初めに戻って繰り返す

都山光

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1章:外伝

1章外伝3ー①…その頃の召喚組『咲夜と白の魔導師』

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地球とは異なる世界パルティスに召喚されて3日。
此花惶真コノハナオウマはアルテシア王国を出て北西部に存在するエルドラと言う町で冒険者登録をする為にと目指し、そして目の前にそびえる森地帯に向かい、その森にて惶真達クラスメイトが召喚される要因となっている、幼い姿(128歳)をした魔人族の双子姉妹、マナ・リアとカナ・リアと出逢い、その二人と共に森地帯を抜けようと進んでいる頃。



ヴァレンシュ騎士長との手合わせした次の日。
咲夜の目覚めは最悪だった。

「…あっ、痛っ!?…まったく、最悪ねこれはもうっ…完全に筋肉痛みたいね…」

体中の痛みから表情を歪める咲夜。
原因は昨日のヴァレンシュ騎士長との手合わせだ。
昨日の手合わせで咲夜は全力で自身の得た”女神の加護”である”瞬神”を発動した為だ。
身体が”加護”に慣れていない状態でいきなり全開で発動した反動。
急激な能力効果が身体に響いていたのだ。
手合わせの日もあの後は、体を動かすのも億劫で、騎士長に申し出てその後部屋で休ませて貰う事にしたほどだ。
騎士長もあれだけの動きと能力解放をすれば仕方ないだろうと許可してくれた。
正儀が『一緒に部屋まで送ろうか』とか言ってきたが『必要ないわ』と返した。
一応メイドの人が付き添いながら自分の部屋まで辿り着くとすぐさまベッドに入った。
入った際にメイドの女性に体中の筋肉を和らぐマッサージなどを施してくれた。感謝したのだが効果は少々と言った程だった様だ。
マッサージの気持ち良さにそのまま咲夜は寝入ってしまった。

そして次の日になっていた。
目覚めた咲夜は窓からの光で朝になっているのを確認すると、身体を起こそうとした。だが体中が悲鳴が上がった。あまりの痛みに涙が出るかと思ったほどだった。
そのまま横になっていたい気もしたが目覚めてから空腹感があった。昨日は手合わせの後そのまま寝入り夕食を摂らなかった。昼食も軽く取っただけにしていたのでお腹が空いていたのだ。
体は痛くともお腹は空く。咲夜はゆっくりと時間を掛け起きると、食堂まで、まるで老人の如くゆっくりと歩いて行った。
誰にも遭遇しなかったの幸いと言える。こんな姿をもし見られたらその者を亡き者にしようかと思ったりした。
ゆっくりと歩き、食堂に着く頃には幾分か筋肉痛がマシになって来た。

食堂内は何人か人がおり、既に軽く食事を摂っている者もいた。
その中に従兄である神童正儀もいた。咲夜も早めに起床した方だが正儀も同じかそれより早めに起きていたようだ。まあ咲夜は起きた後の苦労に時間を割いていたが。

「おや?」

正儀が咲夜に気付いたようだ。それと咲夜の動きがぎこちないのに気付いたのか心配そうに挨拶をしながら近寄ってきた。

「やあ、咲夜、おはよう。…どうやら爽やかな朝と言う感じではないみたいだね? 痛いのかい?」
「別に、これくらい、なんとも、ないわ」

コイツに心配されるのが嫌で、痩せ我慢をしつつ咲夜は答える。
そんな痩せ我慢をしているのに正儀は苦笑する。

「あはは、相変わらずだなぁ。でもそのままだと大変でしょ?…そうだ、あの人なら!」

何やら思い出したのか正儀は咲夜をある人の所まで案内しようとした。咲夜が断る前に「案内するよ」と正儀が先に歩いて行こうとしたので「まったく」と仕方なく付いて行った。



「…アラ、あなたは勇者君ですね。私に何か御用かしら?」

案内されたテーブルには1人の女性が座っており優雅にカップを口にしていた。
白いフードを目深くかぶっており如何にも魔法使いと言う風貌をしている人だった。

(この人、昨日見かけた)

昨日の訓練の際にこの人を見かけ一目見て只者ではないと感じたのを思い出した。
今の自分では到底勝てないと思わせる何かを感じたのだ。

「実は-」

正儀は、その女性に私の今の状態を伝えた。
なに勝手に喋ってんの!と思ったが取り敢えずスルーする事にした。
咲夜もこの人に興味が湧いていた。

私の状態を聞いた白の魔法使いさんは、

(えっ?何故白の魔法使いかって?だって名前知らないもの、見た目が白いから白い魔法使い…文句ある?)

