歌う過激派武装集団

Chiot

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#02・縮まらぬ距離

ラファエロがNOAHに入隊してから、数週間が経った。

「筋いいな、お前」

射撃場にて、射撃訓練をしていたラファエロにリヒトが感心したとばかりに言った。

「リヒトには負けるけどね」

全ての弾を撃ち終えたラファエロが銃から薬莢を回収する。

「ふん……。いい気になるなよ」

「イグナシオ」

ラファエロが入隊してからというもの、イグナシオは常に不機嫌だった。
ラファエロが話しかけても、ツンケンとした態度で返すばかりで会話さえまともに成り立たない有り様だ。普通の人なら、声をかける事を止めてしまうであろう拒否ぶりにも関わらず、ラファエロは毎日イグナシオに話しかけていた。
それがイグナシオには鬱陶しいのか、ますますラファエロを拒んでしまっているのだ。

「優秀な兄貴のコネでNOAHに入隊したくせに」

イグナシオは胸くそ悪いと言わんばかりの表情を浮かべ、ラファエロを見ている。

――二コの言った通りになったな……。

「リヒト、悪いけど後片付け頼む」

イグナシオはそう言うと、車椅子を自ら押し、射撃場から出て行った。

「悪い」

「気にしなくていいよ。嫌われてる理由は分かってるし」

「………」

――こいつの方がよっぽど大人じゃねぇか。

リヒトはおもむろに手を伸ばすと、ラファエロの頭を優しく撫でた。
突然の事に訳が分からないという表情のラファエロが上目遣いでリヒトを見る。

「どうかした?」

「ありがとうな。あいつを嫌いにならないでくれて」

リヒトの言葉に一瞬キョトンとしたものの、ラファエロはすぐにいつもの人懐っこい笑みを浮かべた。

「僕、結構しつこいから、まだまだめげないよ」

――こいつ、強いな……。

「ちゃっちゃと片付けするか」

「はーい」

ラファエロは明るく返事をすると、片付けをし始めた。

―――――――――――――

翌日、いつものトレーニングメニューをこなしたリヒト達は食堂へとやって来ていた。
新人研修を終え、気が緩み始めた新人隊員達は和気あいあいと話をしている。

「イグナシオ、こっち空いてるよ」

「馴れ馴れしく話しかけるな!」

そんな食堂の雰囲気などお構いなしにイグナシオが声を荒らげた。

「厳しいなぁ~……、イグナシオは」

「悪いな」

「大丈夫だって。慣れてるから」

申し訳なさそうな表情のリヒトにラファエロが言った。

「リヒト、押してくれ」

「へいへい……」

「相変わらずだね~、イグナシオ」

不意に誰かの声がして、3人が一斉に振り返る。
すると、そこにはNOAHの制服を着たオズワルドが立っていた。

「やぁ、俺はオズワルド。オズワルド=アグエイアス。2人とは同期で、イグナシオと同じ研究員だよ」

「じゃあ、僕の先輩なんだ」

「そうなるね。けど、敬語とかは苦手だから普通に話してくれて構わないよ」

「分かった。僕はラファエロ=サヴァレーゼ、よろしくね」

ラファエロがスっと手を差し出すと、オズワルドは僅かに目を見開いた。
その様子にラファエロは「どうかした?」っとオズワルドを見上げる。

「いや、何でもないよ」

オズワルドは先程と同じ笑みを浮かべると、ラファエロの手に自身の手を重ねた。

「嫌われ者同士、気が合うみたいだな」

「イグナシオ、マジでいい加減にしろよ」

「怒んなって。つか、事実だろ」

イグナシオが2人に聞こえないトーンでリヒトに言った。

「イグナシオ、聞こえてるよ」

オズワルドがイグナシオの方に目をやる。

「オズワルドも嫌われてるの?」

「……まぁね、気にしちゃいないけど。"も"って事は君も?」

「まぁ、似たようなもんだよ。僕も慣れちゃったから、気にしてないけど」

その言葉を聞いた瞬間、オズワルドはガシっとラファエロの両手を掴み、グイッとラファエロに顔を近付けた。
仲間が見つかって嬉しいと言わんばかりのオーラに食堂にいた全員が2人に目を向ける。

