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第141回『三つ編み 借り物競争 心臓』

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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第141回『三つ編み 借り物競争 心臓』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約48分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=L2x8UANgunw

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

~・~・~・~・~

うちの会社の取引先には一風変わった人がいる。
というより触れていいものなのかわからない。
いや、昨今の性差の自由を尊重すべしという風潮を考えると、あまり変な目で見るのもよくないのかもしれない。
その人は僕よりも二回り近く年上の、いわゆるおじさんなのだが、髪型がなのだ。
漫画などに出てくる拳法の達人みたいのをワンチャン連想するかもしれないが、とてもそういうものではない。
あれは明らかに女性ファッション誌などに出てくるようなおしゃれでかわいらしいだ。
繰り返そう。
おじさんだ。

「こんにちは、笠井さん。お待たせしちゃいましたかね。」
「とんでもないです。お忙しそうでなによりです、徳山さん。」
徳山さんがを揺らせて商談の席に着いた。
「うちへいらっしゃってくださったのはこれで2回目ですよね。少しは慣れましたか?」
徳山さんが僕の差し出した資料をめくりながら、話題を振った。
沈黙を避けるための、そしてまた、まだ緊張がほどけていない僕への配慮だった。
「はい。先輩が丁寧に引継ぎをしてくれたおかげで、なんとか。」
そう言いつつもやはり僕はここからは見えない徳山さんの背後にぶら下がっているが気になっていた。
異様であることは正面から見てもわかる。
他の社員はなぜ気にせずに仕事をできるのか不思議でならなかった。
「うんうん、いい先輩を持ちましたね。確かに彼もとてもいいお取引ができる方でした。」
徳山さんは満足げに笑っていたが、その笑顔は資料の方にも向けられているようなので僕は少しほっとした。
「結構です。今回もこの資料通りでの納品をよろしくお願いいたします。」
資料を一通りめくり終わったと同時に徳山さんは深々と頭を下げた。
商談が成功したので喜ぶべきところだが、徳山さんがお辞儀をしてくれたおかげで僕には徳山さんのが目に入った。
「あ、、前任の方からは聞いてません?」
僕の表情を見て察した徳山さんが、自ら僕の疑問へと話題を振った。
「はい。先輩からは何も聞いておりませんね。」
すると徳山さんは困り顔で笑った。
「そうですか。僕に気を遣ってくれてたのかもしれませんね。だとしたら笠井さんも今まで気になって仕方なかったでしょう。これはご迷惑を。」
そう言って徳山さんは再びお辞儀をしてを揺らした。
「私はね、以前の移植手術を受けたことがあるんですよ。」
予想外の深刻な話に僕は体が固まったが、徳山さんはそのまま普段と変わらない様子で話を続けた。
に前の持ち主の心が宿っているというのが本当なのかわかりませんが、私はそれ以来をしたくて仕方ない人間になったんです。」
僕は横目で会社の人たちを見て、納得が行った。
「でもまあそんな暗い話じゃないですよ。だって人生はだいたいだと思うんです。僕はドナーからを借りてますが、うちの会社はそちらから技術を借りているようなものです。」
そう言って徳山さんは先ほど僕が提出した資料に手を置いた。
「そうですね。僕もこのお取引は最初に成約させた先輩から借りているようなものですし。むろん、いずれ僕の仕事にさせてもらうつもりですが。」
その意気ですと言って、徳山さんは笑った。
「最初は驚かれたでしょう? やはり似合ってませんかね?」
徳山さんが少し顔をそむけて、を僕に見せつけながらなでた。
少し遊ばせた先端をくくるヘアゴム、きれいに編みこまれた髪、そしてその土台となっているのは50代と思われるおじさんの顔。
「はい、全然似合ってないと思います。徳山さんだってそこはおわかりになってるでしょう?」
僕は正直に言うことにした。
「それでもにするなんてハートが強すぎます。徳山さん、いいをお借りになりましたね。」
徳山さんはだろ?と言って歯を見せて笑った。

~・~・~・~・~

~感想~
お題の借り物競争と心臓から置く手術を連想しました。
文中にも書いていますが、最近は性差の自由の観点からこういうことを書くときは入念な配慮が要りますね。

当初心臓に毛が生えているみたいなセリフも入れる予定だったのですが、テンポが悪くなりそうだったのでやめました。
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