席から立つとジッと髪の先から足の先までじっくりと咲夜を見詰めて来た。
なんなのだろうか、この人は!?と不躾な視線に思う前に、彼女は、異世界の言葉も理解できるはずの“言語理解”があるにも拘らず、咲夜にはよく解らない言葉で呪文を詠唱して右手を咲夜に向けた。
すると彼女の手から白い光の、30cmくらいの大きさの光球を向けて放った。
敵意はなかったが突然の事で咄嗟に躱そうとするも体が痛く満足に動く事が出来ず、彼女が放った光球が命中した。
命中した光が咲夜の身体を包み込む。
すると、咲夜の体にあった筋肉痛が綺麗さっぱり消えたのだった。

「……あれthat? 痛みが、消えた?…もしかして、これって回復魔法ってものなの?」
「ふふ。驚かせたのでしたらいきなりでごめんなさいね?貴女は確か、咲夜ちゃんね。そうよ、今あなたに掛けたのがこの世界で言う所の“白魔法”に分類され呼ばれている魔法よ」

今のが魔法かぁ、とこの世界に来て始めて直に見る魔法とその効果に咲夜は驚いていた。
アレだけ痛かった筋肉痛の痛みが綺麗に消えたのだから。
咲夜はこれは覚えておくと便利だなと考え、感謝の言葉と共に白の魔法使いさんに聞いてみた。

「ありがと、感謝するわ。おかげで凄く楽になったわ。貴女に少し聞いてもいいかな?」
「あら、何かしら。いいわよ、どうぞ」
「あなたがさっき私に使ったその“白魔法”って、私でも扱えるの?」
「う~ん…あなたは、どうやら難しいわね。魔法にはその人にあった適性があるの。もちろん適性が無くても魔法を使う事が出来るわ。ただし、適性のない魔法を使うには大きな魔方陣と長い詠唱、そして通常よりも多めに使い消費する魔力があるのだからね。実戦には向かない方が多いからあまりお勧めはしないわ。さらに、貴方が先程聞いてきた“白魔法”に関しては適性がないと行使する事が出来ない特別な適正魔法なの。この”白魔法”の他ですと…“黒魔法”、そして、かつて存在したとされる12人の神々が所有していたと言われている“恩恵”と呼ばれる固有魔法も同様ね」

彼女の話を聞いて“白魔法”が使えない事に少し落胆するも、魔法について1つ学ぶ事が出来た。
話の間、自分の隣で、正儀もうんうんと頷きながら聞いていた。ちゃっかりしているなと思った。

「そうなの…便利そうだから使えると良かったのだけど、使えないのだからしょうがないわね。まあ魔法について知る事が出来たので良しとするわ」
「そう。フフ、素直な子ね。……でも、ちょっと歪んでいるみたいね貴女」
「ええ、よく言われるわ」

お互いに笑みを浮かべる。そんなやり取りの後、彼女は既に食事を終えていた様で、食堂から退席しようとした。そう言えばと彼女の背中に向かって一つ質問をした。

「ねえ、あなたの名前は?」

彼女は声を掛けられ視線だけ後ろに向けると、彼女はその質問に一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、

「ごめんなさい。私にもいろいろあってね、悪いけど真名は教えられないわ。けど、そうね。私を知る者は、私をこう呼んでいるわ【白の魔導師・ホワイトベレー】とね。まあ好きなように呼んでくれたらいいわ。では後程に」

