初めに戻って繰り返す

都山光

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1章:外伝

1章外伝1.2ー①…その頃の召喚組『寝落ちた私を殴ってやりたい』

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これは此花惶真コノハナオウマがエルドラの町に辿り着くまでにあったクラスメイト達の様子である。
主に咲夜視点でお送りします。
召喚初日と二日目です――

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アルテシア王国。
地球と異なる世界、いわゆる異世界に存在する国の名称である。
この異世界の名は【パルティス】と呼ばれている。

アルテシア王国はパルティスの南方にある大陸にある王制国家だ。
王国の歴史は古くからありこのパルティスにおいても一目置かれている国でもある。
それはこの王国の成り立ちが大きい。
この国は数百年もの昔、1人の青年が起こし発展させた国なのだ。
その青年は、その時代、人間に敵対していた種族、長い寿命を有し高い魔力を持つ魔人族。
その魔人達を率いていた存在を【魔王】と呼ぶ。
【魔王】は強力な力を有しており、通常魔物を使役する事は出来ないと言われていたのだが、【魔王】は崇拝せし、今では【反逆の神】と言われている【魔の神】から得たその力で多くの魔物を使役し人間に戦いを挑んだ。
しかも【魔王】と呼ばれし存在には誰にも倒す事が出来ない秘密があった。
それは【魔王】は如何なる武器や魔法を持ってしても致命傷を与える事が出来ないと言う事だった。
【魔王】を倒す事は出来ない。
はずだった―――。
そう、その青年が不可能を可能にして見せた。
青年は【魔王】を打倒したのだ。
青年がその手にした光輝く神々しい一振りの剣、今で言う”聖剣”を用い【魔王】に致命傷を与え打倒した。
【魔王】は勿論、魔人族の者達は信じられないと言う面持ちだったそうだ。
魔人族達は【魔王】と言う旗頭を失い青年が率いる軍勢に押され撤退を余儀なくされた。
パルティスの最も東方にある大陸、ヤハンテイムスに引き下がった。

魔王軍の脅威を退けた人間達は、その魔王の脅威を払った功労者である青年を称えた。
青年は人々から英雄と称えられた。
その青年は戦いの、【魔王】を討った後、魔王の打倒に成功した大きな要因であった【聖剣】を探し求めた。
何故か【魔王】を討った後、【聖剣】は青年の手から離れ何処へと転移し消えたのだ。
役割を終えたからかは不明だったが、青年は求めた。
そして青年は見つけたのだ。
魔王殺しの聖剣、魔を払いし聖剣、人々がそう呼ぶ【聖剣】を。

【聖剣】は人々と魔人族達との戦いで荒れ果てたパルティスの南方の大陸、アステリアヌス大陸のとある場所にあったのだ。
見つけた青年は『やっと見つけたよ』と喜びに奮えた。
しかし問題が発生したのだ。
その問題とは、誰にも聖剣を抜く事が出来ない、と言う事だった。
もちろん嘗てその手にした青年もであった。
【聖剣】はその地の台座から動かす事が出来なかった。
困った末に青年はこの【聖剣】を奉り新たな、何時か現れる者の為にと、その地を中心に一つの国を創った。
そして青年は創りし国の王となった。
その国こそがアルテシア王国であり、王国建国の始まりであった。



「とまあ、これが今君達がいるこの王国の成り立ちなのだ。この後も青年の、アルテシア初代国王が統治し導いてきたのです」
「ふぅん…」

この世界に召喚された次の日。咲夜達召喚者は朝食の後、まずこの世界の歴史や成り立ち、そしてこの国の始まりを聞かされていた。
殆どの生徒が『えぇ!異世界に来て勉強ぉ!』と不満だった。
まあその不満は『皆ここは俺達が今までいた世界じゃないんだ!そして俺達はこの世界でしばらくは過す必要がある。ならこの世界の事を知っている事は決して無駄なことじゃないだろ!』と、金髪爽やかイケメンでクラスの代表となっている【勇者】神童正儀が諭した。
皆も『神童が言うなら仕方ないか…』『そうだな、仕方ないか』とか、『きゃー、やっぱりカッコいい正儀君』等、女性陣から黄色い視線を向けていた。
勿論正儀の従妹である咲夜は違うけども。
小声で『ウザいわ~』と呟いていた。

