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第7章
帰還
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ふと目覚めると、地面に突っ伏していた。辺りを見渡すと、群衆に囲まれている。
ここは、ゼータタワーの前。そばに、愛用のミニトラックもある。一体、何が起きたのか?
確か、最後の記憶は、王からの親書を渡し、激痛とともに、意識が遠のき・・・
そうか。皇帝の指示で、殺されたのか。しかし、まだこうして生きている。状況が、全く読めない。
仕方なく、目が合った群衆の一人に、何が起きたのか教えてもらおうと近づいたが、途端に囲っていた輪が解けて、みんな散り散りに去っていった。
そして、代わりに、ゼータタワーの門番が、血相を変えて走ってきた。そして、一言。
「貴様! 何故まだ生きている! 剣を突き立てられ、捨てられたのに、傷跡も剣もないし、死亡が確認されたはず・・・」
段々威勢のよさが無くなり、最後には、消えそうな声だった。
フランソワは、
「もう一度、皇帝に会いたい」
と伝えたが、
「正気か⁉ 今刺されたばかりだぞ。もう一度行って、また刺されたら、流石に蘇えるなんて、できないだろうが! せっかく蘇った大事な命を、粗末にするな。悪いことは言わん。国へ帰れ」
「いや、刺されてでも、もう一度行かなければ、手ぶらで帰ったら、どの道殺され
るんだ!」
「お前、どれだけ大変な宿命を背負っているんだよ・・・分かった。もう一度、謁見できるように、働きかけてやるよ・・・」
どうやら、柄にもなく同情されているようだ。
再び、ゼータタワー内に入れてもらうと、また、形だけの身体検査に続いて、謁見の間に通された。皇帝は、兵士に指示を出していたが、フランソワを見た途端に、目を見開いた。
「なに? 貴様、ぴんぴんしているだと・・・」
「閣下。もうこの堂々巡りも、長期にわたる戦争もやめましょう。いつも、被害を被るのは、両国民です」
「お前に何が分かる? こちらは、もう勝利が目の前なんだぞ? それとも、お前が何回生き返るか、ためしてみるか?」
皇帝が、ここまで冷たい人間だとは、思わなかった。フランソアは、思案を巡らせ、
「私は、ある村で、家屋が全て破壊され、後には草木も生えない状況を見てきました。戦争の最前線では、そういった悲惨なことが行われているのです。閣下は、その凄惨さを、見てこられているのでしょうか?」
「関係ない。それに、やらなければ、やられる。それが、戦争だ」
「私は、これまで、戦争とは無縁の、小さな町でお花屋を営んでいました。戦争のない世界は、とても良いものです。毎日、笑顔と安心感の絶えない世界。
いっそ、停戦だけではなく、シュラーデン王国と、友好関係を築いてみては、いかがでしょうか? 王には、私から説得いたします」
「良く分からんやつだな。貴様、王国の使者として来ているのに、戦争とは、無縁の世界で生きてきただと?」
「はい。私は、王国の人間ではありません」
「死んだはずなのに蘇ったり、王国の使者として、ここに来てみたり。お前の話を聞いていると、頭が痛くなる。
・・・とりあえず、今は帰れ。後で、使いの者を送り、返事をする」
「お騒がせいたしました。では、失礼いたします」
やれることは、やった。後は、良い返事を待つのみ。フランソアは、ミニトラックに乗りこみ、王国を目指して、再び走らせた。
道中、チラッと時計を見ると、あまり時間は残っていなかったが、何故だか大きな達成感。そして、この世界のマリーを救い、元の世界に帰ることができる! そんな確信があった。根拠はない。これは、どこまでも感覚的な自信だった。
無事にお城の前に到着し、入口へ向かうと、門番たちは、無言でドアを開け、謁見の間へと向かった。
兵士に連れられて謁見の間に通されると、奥にはイライラした王が居た。
マリーの姿は、そこにはなかった。また地下牢に戻されたのだろうか?早速、王様が口を開いた。
「それで? 無条件での停戦は決まったのか?」
「いえ、これから使者を送って、返事をするとのことでした」
「ええい! 役に立たん。こいつを、地下牢に収監しろ!」
兵士がフランソアの腕をつかみ、連行しようとしたとき、謁見の間に兵士が一人入ってきた。息を切らしており、
「申し上げます。今しがた、ゼータ帝国から、使者が到着しました。お会いになりますか?」
と、通達した。王は、一度フランソアの方を見やり、
「通せ」
と許可を出した。
