやつね。それは楽でいいわ」
「オート戦闘……? また意味がわからんことを。
とりあえず、オレもそっちの方が楽だからな」
アスカの腕がすごければ、操られてる方が絶対に楽なんだけど、現状は悪い意味ですごすぎる。こんなのでよくこの世界を救おうって思えるよな……
ともかくアスカには腕を上げてもらうしかない。が、とりあえず今は落ちてしまったあと、これからどうするかだ。見上げてみれば、元いた場所はかなりの高さ。
「──相当転がり落ちてきたんだな。回復してもらったとはいえ、よく死ななかったものだ。
真下に転落したわけじゃないにしても、普通だったら死んでてもおかしくない気がするんだが……」
「雑誌の情報によると、英雄剣は持ってるだけで〈フィジカル・エンハンス〉ってスキルが常時発動してて、要するに普通の人間よりも体がかなり丈夫になるらしいわ」
「肉体すら普通じゃなくなってたのかよ!」
普通ってスバラシイ。普通ってだけでキセキ!
オレはもう、心も体もアブノーマル……
「何、泣きそうな顔してるのよ。
異常に丈夫で『異丈夫』って誉め言葉があるんだし、いいじゃない」
「……もしかして『偉丈夫』のこと言いたいなら、色々間違ってるぞ」
「そ……、それに気付くなんて、ガウルって意外となかなか頭がいいのね」
「上から目線で間違いを認めるなっ!」
この子、ホント……怖い。
「で、街に行くにはどうするの? ここ、登る?」
「無視して話を戻すっ!?」
こいつはオレの気も知らないで。
いいんだよ、もうどうせどうせ、オレなんかが苦労しててもアスカは疲れないって仕組みなんだろ。いいよなぁ、神様だもんなぁ。
──と、口に出してグチグチ言う勇気をください。
「登るのは無理だ。迂回して行くしかないな」
「そう。じゃあ、今日はこの辺にして、続きは明日にするわ」
「……は?」
アスカの発言に耳を疑った。
続きは明日? 迂回して元の道に戻らずにここで一泊するつもりなのだろうか。
「いや、村を出てすぐだし、まだ朝の九時過ぎだぞ? トラブルはあったが、今日中には次の街に余裕でたどり着けると思うぞ?」
「そっちはそうでも、こっちはもうすぐ日付が変わっちゃうくらい深夜なのよ。
明日、大学あるし今日はこの辺で中断するわ」
「は、はい?」
大学って王都にある魔導大学院みたいな学校か? アスカって学生かよ──とつっこみたかったけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない!
中断って、ゲームだから中断できるってことか? んな無茶苦茶な!
「待てよ! アスカが中断したらオレは明日までどうなるんだよ?」
「知らないわよ。時間が止まるんじゃないの?
さっき、初めて私達が会った時も時間が止まってたでしょ?」
「さっきじゃなくて昨日だろ……」
お互いに時間の流れ方が無茶苦茶で話がかみ合わない。
しかし、アスカの予想が正しいなら周囲の時間が止まったままオレだけが取り残されるのか? それ、寂しすぎるんだが。
「なんて無責任な!」
「無責任じゃないわよ。ずっとゲームをやってるわけにもいかないでしょ。
でも、今回ばかりはガウルも含めて時間が止まるんじゃないの? それならあなたも時間が止まった実感がわかないと思うわ」
「つまり、今のアスカが中断して消えても、その直後に明日のアスカが現れるってことか?」
それはそれでアスカから解放されなくて辛い。オレの自由時間は風呂とトイレだけか。やっぱりこれって終身刑?
「まあ、中断してみないとわからないわ。
じゃあ、そういうことで、おやすみなさーい」
「お、おう。またな……」
勢いで見送ってしまった直後、アスカの姿はフッと消えた。半信半疑だったが、まさか本当に中断できたのか。
「…………」
はて? 時間が止まった感じはない。
晴れわたる空にはチュンチュンと雀が踊っていて、なんと清々しいことか。
さらに無言で立ち尽くすこと十数秒。オレを取り巻く環境は何ら変わらない。
「──って! 戻ってこねぇじゃねぇかっ!」
勝手に現れて取り憑いてきて、勝手にいなくなったアスカ。一体何だったのか。まあ、これでしばらくは元の自分に戻れると思えば……。
ん? 元の自分?