そして今もこうして歴史について話しているが、咲夜は話半分で聞いていた。
正直咲夜にはこの世界の成り立ちも、この国の事も、どうでも良いと思っていた。
それよりも咲夜の大半はこの場にいない一人のクラスメイトの少年の事が浮かんでいた。

その少年はクラスの人からは何故かクウハク君やら名無し君と呼ばれている不思議な少年だった。聞く所によると彼の名前を聞いても何故か頭の中から消えて行くみたいだった。
故に誰も彼の本名を知る者はいない。
あの時……クロノカードを見た際にも、彼の黒いカードには「 」空欄と名前の所がそうなっていた。
しかもどう言う訳か彼は、自分達クラスの29名が”女神の加護”と呼ばれる【固有能力】を得ていたのだが、彼だけ”女神の加護”を有していなかったのだ。

彼のカードの確認をした時、咲夜は彼の、名無し君の顔を見た。その表情は困惑している様に見える。当然だろう。皆が所有しているはずの能力やステータスが彼だけないのだ。困惑しない方が不可思議だ。
しかし、咲夜はこの彼の表情に、(何か隠してる?)と、直感で感じていた。
実際咲夜の直感は当たっていた。

彼のクロノカードと言うより、彼自身の能力や、”女神の加護”を所持していない事で問題になった。
この国の騎士長を務めており、今後自分達召喚者の戦闘面の指導をしてくれるヴァレンシュ騎士長は、この国の姫であるステラリーシェ姫(長いからと本人からステラと呼んでよいと言われている)を呼んだ。
呼ぶまでの間、問題のなかった咲夜達はその場に現れたメイドの女性の案内で、それぞれ一つづつ部屋が用意されているらしく、その部屋に案内される事になった。
咲夜はこの場に残るつもりだった。彼の今後が気になっていたからだ。
残るつもりだったのは咲夜だけでなかった。
咲夜の従兄である正儀と、クラスの担任にして召喚された中で唯一の大人である繚乱花恋リョウランカレンの2人だった。
しかし世界を越えるなんて超常現象の影響もあり、咲夜達の身体に負担が見られていた。
それを見越して各部屋への案内と言う配慮だろう。
ヴァレンシュに『悪いようにしないから』と、そして張本人である彼が行くように言われると流石にこれ以上我が儘を言える様ではなかった。
正儀も花恋も心配そうではあるが『大丈夫』そう言う彼の言葉に頷き自室になる場所に案内された。
咲夜も致し方なしとこの場を離れる。
この時の咲夜は何か予感めいたものを感じていた。
それは次の日の朝。
朝食の場で知る事になった。

咲夜は部屋に案内され中に入る。
一人で暮らすには十分なスペースに机や椅子、本棚、そしてベッドが備え付けられていた。
咲夜は『まあまあね…』と声にしてある事に気付いた。それは窓から見える外の景色だった。

「あら…ふぅん。外はもう夕焼け空なのね。なるほど、時間の流れが少し違うのね。面白いわ」

召喚された時はまだ朝の時間だった。
召喚されて数時間。日が落ちるにはまだ早い。
しかし窓から見える光景は夕焼け空だ。
しかも日は落ちてきている。つまりもう少しで夜になると言う事だった。

「……困ったわね。気になって仕方ないわ…」

窓に手を置きながら外を見つつやはり彼の事が気掛かりだった。
自分でもよく分かっていない気持ち。どうしてここまで彼に興味を抱くのか。
咲夜は不思議な彼をもっと知りたいと願っていた。
この後こっそり抜け出し彼の動向を知ろうかな、なんて考えていた。
そうして彼の事を考えていたのだが、ふと眠気が襲ってきた。
どうやら召喚の際の影響の負荷が思っていたよりあったようだった。
彼の事は気になるが咲夜は襲い来る眠気に抗えず、フカフカのベッドにダイブする様に入ると、そのまま朝にメイドの人に呼ばれるまでぐっすり夢の中に入っていくのだった。



そして次の朝。

(まったく…昨日の私をしばいてしまいたいわ、ほんと…)

睡眠の誘惑に負け寝落ちてしまうなんて、自分に本当に呆れ果てる咲夜。
聞く所によるとクラスの全員が咲夜と同様に寝落ちた状態だったので、やはり召喚の影響はあったと言う事の様だ。
そんな呆れ果てる失態をしてしまった自分に、追い打ちをかける出来事をこの後待っており、昨日の自分を殴ってやりたいと本気で思った。

