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第1章 世界の半分をやろう

第16話 山と積まれた拝命願い(第三者視点)

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「まったくもって不思議な魅力と言いますか…、言葉では言い表せないものを持った少年ですな」

「そうだな…、だから…ほら」

 鴫田警察署内、その署長室で真賀里は来客時に使用するソファに座りながらテーブルの上に積み上がる封筒の束を手で示した。向かい側には一山副署長が座っている。

 『特命マルダン警護拝命嘆願書』
 『佐久間修君警護着任願』
 『シュウ同室護衛任務希望届』
 ………etc等々

 文言は様々だが封筒の表面に記載されている全て特別警護対象男性…通称『マルダン』佐久間修の警護任務担当になりたいというものだ。

 まだ確定ではないが特別警護男性である佐久間修がこの鴫田警察署に好印象を抱いている…、そうなると引き続き鴫田警察署で彼の護衛に当たる方が良いだろう…県警上層部はそう考えた。そうなると沸き立つのは鴫田警察署に勤務する面々である。男性…それも若いオトコ、気合いの入らない署員はいなかった。

 それと言うのも男性の比率が3万人に1人になってしまったこの世の中、単純に男というだけでその存在は貴重だ。地球規模で人工受精などを駆使し、その数を少しでも増やそうとしているがなかなか上手くいかない。しかも、なぜか人工受精により生まれた男性は自然妊娠の男性と比べて体が弱かったり、あるいは女性から見るとなぜか物足りなく感じる事が多い傾向にある。そんな訳で佐久間修という存在は女性達の目には特にまぶしく映り、少しでも彼の近くで勤務したいと希望が殺到したのである。

 ただ、ひとくちに警護任務と言っても警護対象男性マルダン…佐久間修のすぐ近くで護衛する者もいれば居場所となる建物乃内外で警備をする者もいる。ただ、美晴や尚子のようにマルダンの近くで護衛をする為には特別警護研修を修了していなければならない。つまりはそれ相応の実力や資質が求められるのだ。その有資格者は鴫田警察署内では武田、館本、多賀山、大信田、浦安、崎田の六名のみ。

 一応、署長である自分と副署長の一山ヤマさんも担当する事も出来るがそれをやったら署内から『ズルいズルい』の大合唱になるだろうなと冗談めかして言うと違いありませんねと副署長も頷く。

「館本美晴、武田尚子、アイツら優秀な成績だったんだろ?ヤマさん」

 真賀里署長が一山副署長に尋ねた。

「そうですね、訓練もそつなくこなし苦手な項目は特に無し。特別警護研修の修了者達の中で少なくとも中の上より優れているはずです」

「そうだよな、あんな感じだがアイツらミスは無かったからな。普通、若いんだからそれなりに失敗して学んでいきそうなモンだが上手くやってた。それがなあ…、今のアイツらは危なっかしいと言うか、浮ついてるっていうか…」

「それも無理からぬ事かも知れませんなぁ」

「ん?ヤマさん、何か知ってんのか?」

 真賀里署長が身を乗り出す。

「武田尚子、館本美晴、両名とも21歳ですが実際には生誕より十年半…。加速成長者アクセラレーターだから肉体的、技能的には十分な成長をしていますが内面的にはどうでしょうかな?」

「ああ…、そういう事か。アイツら二人、優秀な成績で配属されたが実質的には十歳ちょっとだから…」

「ええ、いくら成長促進で肉体の成長や効率良く学習や訓練をこなしてきたとしてもその他の経験や内面的成長までは促進効果は及ばないのかも知れません」

「まあ、学習なんかも効果的にしてるからそのまま十歳半の子供って訳じゃなくて…」

「ええ、もう少し…おそらくは十代中盤くらいの精神年齢ではないかと思います」

「ああ、なるほどな…」

 ポケットから煙草を取り出して火を着ける、真賀里署長はそれをひと吸いしてふうと軽く一息吐いた。

「なんつうかアイツら見てると悪ノリした中高生みたいになってるんだよな」

「確かに。悪ノリした中高生…まさにそんな言葉がピッタリです。そしてそれは…」

「ああ…、武田や館本だけじゃない。他のわけモンほど少年に当てられちまってるな。良く言やあ情熱的、悪く言えば発情にちけえ」

「若い署員、そして加速成長者ほど佐久間君に引き付けられる傾向が強いように見受けられます。普段とそう変わらないのは浦安、崎田、多賀山、大信田の四名でしょうか」

「アタシもそう思う。要は男慣れしているかどうかでも変わるな。加速成長は一年ごとに申請できるからな。同じ年齢扱いでも生まれ年はバラバラだし。まあ、とにかく少年の近くで護衛する役目はとりあえず浦安やっさん達4人当確だな」

「私としては武田と館本も加えてやってほしいのですが…」

「まあ…、な。アイツら浮かれてたが…やる事はやったからな。少年の病室を見事に守り切った」

「はい」

「だがなあ…、『お風呂セット持って護衛に参上』はちっとなあ…。アイツら二人のやる気がヤる気になりそうでなあ」

「それは…まあ。浦安、崎田の両名にお目付け役を兼ねてもらいながら…。多賀山、大信田もいる事ですし」

「ヤマさんは優しいなあ」

「いえ…、ね。武田も館本もこれが壁ってヤツじゃないかと思うんですよ。ドジを踏んだりして学ぶ事もあります、両名にとってそれが今なんじゃないかって」

「失敗から学ぶ…か」

 そう言って真賀里署長は吸い終わった煙草を灰皿に押し付け火を消した。

「そう言えばヤマさんも若い頃は血気盛んだったと聞いたよ。激昂して取り調べ中の相手の胸グラ掴んだ事もあったとか…」

「そう言う署長も…」

「ん!?なんの事かな、ヤマさん。さあ、それより武田と館本…この二人を少年付きの護衛に加えれば良いんだな」

「ご配慮ありがとうございます。それと警備希望者ですが…」

「希望者全員、ローテーションにするしかないだろうな。そうじゃないと…」

 真賀里署長はふう…とひと息吐いて声を低くした。

「ストライキでも起きそうだからな」

「ええ」

 一山副署長も真顔で頷いた。

「まあ、今後どうなるか…だな。少年はこれから日常生活に戻る、まずはそれに向けての事になるな」

「はい、これからが大変ですな。なにせ…」

 ちらり…と一山副署長はテーブルの上に視線を走らせた。そこには届いたばかりの新聞の夕刊があった。その一面にはデカデカと写真入りの特集記事があり、二面…三面へと続いている。

『ミステリアス!!現代の神隠し!?」
『15年の空白!天然男子、以前と変わらぬ姿で故郷に!』

 センセーショナルな見出しが踊り、その全てが一人の少年を指し示している。その写真に映るのは医療センターから退院する佐久間修、その人であった。





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