「マズい、まさかっ──」
悪い予感にハッと息をのんで、オレは英雄剣を鞘から引き抜こうとするが、案の定、英雄剣は抜けなくなっていた。
元の自分に戻るということは、英雄ではなくなるということだ。戦女神がいなければ英雄剣は扱えない。
「ど……どうすんだよ。これっ!?」
始まったばかりのオレの旅は、早くも両手で頭を抱えて叫ばないといけない状況に陥った。
この状況で魔族に襲われたらどうすればいいんだよぉっ!
──これから始まる果てない旅路。きっとこの先、もっと驚くことが起こることだろう。
襲いかかる数多の困難に立ち向かえる伝説の英雄に、オレは本当になれるのだろうか?
というか、その困難のほとんどが身内から襲いかかってきてるような気がするが。
『もう、村に帰っちゃおうか……』という決意を胸に、オレの旅路は続いていくっ!
「ここら辺のモンスターは、時々、村の中にも入って来てたけど弱いんだ。今のうちに練習しといた方がいいんじゃないか?」
「あ、そうね。レベル上げは基本よね」
「その……レベルっていうのは、オレの強さか何かか?」
「そうよ。HPとか攻撃力とかが数値でわかるのよ」
「いつの間にか数値化されてるオレ……」
オレの体はどうなったんだ。もうやだ、普通の人間に戻してっ。
ああ、オレがオレでなくなっていく……
「いいじゃん。便利でわかりやすくて」
「便利の一言で済ますな! 気分の問題なんだよ!」
とか揉めているうちに、目の前に白い毛のネズミが現れた。
ネズミといっても体の大きさはオレの腰の高さと変わらないくらい巨大だ。
「あら、かわいい。大っきなハムスターね」
「かわいくねぇよ! あれはホワイト・ラット。ハムスターじゃなくてモンスターだっての!
さっさと倒さないと仲間を呼び寄せて厄介だぞ!」
「わかったわ。じゃあ、英雄剣を抜いて!」
「うっ……
自分で言っておいて英雄剣を抜くのには抵抗が……」
アスカに身を委ねる。なんと勇気のいることか。
とはいえ、魔族と戦うことになるなら、そうも言っていられない。弱いモンスターで戦いに慣れてもらわねぇと、魔族との戦闘はもっと怖いことになる。
オレは決死の覚悟で英雄剣を抜いた。さよなら、オレの体っ!
「先制攻撃! いくわよ!」
「い、いきなり突っ込む!?」
いきなりラットに突っ込んでいくが、剣を振るタイミングが早すぎて盛大に空振りする。
その隙にラットが突進してきた。
「バカッ、避け──」
体当たりで左足をはねられたオレは、前のめりに顔面から地面に倒れた。
「……いっ……」
体を起こして『痛い』と声を出す間もなく、Uターンしてきたラットに背中を踏みつけられて、また地面に突っ伏す。
「ぐえっ」
「なんか強いわよ、あのネズミ。やっぱりチュートリアルじゃないからかなぁ」
「の……、のんきに解説してんじゃねぇよ! どうにかしろ!」
魔族より好戦的なラット。英雄剣には『チュートリアル』という魔族の力を抑える力があったとでもいうのだろうか。なんかそれ絶対に違う気がするが。
とりあえず、今のオレに言えることは『村を出てすぐ死んじゃいそう』の一言。
「必殺剣、いきましょう!」
「お、おう……
あ、そうか。叫ぶんだな、あれ」
技名を叫ばないといけないことに自分もまだ慣れていない。
光る英雄剣を構え、恥じらいを捨ててオレは叫ぶ。
「〈ヒロイック・スラッシュ〉!」
素早く振られた刃から放たれた光の斬撃は見事ラットに──避けられた。それはもう、ぴょーんと軽快なジャンプで。
おい、冗談抜きで村のすぐそばで死にたくないぞ……オレ。確信的な危機感を覚えたオレはアスカを促す。
「もう一回、使うぞ! ヒロイッ──」
「無理よ!〈ヒロイック・スラッシュ〉は六十秒に一回しか使えないの!」
「なんで六十秒!?
