常世と現世と月結び【第三章作成中】

杉崎あいり

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第一章

仲間の在り方

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「タウフィーク! 」

 調薬の最中に突如聞こえた鋭い声は、同い年の同業者から発せられたものだった。
 刹那、強い神力の気配とともに、アルミラージが壁に叩きつけられる。

(この力、まさか……)

 ピリピリと指先が痺れるほどの神力に、俺は眉を寄せた。
 薬師用の休憩所へと目を向けて、確信を持つ。

(葉月は、偽神だったのか)

 珍しく取り乱している様子で、体からは神力が溢れ出ていることが見て取れた。
 通常、月の光でないと色付かないはずの神力が、あそこまではっきりと見えるのだ。
 これを偽神と呼ばなくて、なんと言う。

 隣で万咲希が「嘘だろ」と呟いた。
 ずっと同業者として肩を並べていた男が、この世で最も忌避される存在、【偽神様】だったなど、一体誰が想像できただろうか。
 衝撃的な事実に、俺と万咲希が唖然としているその先で、アルミラージは甲斐甲斐しく葉月を落ち着かせていた。

 調薬の手をとめて様子を窺っていると、葉月を寝かせたアルミラージが視線に気づいて苦笑した。
 ちょいちょいと手招きをされて、俺は万咲希を連れ立ってそちらへ向かう。

「なんだ? 」

 務めて冷静に応じれば、アルミラージは困ったような顔をした。

「いや、色々聞きたいことがあるだろうと思って。それと……周りの患者達を驚かせてしまってすまなかった」

 近くで寝ていた患者だけでなく、道場にいるほとんどの者が、先程の光景を目の当たりにしてしまっただろう。
 回復してきたことも相まって、道場内は少しザワついている。

「何があったのかはわからないが、説明することも、謝る必要もない。あまり他言できないことなのだろう? 患者達には上手く説明しておこう」

 そう言えば、アルミラージはほっと息をついた。

「……師匠」

 ツンと裾を引かれ、俺は隣に視線をやる。
 何か言いたげな万咲希と目が合うが、俺は無言で首を振るだけだった。
 この事は葉月の口から直接聞く方が良い。
 だが、今は聞かない。
 すぐにでも弟子を助けに行って欲しいからだ。
 同じような立場である俺には、弟子の身が危険にさらされているときの気持ちはわかる。

 我々師にとって、弟子とは原石だ。
 大事に大事に磨きあげるもの。
 盗まれぬように守るべき対象。
 葉月と結奈は、恐らく師弟関係以上の繋がりを持っているのだろうけれど、それでも大切な者には変わりない。

(助けに行ってやれ。たとえ、己の身を危険に晒しても、お前は助けるのだろう? )

 俺は踵を返し、自分のやるべき事をやる。
 研究会で開発された治療薬の調合をするのだ。

「万咲希、こちらを手伝ってくれ」

 未だ立ち竦んでいる弟子を呼べば、万咲希は困惑を隠しきれない表情で振り返った。

「良いのですか? だってあれ……」

 言いたいことは分かる。
 偽神は本来殺されるべき存在だ。
 黙秘していれば、我々だって政府に罰せられるかもしれない。
 それでも──

「葉月は、何か悪い事をしたか? 」

「……いいえ」

 万咲希が顔を歪ませて、目を伏せる。
 彼は他人に冷たい態度を取ることもあるが、根はとても優しい。
 一人の妖の命と、周囲の妖の命。
 それらを天秤にかけようとして、そんな自分を責めているのだろう。
   
 俺は調合の手を止めて、万咲希に向き直った。

「あいつは多くの命を救ってきた。たとえ偽神でも、その事に偽りはない」

「はい……」

 さとしたところで、割り切ることなど難しい。
 特に、同じ偽神として殺された弟が居た万咲希は。

「あいつが憎いか? 」

 出来るだけ優しく問いかければ、弟子は顔を伏せたまま首を振った。

「憎めません。俺は、患者を助けよう努力するあのひとの姿を、幾度となく見てきました。薬師を志す者として、あのひとのことを……尊敬しています。憎むことなど、俺にはおこがましいです」

 複雑な表情を浮かべる万咲希に、俺は頷いた。

 俺も葉月を尊敬している。
 知識や調合技術は勿論、患者に対して親身になれる度量の大きさや、話術。
 彼から学ぶものは多い。
 そもそも、葉月が偽神であることを今の今まで気づかなかったのだ。
 ならば、今更どうこうする必要は無いだろう。

「俺は、たとえこの事が政府うえにバレたとしても、葉月との繋がりを切る事はない。それに、弁護する側に回るつもりだ。……だが、お前に同じことを強要するつもりはない。お前が今、心に残っているその思いは、お前自身のものだ。それをないがしろにしてはいけない」

「はい」

 今度ははっきりとした返事をもらった。
 どうやら気持ちの整理はついたようで、いつもの真っ直ぐな目に戻っている。
 その事に安堵して、俺は中断していた調合を再開した。
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