口元を笑みで浮かべながらそう告げた白の魔導師はそのまま振り返ることなく食堂から出て行った。
どうやら自分が興味を抱き気になる人って、なかなか名前を知る事が出来ない人ばっかりのようだなと思った。

~~~~~~~~~~~

食堂から出た白の魔導師は先程知り合った少女について考えていた。

「ふふ、何だか、あの力の素質はある子みたいだったわね。……どう転ぶかはまだわからないわね。それも今後次第かしら?……そうだったわ。あの人にもう少し戻るのが遅くなる事を伝えておきましょうか―」

白の魔導師はそう呟くと共に指先で宙に魔方陣を描いた。そして描かれた魔方陣が出来るとその魔方陣から白い鳥の使い魔が現れた。
白の魔導師は、現れた鳥の使い魔の足に魔法で作り出したメッセージを込めた紙を括りつけると、その使い魔は目的の場所まで飛んでいった。

それを見届けた白の魔導師は今日も自分の担当する者に、適当に指導する準備に向かうのだった。

~~~~~~~~~~~~

「不思議な人ね」
「うん。変わった人だったね」
「あんたが言うな」
「咲夜には言われたくないかな」

白の魔導師との会話後、咲夜は正儀と同じテーブルで朝食を食べていた。

「…美味しいとは思うんだけど、やっぱりRiceが欲しいわね」
「たしかにね、米が恋しいね。だって日本人だし」

この世界、と言うかこのアルテシア王国の食事の主食は日本人に馴染みのある米と言うものはなくパンに似たものが主流のようだ。

咲夜が米恋しさを噛みしめている頃には、食堂にほとんどのクラスメイトが集まったようだ。
今後は、いずれパーティを組んで魔物退治をしたりして各々のステータスを向上させ、最終的に魔人族領にある魔王城に乗り込み、【魔王】を討伐するのが召喚されたクラスメイト達の目的となる。
因みに、【魔王】がどんな姿をしているのかをヴァレンシュ騎士長に質問した生徒によると、性別は女性で、背丈などは私達より少し高めで漆黒に近い紺色の長い髪をしていると聞いた。聞いた話しでは魔王は残虐的な性格をしており同族に対しも容赦をしない事から同族から恐れられているとの事だ。ちなみにこの魔王の話をしていたヴァレンシュ騎士長の表情は怒りに満ちていた。

パーティ編成に伴い、既に仲の良いグループで、パーティを組もうと勧誘しているのがチラホラ見られる。

私?私は誰とも組む気はないわよ。だって、もう少し実力を付けた後は、彼を追い駆けるつもりだから。パーティPartyなんて組む気は全くなかった。如いて言うなら彼とパーティPartyを組むつもりかな。

そんな今後の方針を決めながら食事をしていると、担任の繚乱(りょうらん)花恋(かれん)がトレーを持って空いている席を探していた。向かいにいる正儀も気付いたようで「ここ空いてますよ!」と先生を誘った。
先生は私の方に座ると、「あ、ありがとう」と微妙に暗いと言うか、顔色が若干青白く気分が悪そうな表情で感謝を述べた。

私と正儀はその先生の様子に違和感を覚えたので「どうかしたのですか?」と私が聞いた。もしかすると、アレの日かもしれない思い私が尋ねる。
先生から聞いた内容は、昨日の訓練で魔力を限界まで消費した事で魔力酔いに陥った疲労との事だった。
曰く、自分の魔力を実際に消費し己の限界を知るのは魔法を扱う者としては最も大事との事だ。
周囲を観察すると先生と似た様子の生徒がチラホラと見受けられた。確か魔法組の人達だったかな。

先生と一緒に会話をしつつ食事を摂る。
会話の中でこの先生は、良い先生だと私は感じた。
あと会話の中で、私は、先生に『名無し君』について聞いてみると、残念そうに自分の未熟さを、力の無さを悔やんでいた。本来なら、そうは見えないが、年上で大人であり、教師である自分が守らないといけないのにと思っていたようだ。

あと先生の得た“女神の加護”は“真なる搾取”と言う技能スキルで、その能力は採取に関したものだそうだ。
生産の分類に入るみたい。
先生自身もあまりステータスは高くないみたいだ。

この後食べ終わった後、ヴァレンシュ騎士長に、今日の予定を聞き、各々の訓練に移るのだった。
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