この緊迫した場面。流石に、フランソアも緊張した。そんな中、ゼータ帝国の使者は、悠々と謁見の間に入り、一礼。近くの兵士に親書を渡した。兵士から親書を受け取った王は、読み始めてすぐに、
「停戦合意だ!」
と叫んだ。その厳しい表情は崩さなかったが、肩の荷が下りたように、深くため息をついた。
フランソワも拘束が解け、ゼータ帝国の使者が帰るのと入れ替わりに、マリーが、「あの」花束を抱えて姿を現した。フランソアは、全身の力が抜け、その場にへたり込んだ。それが、王の目にも留まり、
「よくやった。花屋よ。もう帰っても良いぞ」
と、ねぎらった。
それに続き、
「同盟打診だと!」
という声が聞こえた。
フランソワは、立ち上がり、マリーと共に城を後にした。あとは、来た道を辿るだけだ。こんな達成感に包まれたのは、勿論、生まれて初めてのことだった。
ミニトラックに乗りこむと、おしゃべりなマリーが、話し始めた。
「あなたは、本当にすごいわ! 私、もうあなたが殺されるんじゃないかと、地下牢で怖い思いばかりしていた。でも、この長かった戦争も終わって、あなたは英雄になったわね。私も、助けられた」
嬉しい言葉だった。しかし、フランソワは、このマリーとお別れして、元の世界に帰らなければならない。マリーも、それは重々承知のはずだ。
「マリー。僕は」
「分かってる。あちらの世界のライアンと、私のために帰るんでしょ? それでも、こんな短い時間だったけど、来てくれて良かった。あなたは、この世界では、英雄なのよ」
「ありがとう、マリー。君は、どこの世界に居ても、優しいね。だけど、僕は帰るよ。元の世界に」
そう話すうちに、この世界の「Sunsevery」に到着した。フランソワは、マリーから、大事な花束を受け取り、
「短い間だったけど、辛い思いをしてまで、付いて来てくれてありがとう」
と手を差し出した。握手で別れようとしたが、マリーは両手で大事そうに包み込み、額まで持ち上げた。そして、祈るように目を閉じ、
「こちらこそありがとう。もし、あちらの世界に帰っても、お花屋さんを続けてね」
と、呟くように返事をくれた。
フランソワは、ミニトラックを置いて、歩いてシュラーデン王国を出た。
向こうでは、マリーが手を振っている。大きく手を振り返すと、もう振り返らないと決め、前をまっすぐ見据え、力強く歩を進めた。元居た世界に、帰るんだ!
ここは、ゼータタワーの前。そばに、愛用のミニトラックもある。一体、何が起きたのか?
確か、最後の記憶は、王からの親書を渡し、激痛とともに、意識が遠のき・・・
そうか。皇帝の指示で、殺されたのか。しかし、まだこうして生きている。状況が、全く読めない。
仕方なく、目が合った群衆の一人に、何が起きたのか教えてもらおうと近づいたが、途端に囲っていた輪が解けて、みんな散り散りに去っていった。
そして、代わりに、ゼータタワーの門番が、血相を変えて走ってきた。そして、一言。
「貴様! 何故まだ生きている! 剣を突き立てられ、捨てられたのに、傷跡も剣もないし、死亡が確認されたはず・・・」
段々威勢のよさが無くなり、最後には、消えそうな声だった。
フランソワは、
「もう一度、皇帝に会いたい」
と伝えたが、
「正気か⁉ 今刺されたばかりだぞ。もう一度行って、また刺されたら、流石に蘇えるなんて、できないだろうが! せっかく蘇った大事な命を、粗末にするな。悪いことは言わん。国へ帰れ」
「いや、刺されてでも、もう一度行かなければ、手ぶらで帰ったら、どの道殺され
るんだ!」
「お前、どれだけ大変な宿命を背負っているんだよ・・・分かった。もう一度、謁見できるように、働きかけてやるよ・・・」
どうやら、柄にもなく同情されているようだ。
再び、ゼータタワー内に入れてもらうと、また、形だけの身体検査に続いて、謁見の間に通された。皇帝は、兵士に指示を出していたが、フランソワを見た途端に、目を見開いた。
「なに? 貴様、ぴんぴんしているだと・・・」
「閣下。もうこの堂々巡りも、長期にわたる戦争もやめましょう。いつも、被害を被るのは、両国民です」
「お前に何が分かる? こちらは、もう勝利が目の前なんだぞ? それとも、お前が何回生き返るか、ためしてみるか?」
皇帝が、ここまで冷たい人間だとは、思わなかった。フランソアは、思案を巡らせ、
「私は、ある村で、家屋が全て破壊され、後には草木も生えない状況を見てきました。戦争の最前線では、そういった悲惨なことが行われているのです。閣下は、その凄惨さを、見てこられているのでしょうか?」