「君みたいな可愛い子が嫌われてるなんて、おかしいよね?そう思わないかい?」

「可愛いかは別問題だけど、嫌われてる理由は分かってるから……」

「この世界は理不尽だとは思わないかい?ラファエロ。こんなにかっこよくて、頭もよくて、性格もいい俺がみんなから嫌われてるなんてさ」

――性格は悪いだろ、断トツで。

ラファエロの手を握ったまま、自分に都合のいい持論をペラペラと喋り出すオズワルド。
そんなオズワルドに愛想つかしていないだろうかと、恐る恐るリヒトがラファエロに目をやった。

「あはは……。オズワルドって面白いね」

しかし、そこにいたのはオズワルドの持論を聞いて、満面の笑みで笑っているラファエロだった。

――……やっぱ、可愛いな。

馬鹿にしている訳ではない、その笑みにオズワルドは気分をよくしたようでラファエロの肩を抱き、ニコニコと笑っている。

「リヒト、ちょっとラファエロを借りるけどいいかな?」

「……ラファエロ、危なくなったら逃げて来いよ」

「あれ、リヒトまで俺を危険物扱いするの?酷いなぁ……」

「さっさと連れて行けよ。清々する」

「……ラファエロ、君は偉いねぇ~」

よしよしとオズワルドがラファエロの頭を撫でる。

「あんな喋るナイフ投げマシーンにも屈しないんだから」

「お前は1回くらい屈しろ。そして、2度と持ち直すな」

「というか、君も嫌われ者って事忘れてないかな?」

「早く失せろよ」

「言われなくても行くよ」

オズワルドはラファエロに「行こうか」っと声をかけると、歩き出した。

――あいつが楽しそうに笑ってんの、初めて見たかもな。

ラファエロの背中を見送りながら、リヒトは思った。

「リヒト、イグナシオ!」

「よぉ、ミレイユ」

ラファエロとオズワルドが居なくなった直後、見計らったかのようなタイミングでミレイユが2人に話しかけてきた。

「今の見てたんだけど、イグナシオ、女の子にあんな言い方しちゃダメじゃない」

「何だよ、見てたのかよ」

「あんなに声出してたら、誰だって見ちゃうよ。しかも、あの子、すっごい可愛い子だし、嫌でも目立つって」

ミレイユが言うとイグナシオは「可愛いは余計だろうが。つか、今は関係ないだろ」っと答えた。

「リヒトは?あの子、ラファエロ……だっけ?可愛いよね?」

「話聞けよ」

「可愛いな」

「普通に答えるのかよ。つか、可愛いとか思ってたのか、あんな奴の事」

「イグナシオのセンスがおかしいんだよ」

「お前は俺を貶しに来たのか?あぁ?」

イグナシオがギロっとミレイユを睨みつける。
が、ミレイユは気にする素振りもなく、話を続ける。

「イグナシオがああいう子、嫌いなのは知ってるけど、二コも言ってたじゃない。あの子はお兄さんのコネとかで入隊したんじゃないって」

ミレイユが真っ直ぐにイグナシオを見る。

「みんなに追いつきたくて、一生懸命頑張ってる人を馬鹿にしちゃダメだって、イグナシオが一番分かってるでしょ?」

「っ………!」

「ミレイユ……」

「……なんてね。私がイグナシオに説教出来る立場じゃないけど」

ミレイユはヘラっと笑みを浮かべると、「ごめんね」っとイグナシオに謝った。
そんなミレイユにバツが悪いというように、イグナシオは目線を逸らした。

「あ、私行くね。友達と待ち合わせしてるから」

「あぁ、またな」

「うん。またね」

ミレイユはヒラヒラと手を振ると、遠くで待っていた友達の元へと走って行った。

――あいつの観察力も相変わらずだな。

「イグナシオ、行くぞ。早くしねぇと昼休憩終わる」

「……あぁ」

――ミレイユの言葉が効けばいいんだが……。

リヒトはイグナシオの車椅子を押しながら、そんな事を思っていた。
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