じゃなくて、そんなことは先に言え!」
と、文句を言ってる背後から視線を感じる。
見れば、オレの背後と右側に別のラットが現れていた。
「いつの間にか、もう仲間を呼び寄せてる!
今のお前じゃ三匹を一度に相手するのは無理だ!」
「一度逃げるのね、わかったわ!」
最初からいた一匹が前方にいたので、オレを左へ走らせるアスカ。だが、オレは気付いていた。
「ちょっ、待て!
そっちはが──」
『崖だ』と言いきる前にオレの体は足を踏み外してガクリと傾く。
まあ、崖というか急勾配の土手だなぁ……と、スローモーションで目に映る景色を解説してみる。
「って、どわあああぁっ──」
オレの体は転がる転がる。
やっと止まったかと思えば、すでに自分が仰向けなのか、うつ伏せなのかもわからないくらいに目が回っていた。
「──大丈夫?」
アスカが心配そうにオレの顔をのぞき込んできた。どうやら死んではいないようだ。でも、体中が痛い。
「……ああ、大丈夫じゃない」
「ごめん。だってさっき左にしか逃げられなかったし」
「崖があるって、見えてなかったのかよ……」
「うん。視点カメラを敵に向けてたから、そっちにばかり気を取られちゃって」
視点カメラ……? そんなもんどこにあるのか、今はつっこむ気力もない。
視点どころか、むしろアスカは目隠しされてるんじゃないかとさえ思えてきた。ゲームとは言ってたけど、目隠ししてる奴に操られるってどんな罰ゲームだよ……
そうか、オレとアスカの関係ってアレだ。去年の忘年会の時に罰ゲームでやらされた。ひとつの羽織を二人で着込んでする──
「……二人羽織……」
「ん、なんか言った? また聞こえなかったわよ」
にらまれようが怒られようが、もう意識がなくなる寸前だ。体の痛みが原因じゃなく、いわれのない罰ゲームをやらされてるって実感が湧いたショックで気絶しそう。
二人羽織の前と後ろなら、せめて後ろがよかったわ……って、そうじゃないだろ、オレッ!
「早く助けて……」
「あ、そうだ。今こそ回復スキルね!
──〈ヒーリング・エール〉!」
と、アスカがオレに両手をかざして言うと、緑の光がオレを包んだ。
すると、急に痛みも消えて体が軽くなる。服の汚れさえ消え去ってしまった。
「今のは魔法?
いや、前に言ってたオレにしか効力がないスキルってやつか」
「そうそれ。これで助かったわね。無事、逃げきれたみたいだし」
「無事に逃げきれたんじゃなくて、有事の末に死にかけたんだよ……」
アスカはオレに英雄剣を鞘に収めさせながら苦笑する。
「落ちないように見えない壁がある場合もあるんだけどね。
でも、このゲームはリアル志向だし、崖からは落ちちゃうのね」
「むしろ落ちない崖とは? 見えない壁とは?」
この世の常識を知りたい。オレが非常識なのか……?
「ま、うっかり落ちちゃうってよくあることだから気にしないの」
「よくあってたまるかぁっ!」
アスカと一緒だと命がいくつあっても足りないぞ。だから英雄剣は使いたくないんだ。
でも、英雄剣を使わないと魔族には勝てないし、どうすりゃいいんだ……
「そうだ、アスカ。しばらくはオレが自分の剣で戦うから、それを見て感覚をつかんでみろよ」
「英雄剣じゃなければ『オート戦闘』になるってやつね。それは楽でいいわ」
「オート戦闘……? また意味がわからんことを。
とりあえず、オレもそっちの方が楽だからな」
アスカの腕がすごければ、操られてる方が絶対に楽なんだけど、現状は悪い意味ですごすぎる。こんなのでよくこの世界を救おうって思えるよな……
ともかくアスカには腕を上げてもらうしかない。が、とりあえず今は落ちてしまったあと、これからどうするかだ。見上げてみれば、元いた場所はかなりの高さ。
「──相当転がり落ちてきたんだな。回復してもらったとはいえ、よく死ななかったものだ。
真下に転落したわけじゃないにしても、普通だったら死んでてもおかしくない気がするんだが……」
「雑誌の情報によると、英雄剣は持ってるだけで〈フィジカル・エンハンス〉ってスキルが常時発動してて、要するに普通の人間よりも体がかなり丈夫になるらしいわ」
「肉体すら普通じゃなくなってたのかよ!」
普通ってスバラシイ。普通ってだけでキセキ!