「関係ない。それに、やらなければ、やられる。それが、戦争だ」
「私は、これまで、戦争とは無縁の、小さな町でお花屋を営んでいました。戦争のない世界は、とても良いものです。毎日、笑顔と安心感の絶えない世界。
いっそ、停戦だけではなく、シュラーデン王国と、友好関係を築いてみては、いかがでしょうか? 王には、私から説得いたします」
「良く分からんやつだな。貴様、王国の使者として来ているのに、戦争とは、無縁の世界で生きてきただと?」
「はい。私は、王国の人間ではありません」
「死んだはずなのに蘇ったり、王国の使者として、ここに来てみたり。お前の話を聞いていると、頭が痛くなる。
・・・とりあえず、今は帰れ。後で、使いの者を送り、返事をする」
「お騒がせいたしました。では、失礼いたします」
やれることは、やった。後は、良い返事を待つのみ。フランソアは、ミニトラックに乗りこみ、王国を目指して、再び走らせた。
道中、チラッと時計を見ると、あまり時間は残っていなかったが、何故だか大きな達成感。そして、この世界のマリーを救い、元の世界に帰ることができる! そんな確信があった。根拠はない。これは、どこまでも感覚的な自信だった。
無事にお城の前に到着し、入口へ向かうと、門番たちは、無言でドアを開け、謁見の間へと向かった。
兵士に連れられて謁見の間に通されると、奥にはイライラした王が居た。
マリーの姿は、そこにはなかった。また地下牢に戻されたのだろうか?早速、王様が口を開いた。
「それで? 無条件での停戦は決まったのか?」
「いえ、これから使者を送って、返事をするとのことでした」
「ええい! 役に立たん。こいつを、地下牢に収監しろ!」
兵士がフランソアの腕をつかみ、連行しようとしたとき、謁見の間に兵士が一人入ってきた。息を切らしており、
「申し上げます。今しがた、ゼータ帝国から、使者が到着しました。お会いになりますか?」
と、通達した。王は、一度フランソアの方を見やり、
「通せ」
と許可を出した。
この緊迫した場面。流石に、フランソアも緊張した。そんな中、ゼータ帝国の使者は、悠々と謁見の間に入り、一礼。近くの兵士に親書を渡した。兵士から親書を受け取った王は、読み始めてすぐに、
「停戦合意だ!」
と叫んだ。その厳しい表情は崩さなかったが、肩の荷が下りたように、深くため息をついた。
フランソワも拘束が解け、ゼータ帝国の使者が帰るのと入れ替わりに、マリーが、「あの」花束を抱えて姿を現した。フランソアは、全身の力が抜け、その場にへたり込んだ。それが、王の目にも留まり、
「よくやった。花屋よ。もう帰っても良いぞ」
と、ねぎらった。
それに続き、
「同盟打診だと!」
という声が聞こえた。
フランソワは、立ち上がり、マリーと共に城を後にした。あとは、来た道を辿るだけだ。こんな達成感に包まれたのは、勿論、生まれて初めてのことだった。
ミニトラックに乗りこむと、おしゃべりなマリーが、話し始めた。
「あなたは、本当にすごいわ! 私、もうあなたが殺されるんじゃないかと、地下牢で怖い思いばかりしていた。でも、この長かった戦争も終わって、あなたは英雄になったわね。私も、助けられた」
嬉しい言葉だった。しかし、フランソワは、このマリーとお別れして、元の世界に帰らなければならない。マリーも、それは重々承知のはずだ。
「マリー。僕は」
「分かってる。あちらの世界のライアンと、私のために帰るんでしょ? それでも、こんな短い時間だったけど、来てくれて良かった。あなたは、この世界では、英雄なのよ」
「ありがとう、マリー。君は、どこの世界に居ても、優しいね。だけど、僕は帰るよ。元の世界に」
そう話すうちに、この世界の「Sunsevery」に到着した。フランソワは、マリーから、大事な花束を受け取り、
「短い間だったけど、辛い思いをしてまで、付いて来てくれてありがとう」
と手を差し出した。握手で別れようとしたが、マリーは両手で大事そうに包み込み、額まで持ち上げた。そして、祈るように目を閉じ、
「こちらこそありがとう。もし、あちらの世界に帰っても、お花屋さんを続けてね」
と、呟くように返事をくれた。
フランソワは、ミニトラックを置いて、歩いてシュラーデン王国を出た。
向こうでは、マリーが手を振っている。大きく手を振り返すと、もう振り返らないと決め、前をまっすぐ見据え、力強く歩を進めた。元居た世界に、帰るんだ!
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