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第2章 天然男子を巡る思惑とそうはさせない佐久間修

第26話 ダンディ、セクシー、そしてプリティ。

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 シャワールーム騒動から一夜明け、日曜日の朝…。今日の僕の警護の担当は多賀山さんと大信田さん。

 柔道場であぐらをかきながら僕は朝食のお惣菜パンを食べる。

「んで、何の相談だい?プリティ佐久間」

 同じように座って朝食を食べる田賀山さんが僕を妙なニックネームで呼んでいる。

「え、何ですか?そのプリティ佐久間って?」

「まあその呼び方については後にしとこーぜ、話進まねーから。オレが代わりに言うけど、シュウはバイクの免許取りてーらしいんだよ。だけど今の世の中にうといだろ?多賀山タガはバイク乗ってるし、色々教えてやれるんじゃないかと思って相談してみなって言ってたんだよ」

 今日は非番と聞いていたけど、コンビニ飯片手に私服でやってきた美晴さんと尚子さん。その美晴さんが多賀山さんに事情を説明している。

「バイク、ですか…」

 こちらもまた非番で私服姿の久能さん。バスケットにおにぎりを入れてのご登場である。手作りだそうで僕個人的にはポイントが高い。

 しかしそれを口にすると久能さんはグイグイ来そうなので、今回はあえてそれを口にしない。受け身に回った彼女は攻めやすいけど、反対に久能さんが攻め手に回ると一気に詰め寄られそうなのでここはスキを見せないとでも言おうか攻めの糸口を与えないようにするのが最優先。それが今の僕の久能さんに対する接し方になっていた。もう少し男性慣れをしてくれれば大丈夫なんだろうけど…。

しゅう様は免許を取るんですか?」

 そんな久能さんはなぜか僕に様をつけて呼んでくる。

「は、はぁ…。二輪の免許を取得りたいと思ってまして…」

「なるほど、だから多賀山タガに相談したんだな」

 大信田さんがサンドイッチと缶コーヒーを飲みながら呟く。

「悪いな、大信田ユーコ。バイクの話となればな」

「良いさ、四輪クルマの時はアタシの独壇場だろーし」

「…いや、それだとまだ先の…それこそ二年も後の話だろ?」

「…あ」
 
 多賀山さんの指摘に大信田さんのなんとも間の抜けた声が響いた。

「ま、まあ。そのあたりの話は置いておいて…。プリティ佐久間は乗りたいバイクとか決まってんの?」

「ええ、実は…」

 僕は多賀山さんに乗りたいバイクのタイプを伝えた。クルーザー、もしくはアメリカンと言った方が伝わりやすいかもしれない。

 有名どころの車名で言えばハー◯ーダビッ◯ソンだろうか、前後輪の間を広く取り、サドルは低めでスポーティな走りには向かないが長距離を走るには向いているイメージ。

「はっはっは。なら丁度良い、通勤で使っていると言うか愛車がまさにそうだよ。よし、後で見せてやろう」

「本当ですか、ありがとうございます!」

「まあ、私物を見せる訳だから勤務後か休憩時間か…。どっちかになるけどね」

「是非是非!多賀山さんの都合の良い時についていきますので…」

「オーケーだ。だけど、呼び方が物足りないな」

「えっ、呼び方?」

「そうさ、プリティ佐久間」

 この人、プリティ佐久間…ってわざわざ言ったぞ。めさか、アレを言わなきゃいけないのか…。ま、まあ仕方ない。

「よろしくお願いします、ダンディ多賀山さん」

 僕のその言葉を受けて、多賀山さんはポケットから取り出したサングラスを取り出しながら満足そうに口元を綻ばせた。

「クルマの時はアタシに言ってくれよな、プリティ佐久間」

 一方でその田賀山さんの相棒である|《大信田》さんもわざわざ僕をアダ名で呼んできた。うーん、これにもアダ名で返さなくてはならないか。

「は、はい。その時はよろしくお願いします、セクシー大信田おおしださん」

「OK!!」

 勝利後に帽子を投げる格闘家のような清々しい声で大信田さんは僕の返事に応じたのだった。



「ところでよー、シュウは今日一日何するんだ?」

 朝食を食べ終えのんびりとくつろいでいる時に美晴さんが聞いてきた。

「うーん、特に決めてないんですよ。一山さんからも特に指示は無かったですし」

「では、修さん。今日は少なくとも一回は外出する必要がありますわ」

「え、どういう事です?尚子さん」

「今日は日曜日ですから食堂に出入りする業者さんもお休みですの。だから昼食も何か用意する必要がありますわ。も、もしよろしければわたくしと一緒に…」

 美晴さんが食堂が定休日である事を話し始めた時、美晴さんが『そうだった』とばかりに話に入ってきた。

「あっ!そーなんだよ、シュウ!てな訳で昼飯どーする?いっつも冷凍食品れいとうモンばっかじゃ飽きちまうしさ、手作りの味に飢えるっつーか野菜が食べたいっつーか。やっぱ出来立てのモンが食いてーよなあ」

「ぐぬぬ…。せっかくのチャンスを…」

 何やら尚子さんが悔しそうだ。しかし、ここで僕は一昨日の夕食の事を思い出す。柔道場で一緒にご飯を食べた婦警さん達はみんなスーパーやコンビニで買ったお弁当やおにぎり、パンだった。

 普段だとそれを寮に帰って一人で食べると皆さんが言っていたっけ…。職場と寮の往復の毎日…そんな風に言っていた。それはきっと寂しいだろうな…、職場なら食堂とかで同僚の方達と一緒に食べられるだろうけれど…。

「うーん、それなら…」

 僕には思い付いた事があった。

「あの、以前に捜査本部が立ち上がった時とか柔道場とかに寝泊りするって言ってましたよね。自炊じすいとかする方とかいたりするんですか?」

「え、ええ。中には炊き立てのご飯じゃなきゃ嫌だと言う人もいますし…。不規則な時間でしか食事がとれない事もありますわ。ですから食堂の調理場で保存がきくおかずを作りおきする人もおりますわ」

「それって僕が使っても…」

「業者さんの材料を勝手に使ったり、道具を片付けなかったりしたらダメですけどちゃんとしてれば大丈夫ですわ。でも、どうするんですの?」

 尚子さんとのやりとりで、どうやら僕も食堂を使っても良いらしい事が判明する。

 ならやってみよう、署内の皆さんにはお世話になってるんだし。

「もし良かったら今日のお昼ご飯は僕が作りますよ。まあ、簡単なメニューですけど」

 そう言って僕は考えている計画を説明し始めた。

 
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