オレはもう、心も体もアブノーマル……
「何、泣きそうな顔してるのよ。
異常に丈夫で『異丈夫』って誉め言葉があるんだし、いいじゃない」
「……もしかして『偉丈夫』のこと言いたいなら、色々間違ってるぞ」
「そ……、それに気付くなんて、ガウルって意外となかなか頭がいいのね」
「上から目線で間違いを認めるなっ!」
この子、ホント……怖い。
「で、街に行くにはどうするの? ここ、登る?」
「無視して話を戻すっ!?」
こいつはオレの気も知らないで。
いいんだよ、もうどうせどうせ、オレなんかが苦労しててもアスカは疲れないって仕組みなんだろ。いいよなぁ、神様だもんなぁ。
──と、口に出してグチグチ言う勇気をください。
「登るのは無理だ。迂回して行くしかないな」
「そう。じゃあ、今日はこの辺にして、続きは明日にするわ」
「……は?」
アスカの発言に耳を疑った。
続きは明日? 迂回して元の道に戻らずにここで一泊するつもりなのだろうか。
「いや、村を出てすぐだし、まだ朝の九時過ぎだぞ? トラブルはあったが、今日中には次の街に余裕でたどり着けると思うぞ?」
「そっちはそうでも、こっちはもうすぐ日付が変わっちゃうくらい深夜なのよ。
明日、大学あるし今日はこの辺で中断するわ」
「は、はい?」
大学って王都にある魔導大学院みたいな学校か? アスカって学生かよ──とつっこみたかったけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない!
中断って、ゲームだから中断できるってことか? んな無茶苦茶な!
「待てよ! アスカが中断したらオレは明日までどうなるんだよ?」
「知らないわよ。時間が止まるんじゃないの?
さっき、初めて私達が会った時も時間が止まってたでしょ?」
「さっきじゃなくて昨日だろ……」
お互いに時間の流れ方が無茶苦茶で話がかみ合わない。
しかし、アスカの予想が正しいなら周囲の時間が止まったままオレだけが取り残されるのか? それ、寂しすぎるんだが。
「なんて無責任な!」
「無責任じゃないわよ。ずっとゲームをやってるわけにもいかないでしょ。
でも、今回ばかりはガウルも含めて時間が止まるんじゃないの? それならあなたも時間が止まった実感がわかないと思うわ」
「つまり、今のアスカが中断して消えても、その直後に明日のアスカが現れるってことか?」
それはそれでアスカから解放されなくて辛い。オレの自由時間は風呂とトイレだけか。やっぱりこれって終身刑?
「まあ、中断してみないとわからないわ。
じゃあ、そういうことで、おやすみなさーい」
「お、おう。またな……」
勢いで見送ってしまった直後、アスカの姿はフッと消えた。半信半疑だったが、まさか本当に中断できたのか。
「…………」
はて? 時間が止まった感じはない。
晴れわたる空にはチュンチュンと雀が踊っていて、なんと清々しいことか。
さらに無言で立ち尽くすこと十数秒。オレを取り巻く環境は何ら変わらない。
「──って! 戻ってこねぇじゃねぇかっ!」
勝手に現れて取り憑いてきて、勝手にいなくなったアスカ。一体何だったのか。まあ、これでしばらくは元の自分に戻れると思えば……。
ん? 元の自分?
「マズい、まさかっ──」
悪い予感にハッと息をのんで、オレは英雄剣を鞘から引き抜こうとするが、案の定、英雄剣は抜けなくなっていた。
元の自分に戻るということは、英雄ではなくなるということだ。戦女神がいなければ英雄剣は扱えない。
「ど……どうすんだよ。これっ!?」
始まったばかりのオレの旅は、早くも両手で頭を抱えて叫ばないといけない状況に陥った。
この状況で魔族に襲われたらどうすればいいんだよぉっ!
──これから始まる果てない旅路。きっとこの先、もっと驚くことが起こることだろう。
襲いかかる数多の困難に立ち向かえる伝説の英雄に、オレは本当になれるのだろうか?
というか、その困難のほとんどが身内から襲いかかってきてるような気がするが。
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