YouTubeのライブ配信にてガチャで決めた3つのお題で三題噺を即興で書いてます。

鉄砲E

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第11回『井の中の蛙 深海 マシンガン』

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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第回『』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約1時間13分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=1FtoEL5otzI

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

~・~・~・~・~

「あっちに逃げたぞ!」
「追え!」
普段は牛の鳴き声ばかりが聞こえる平和な農村に何台もの車が急ブレーキをかけて止まると、背広を来た男たちがどやどやと出てきた。
彼らはマフィアで、裏切者を始末するために追っている最中なのだった。
だがその裏切者も捕まれば殺されるとわかっているので必死だった。
丘を駆け柵をひらりと越えてマフィアの手から逃れようとしていた。
だが追手は何十人もいる。
彼らをまくのは容易なことではなかった。
この男が捕まり、殺されるのも時間の問題だろう。

やがて車の中で待機していた幹部に報告が届いた。
「そうか、奴を追い詰めたか。よし、そのままにしておけ。とどめは俺がさす。」
幹部はたばこを地面に投げ捨てると、部下の案内する方へ向かった。
マフィアたちは古い井戸のまわりをぐるりと囲んでいた。
幹部の姿を見ると、一人のマフィアが駆け寄ってきた。
「奴はあの井戸の中に飛び込みました。井戸の底は深いので姿は見えませんが、部下3人が見たので間違いないです。」
幹部が右手を出すと、部下は即座にを渡した。
幹部は井戸に近づきながら、を慣れた手つきで持ち直した。
「くっくっくっ。追い詰められたとはいえ井戸に逃げるとは馬鹿なやつめ。上からを撃ちまくればイチコロだぜ。」
その幹部は処刑方法の残忍さと容赦のなさで知られていたので、部下たちの間にも緊張が走った。
幹部は井戸の縁にひざをかけてマシンガンを構えた。
「ふっ。まさしくとはこのことだぜ。」
幹部は引き金に指をかけた。
あとは撃つのみである。
しかしそこはさすが長いこと裏世界で生きてきた男である。
彼は部下たちの気配が変わったことを本能的に感じ取った。
「? どうしたお前ら? 何か変じゃないか?」
幹部は井戸から顔を上げ、部下たちに向って聞いた。
どの部下も目が泳ぎ、口ごもっていた。
しかし何も言わなかったのではそれこそ幹部の逆鱗に触れる。
勇気のある部下が口を開いた。
「あ、あのってのは……。」
「なんだ貴様ら。全員知らないのか。ことわざだぞ。」
「い、いえ。それは知ってるんですが……。この場合ちょっと違うような……。」
幹部は驚いた。
「何だと? 追い詰められて逃げられないという意味じゃないのか?」
「は、はい。世の中のことを知らずに自分の生きてる世界のことしか知らないという意味でして……。幹部がおっしゃりたいのは袋のネズミじゃないかと……。」
幹部の顔はみるみる赤くなっていった。
「そ、そうなのか……?」
「は、はい……。」
そばにいたもう一人の部下が答えた。
「み、みんな知ってたのか……?」
回りを囲んでいた部下たちはお互いの顔を見合わせながらゆっくりとうなづいた。
「くっ!」
幹部はうなだれた。
「俺はマフィアの世界でのし上がっていい気になってたが、ことわざ一つ満足に知らないだったというのか!」
一呼吸置くと幹部は顔を上げて部下に少し低い声で聞いた。
「今の使い方は合ってるよな……?」
「ば、ばっちりです!」
返事が遅れてしまった部下はその埋め合わせをするかのように元気よく答えた。
「こ、このことわざには続きがあったよな。いや、言わなくていい!」
部下が口を開こうとするや幹部は即座に手のひらを出し静止した。
そして井戸に向って叫んだ。
「おい、今の会話聞こえてただろ? お前はこの続き知ってるか?しってるかってるかてるかるかぁかぁ。」
幹部の声が井戸の中で何回か反響した後、底から男の声が聞こえてきた。
を知らずしらずしらずらずずぅずぅずー。」
幹部は井戸の縁に拳を叩いた。
「そうか、には人間でさえ見たことのない未知の生物がたくさんいるもんなあ! そりゃあ井戸の外に出たことのない蛙が知ってるわけないよなあ!よくできてることわざだぜ!」
幹部は続けて二度三度と縁を叩いた。
「あ、あのそれも間違いです。正解は大海を知らずです。む、昔の人はなんて知らんでしょう。」
幹部はとっさに部下の顔を見た。
部下は嘘を言っている顔ではなかった。
続いて他の部下の顔を見ると、彼らも次々とうなづいた。
幹部の顔に笑顔が戻ってきたとき、井戸から裏切者がおずおずと出てきた。
あっと思い、部下たちは銃を構えた。
裏切者の顔は泥で汚れているものの真っ赤になっていることは誰の目にも分かった。
「ち、超恥ずかしい……。一思いに俺を殺してくれ……。」
裏切者が震えるような声で懇願すると、幹部は彼を抱きしめた。
「馬鹿野郎! 何が恥ずかしいだ! だろっ? 惜しいじゃないか! 海ってことは憶えてたんだ! だいたい正解だよ! 胸を張って生きろよ!」
裏切者の目には涙があふれてきた。
「お、俺生きてていいのかな……。この程度のことわざも知らなかったのに……。」
「当り前だよ! これから勉強していけばいいじゃないか!」
幹部がさらに強く抱きしめると、裏切者もゆっくりと幹部の肩に手を回した。
静かな農村には牛の鳴き声と二人の男の嗚咽をもらして泣く声がいつまでもいつまでも響いていた。
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