クラスの者達は朝に案内された大きな食堂に集められた。
咲夜は直ぐに”彼”の姿を探した。
しかし彼の姿はこの場になかった。

「咲夜!彼を見なかった?」
「いいえ。私も探したけど見当たらないわ…」

正儀も探した様だがやはりこの場に見当たらないようだった。
どういう事なのか、と、そしてそれを知る唯一の人物に目を向けた。

「ヴァレンシュ騎士長!彼は何処にいるんですか?」
「騎士長、彼は何故此処にいないのかしら?」
「……それに関して、この後説明するつもりだ。とりあえず席についてくれ。食事をしながら今後について、そして”彼”について説明するのでな」

そう言われ何得出来ていない面持ちのまま咲夜と正儀も仕方ないと席に着く。この時、咲夜は内心焦りに満ちていた。
もしかしたら…と。

全員が席に着いた後、ヴァレンシュはまず先程2人に問われた件を話し始めた。
その内容は、彼にはやはり”女神の加護”を有している可能性はないとステラ姫の立会いの元確認した。そして今後に関して彼に相談した所、彼はこの城に留まるより城下で過ごしこの世界に触れていたい、とそう告げられたのだ。そして彼は今城下の宿屋、無論安全性の高く信用のある場所を提供したとの事だった。
周囲のクラスメイトは彼が外にいる事にいいなとか言っていたが、咲夜の焦りは更に高まっていた。

(まいったわね…彼、行動が速いわ……それにしても気になるわ…)

よもやその日の内に此処で出るとは、と嫌な予感が当たり焦ると同時に、どうして彼は平然としていたのだろうか?と言う疑問が浮かぶ。
自分達は召喚の影響もありすぐ寝落ちしてしまった。
もしかしたらヴァレンシュが言っていた宿屋に着いてすぐ寝落ちたのかもしれない。
それを確認する術は今のところないのだが。
だけど少なくとも自分達が寝落ちた時間帯には活動していたのは間違いないようだ。
やはり何か隠していると、咲夜はそう思った。



朝食でこの後の予定を聞いた後、広い講堂に案内された。
長方形の3人くらいで腰掛けられる机と椅子。
奥には黒板がありその前に教壇の様な机があった。
ここは騎士団の者達が会議を行う場所らしい。

席に着くように促された。席は三列三席ずつなので、3名ずつ座った。
咲夜は「ねぇ、神童さん。一緒に座らない?」と特に男子から誘われたけど断った。
今は考え事で一杯なので一人で居たかったのだ。

適当な席に着いた。
ブツブツと考え事をしていると、隣に一人の女子が座った。
咲夜は「ん?」と隣に目を向けた。
座った女子は、肩くらいの長さの髪に、鋭さのある目をしていた。
どこか面倒さを醸し出している。そんな人だと咲夜は思った。

「ん、なに?文句ある、ここに座るの」

咲夜の視線に気付いた女子、名前は相楽命と言う、はキッと睨む。
咲夜は「何でもないわ。良いわよ気にしないから」と命から前に視線を戻しながらそう言った。
そのあと、学者のような恰好をした人がこの世界の大陸について、人間と魔人族との争いについて、今自分達がいるこの国の歴史、に関して説明を始めた。
時間にして2時間程。
その間、咲夜は必要そうな情報や関心事以外は無視して”名無し君”の事を考えに耽っていたのだった。
それは”彼”がこの後どうするか。
”彼”、名無し君は絶対この国を早々に出て行く。
彼は恐らく外の世界に興味を持っている。そう思っていた。
なぜなら”彼”は咲夜に似た部分があったからだ。

焦りを隠しながら最後にこの世界の神話と成り立ちを聞いていく。

「この世界は二柱の神によって創世されました。【創造神】、そして【破壊神】。その二柱の神によって生み出されたのです。伝承によれば彼等二柱は創世後、自らの絶対領域にて眠りに就いたと言われています」

