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第3章 ひとつ屋根の…下?

第44話 男子、再び厨房に入る

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「おはよ~、佐久間君」

「今日は私が右腕だからね~」

「アタシ左~!」

 一夜明けて土曜日の午前7時30分、警察寮前で僕は出勤する婦警さん達とマイクロバスに乗車していく。すっかり体調も落ちついた久能さんもいる。そして護衛の為に両側から婦警さんに腕を絡められる、いつものパターンであった。

 昨晩の寮の食堂では歓迎会で話題になった事や今日の合同稽古について話す。非番日なのに警察署に向かっている人には憂鬱以外のものではないようだ。

「ところで良いの、佐久間君?今日も署内に行くなんて…。アタシ達は自主研修だけど佐久間君は夕方までヒマにならない?」

 僕の左横にいる婦警さんが聞いてきた。腕を組みながらそんなやりとりをしていると、まるで付き合っている彼女がいたらこんな風な距離感なのかなと思う。もっとも仕事で僕を護衛してくれているのだから誤解は禁物、下手にこちらから接触したらセクハラ現行犯だ。なんたって相手は婦警さん、逮捕のプロな訳だし…。

「実は今日は食堂に行こうかなと思ってまして」

「食堂?土曜日は休みだよ?」

「はい、なので今回も昼御飯を作ろうかと」

「「「えっ!?」」」

 婦警さん達が弾かれたように声を上げた。

「と、言っても前回と似たような物なんですけどね。今回は普段の食堂メニューには無いハヤシライスです」



 マイクロバスで到着した河越八幡警察署には大勢の人がいた。通常通りの勤務をする署員の皆さん、そして合同稽古の為に近隣の署から集まった警察関係者の人々。さらには自主研修会の名目の合同稽古の為、お休み返上で来ている婦警さん達…。もしかすると他の署の人も自主研修の名目で非番だけど駆り出された人がいるのかも知れない。うーん、社会人って大変だ。

「な、なあ大丈夫なのか?前回より軽く五十人…いや、百人は増えてそうだぜ?」

 美晴さんが心配そうにやってきた。

「ま、まあ大丈夫かなと…。ハヤシライスですし…。多めにご飯を炊いて、ルーを作っておけば良いし…」

「そうだけどよ…、大変だろ?」

「さすがにやると言ってしまいましたからねえ…。しかし、まさか全員が食べたいと言うとは…」

「ホントですわね。というよりそもそも合同稽古の参加者が倍増していますわ。おそらく修さんが寝泊りした柔道場というのがマスコミを通じて知られてるのが大きな要因ですわね」

「え?尚子さん、それはどういう…?」

「連日連夜マスコミが常駐していたように修さんに関する注目度合いはまさに時の人と言うべきもの。中にはこの河越八幡警察署を男子居住中の聖地と呼んでいる人もいるくらいですわ。おそらく昼食に修さんのカレーが振る舞われる事が外部にもれてマスコミが殺到しますわよ」

「あっ、そう言えば朝イチで来てた他署よそのヤツらが聖地巡礼とかって言ってたわ」

「無理もありませんわ。修さんが過ごした場所ですもの」

 何ですか、その熱心な方々…。

「ならアレだな、騒ぎになる前に買い出し行くか?」

「それが賢明ですわね」

 そんな訳で美晴さんと尚子さんは買い出しに出かけていった。僕も行こうかと思ったが、同行するとさすがに目立ち過ぎるという事で二人にお願いした。

 署内にはいつもより多くの人の気配があり、集まった人の多さを実感する。さて、カレーを作る前に出来る事をやっておこう。

「ふー、やっぱり重い」

 お米をといで内釜を持ち上げると男子の僕でも腕にこたえる。でも、食堂で働く皆さんは毎日やってるんだもんなあ…。

 炊飯用の器具を総動員する、電気炊飯器にガス炊飯器とフル稼働だ。その間に保温機も用意する。5升サイズの保温ジャーを準備、タイヤの付いた台に乗せた。

 カシャンッ!!

 ガス炊飯器から炊き上がりを知らせる音がした、炊き上がりを知らせてくれている。さすがにガス炊飯器、1升のご飯を炊いたというのに早い仕上がりだ。

 急いでご飯を保温ジャーに移す、空になった内釜で次の炊飯の為に米をとぐ。さあ、どんどん炊いていかないと。

 そうやって炊飯をしていると、調理場の入り口のドアがコンコンとノックされた。

「あっ、はーい!」

 美晴さん達が買い出しから戻ってきたのだろう。そう思って返答し、ドアを開けるとそこには制服姿の久能さんがいた。そしてもうひとり…。

「来ちゃった…」

 そこにいたのは数日ぶりに見る妹、|真唯(まい)ちゃんの姿があった。
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