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第3回『鋼の心 否定 初夏』
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春、僕たちは中学2年生に進級した。
「僕たち」とは、ここでは僕と彼女を指す。
というのも僕たちは付き合い始めたからだ。
きっかけは小さかった。
クラス替えの表を見ていたら、1年のときに同じクラスで仲がよかった彼女も一緒だった。
また同じクラスだねと嬉しそうに話している彼女を見て、僕はかねてからの思いを告白した。
彼女はとても驚いていたが、次の日僕はオーケーをもらった。
僕は舞い上がりたくなるくらい嬉しかった。
彼女に会える学校が楽しみだったし、一緒に登下校も始めた。
毎日SNSをしたし、家にいるときは彼女に会いたくて仕方なかった。
初めて手をつないだときはとてもどきどきした。
そんな僕に最初に試練が訪れたのは初夏の雨の日だった。
梅雨が始まり、雨続きだった。
傘をさして登校する僕たち。
そう、僕には傘の分だけ彼女に近づけないことが苦痛だったのだ。
こんなに彼女のことが好きなのに、僕が近づけば傘がぼんっとぶつかり彼女が「傘が壊れちゃうじゃん」と笑った。
だからある日僕は傘をわざと忘れて相合傘をさせてもらう作戦を実行した。
雨の日に。
土砂降りの中お願いして彼女の傘の中に入れてもらった。
「もう、バカなんだから。」
笑いながらハンカチを貸してくれた彼女に僕は否定することができなかった。
「明日からはちゃんと自分の傘持ってきてよね。もう入れてあげないから。」
この作戦は一日で終わり、あじさいのがくはあんなに密集しているというのに僕は梅雨の間全然彼女に近づくことができなかった。
この我慢も梅雨が明ければ──僕はそう思っていた。
しかし甘かった。
衣替えとなり、制服も夏服となった。
白いシャツが空の太陽をいっそうまぶしくしていた。
僕の心も快晴だった。
なにせこれで彼女に近づけるからだ。
あの憎き傘はもういない。
朝いつもの曲がり角で待っていると、通りの向こうから彼女が走ってきた。
長い黒髪が左右に揺れていた。
「ごっめーん、今日ちょっと寝坊しちゃって。」
彼女の額には汗の玉が浮いていたが、身だしなみをセットする時間がなかったとは思えないほど今日も彼女はかわいかった。
「いいよ。さ、学校行こ。」
僕は手を差し出し彼女の手をつなごうとした。
久しぶりのホールドハンズ!
と思いきや、彼女は後ろに下がった。
「ちょ無理無理。夏私汗臭いから恥ずかしい。」
初夏傘に邪魔されて近づけなかった僕は、夏は汗のにおいのために近づいてはいけないのか。
初めてできた彼女だったので知らなかったが、女の子と付き合うというのはかくも鋼の心を要求されるものなのか。
でもまさかずっと近づけないということではないだろう。
なら少しづつ近づいていければいい。
僕の彼女を好きという気持ちはこんなもんじゃない。
その思いの強さはむしろ長期戦でこそ発揮する。
夏、僕たちは中学2年生を満喫した。
「僕たち」とは、ここでは僕と彼女を指す。
というのも僕たちは付き合い始めたからだ。
きっかけは小さかった。
クラス替えの表を見ていたら、1年のときに同じクラスで仲がよかった彼女も一緒だった。
また同じクラスだねと嬉しそうに話している彼女を見て、僕はかねてからの思いを告白した。
彼女はとても驚いていたが、次の日僕はオーケーをもらった。
僕は舞い上がりたくなるくらい嬉しかった。
彼女に会える学校が楽しみだったし、一緒に登下校も始めた。
毎日SNSをしたし、家にいるときは彼女に会いたくて仕方なかった。
初めて手をつないだときはとてもどきどきした。
そんな僕に最初に試練が訪れたのは初夏の雨の日だった。
梅雨が始まり、雨続きだった。
傘をさして登校する僕たち。
そう、僕には傘の分だけ彼女に近づけないことが苦痛だったのだ。
こんなに彼女のことが好きなのに、僕が近づけば傘がぼんっとぶつかり彼女が「傘が壊れちゃうじゃん」と笑った。
だからある日僕は傘をわざと忘れて相合傘をさせてもらう作戦を実行した。
雨の日に。
土砂降りの中お願いして彼女の傘の中に入れてもらった。
「もう、バカなんだから。」
笑いながらハンカチを貸してくれた彼女に僕は否定することができなかった。
「明日からはちゃんと自分の傘持ってきてよね。もう入れてあげないから。」
この作戦は一日で終わり、あじさいのがくはあんなに密集しているというのに僕は梅雨の間全然彼女に近づくことができなかった。
この我慢も梅雨が明ければ──僕はそう思っていた。
しかし甘かった。
衣替えとなり、制服も夏服となった。
白いシャツが空の太陽をいっそうまぶしくしていた。
僕の心も快晴だった。
なにせこれで彼女に近づけるからだ。
あの憎き傘はもういない。
朝いつもの曲がり角で待っていると、通りの向こうから彼女が走ってきた。
長い黒髪が左右に揺れていた。
「ごっめーん、今日ちょっと寝坊しちゃって。」
彼女の額には汗の玉が浮いていたが、身だしなみをセットする時間がなかったとは思えないほど今日も彼女はかわいかった。
「いいよ。さ、学校行こ。」
僕は手を差し出し彼女の手をつなごうとした。
久しぶりのホールドハンズ!
と思いきや、彼女は後ろに下がった。
「ちょ無理無理。夏私汗臭いから恥ずかしい。」
初夏傘に邪魔されて近づけなかった僕は、夏は汗のにおいのために近づいてはいけないのか。
初めてできた彼女だったので知らなかったが、女の子と付き合うというのはかくも鋼の心を要求されるものなのか。
でもまさかずっと近づけないということではないだろう。
なら少しづつ近づいていければいい。
僕の彼女を好きという気持ちはこんなもんじゃない。
その思いの強さはむしろ長期戦でこそ発揮する。
夏、僕たちは中学2年生を満喫した。
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