それを聞いて(何処も一緒なんだな…)と思う咲夜達。
なんかの創世記みたいだなと思った。

「そして後のこの地を統治し導いた存在がいるのです。その存在こそが皆さんをこの世界に召喚する方法を”神託”と言う形で伝えた者達なのです」

話によれば勝手に他所の人間を攫う方法を伝えた傍迷惑な存在。
その存在はこの世界では神、そして女神と呼ばれているようですね。
神、そして女神と呼ばれた存在は全部で12人。
咲夜達を異世界召喚なんてさせる方法を伝えた”神託”を司る女神【アテネ】。
武神の異名を持ち輝かしい正しき剣を有する”正義”を司る神【ジュノー】。
愛する大切さを説く事で有名な”愛”を司る女神【シュトレー】。
神々の中で何よりも罪と罰を許さない”法”を司る女神【フレイ】。
物創りの神と知られており咲夜達が有するクロノカード等のアーティファクトを生み出したとされる“創藏” を司る神【クロノ】。
あらゆる不浄を清めアルテシアとは別の大陸の神殿にその名が奉られている“浄化” を司る女神【ネクロバレー】。
神々の中で最も大柄で粗暴な面を有する力自慢の“万物” を司る神【ゴレイヌ】。

…“万物” を司る神【ゴレイヌ】の説明を聞いたこの時、クラスメイトの殆どが(なんか似てる)と剛田の方に目を向けていた。無論本人に気付かれない程度にである。

自然界のバランスを保つことを至上とする“自然” を司る女神【レクリス】。この世界にいる人間、魔人のほかに獣人が存在しておりかの女神が始祖であると言われている。
この世に存在する物質を掛け混ぜ新たな理として反映させる事が出来たとされる“融解” を司る神【ユウゴ】。
神々の中で最も知識を持ち、人々に学びの大切さを説いたとされる“博識” を司る女神【ウテナ】。かの女神は”神託”の女神【アテネ】の妹と謂われている。
世界の負の面、災いを呼ぶと恐れられている“災禍” を司る女神【エーテリアヌス】。

「……」
「?」

11人目の紹介を伝えた後で何故か口を閉ざす。皆どうしたのだろうか?と不思議がる。

「…最後の一人。この名はこの世界で最も罪深いとされる神。今後君達の敵となる魔人族の始祖である“魔” を司る神。その名を口にするのは禁忌とされているその名。その名は【オコノウハナマ】と言われている」
「……【オコノウハナマ】」

その名を告げられクラスメイト達は「変な名前だな」と感想を思うのみだったが、その中で二人だけその名をじっくりと噛み締める様に呟く者がいた。
神童咲夜、そして神童正儀の二人である。

「どうしてその”魔”の神は忌み嫌われているのですか?」

正儀が質問した。

「…それは、”魔”の神が他の神々を裏切った大罪の神だからと伝えられている」
「…裏切っ、た…」
「そうです。ある時、”魔”の神は下界に降臨するとその場にいた人々を虐殺したとも言われています。そして何より罪深いのが神々に反旗を翻しこの世界では有名な物語として伝えられている”神話戦争”を起こしたとされているのです」
「神話戦争?」

【神話戦争】
それは”魔”の神によって操られた6人の女神たちと共に、”神託”の女神【アテネ】や他の神々に戦いを挑み、神々の住まう領域【天域】を支配しようとしたのです。人間の協力を得た”神託”の女神【アテネ】を筆頭とした軍勢が”魔”の神を打倒したとされている。多くの神々と人間達の犠牲の上に。

「この戦争後”神託”の女神を除く全ての神々がその姿を見せる事が無くなったのです。しかも、”神託”の女神も下界に干渉する術を失ったのか自身の意思のみを伝える事がやっとなのです。また、この神話戦争の果てに、”魔”の神を信仰している魔人族との諍いが多くなり武力衝突にも発展する事にもなった。無論戦いにより犠牲と自然の破壊は進んだのは言わなくても分かると思う」

(…なるほど、ね。……”魔”の神、か…)

咲夜はその話を聞いて”魔”の神に興味を示した。

「ねぇ?その”魔神”に操られたって女神は何人いたの?」
「ん?あぁ、【アテネ】を除く計6名の女神全員だね」
「ふぅん……」

(何か胡散臭い感じがするわね。”魔神”が戦争を起こした切っ掛けも曖昧だし。何か裏でもあるんじゃないかしら。もしかして…。それに…)

咲夜は”神託”の女神にも疑問視する様になっていた。
なぜ他の女神達が”魔”の神に操られたのに”神託”の女神だけがなぜ操られる事がなかったのか不思議だった。

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