70 / 82
第4章 不意打ちから始まる高校生活
第61話 僕と真唯ちゃんの前進
しおりを挟む昼休みも終わりに近づき、僕たちは寮から教室棟へ戻った。一年生の教室は校舎の三階にあるので階段を上った。
「じゃあ、午後も頑張ろうね」
「そうだね。真唯ちゃ…、じゃなかった真唯」
「うん…、えへへ…。お兄ちゃん」
はにかむ姿がとんでもなく可愛い我が妹。
「むぅ、駄目だよ真唯。お兄ちゃん…、じゃなくて…」
「あ…、しゅ…修…おにい…ちゃん」
「あっ、またお兄ちゃんを付けた」
「だ、だって…恥ずかしいよ…。お兄ちゃんは…お兄ちゃんだもん」
昼食の時間を終えて僕達ふたり、そんなやりとりをしながら自分達の教室に向かっていた。そんな僕達の距離感というか関係に一つの変化が起こっていた、それというのも…。
……………。
………。
…。
「あ、あのね、お兄ちゃん。私の事…真唯…って呼んで欲しい…」
お弁当を食べ終わって少し話していた時、不意に彼女からそんな申し出があったのだ。
「ん…?それは良いけど…、どうして?」
「う、うん…。私ね、お兄ちゃんが優しいのは分かってるんだ。でも、私の事…真唯ちゃんって呼ばれるとなんか距離があるかな…、気を使わせてるのかなって…」
少し言いにくそうにおずおずと彼女が理由を話した。
「そんな事ないよ。家族だし、こんな風に過ごすのだって…」
「お兄ちゃん、お願い」
「え?」
真唯ちゃんは恥ずかしそうにしながらもこちらを見ている。
「私、もっと心もお兄ちゃんの近くにいたいよ。だから…真唯って呼んで…」
それはまっすぐなまなざしだった。大人しい彼女の決意のようなものを感じる瞳…。それを見て僕の心も決まった、彼女の気持ちに応えようと…。
「分かったよ、真唯ちゃん…。…じゃないね、…コホンッ!…ま、真唯」
「お兄ちゃん…」
僕が名前を呼ぶと彼女はとても嬉しそうな顔をした。それを見て僕もひとつ思い付いた事があった。
「それならさ、真唯も…僕の事を名前で呼んでほしい…かな」
「えっ!名前で!?わ、私が…お兄ちゃん…を…?」
急にアタフタとした様子になった真唯、そんな彼女を見ていると何やら僕の心も温まってくる。
「そうだよ。だって僕だけが名前で呼ぶのはちょっと…ねえ?」
そう言うと彼女は顔を真っ赤にする。
「な、名前で呼ぶなんて…は、恥ずかしいよ。そ、そんなの…お話にしか出てこない…こ、恋人とか…」
「えっ、お話にしか出てこない…?」
「う、うん。だ、だって男の人がいないから…。男の人と付き合った事があるとか結婚した事があるのは男性消失現象が起こる前…、旧時代の人にしか出来ない事だから…」
「あ…」
そうだ、男性がいないんだから付き合えない。今日初めて会ったクラスメイトも男性と初めてしゃべったと言う子がほとんどだった。それこそ男性を生で見るのも先日の入学式の時が初めてというくらいに僕はレアな存在であるらしい。
「うーん、じゃあ少しずつ慣れていこうか?いつか僕を普通に呼んでくれたら…その、嬉しい…かな。それだけ距離が近づけた…みたいな気がするから」
「うん…」
「じゃあ…、行こっか?午後の授業、始まるからね」
そう言って僕達は教室へ戻る事にしたのだった。
……………。
………。
…。
階段を上って正面に位置する一年B組の教室の前でそんな言葉を交わし真唯はB組へ、僕はA組の教室へと分かれる。
終わり間近だけどまだ休み時間とだけあって校舎の中は活気がある。あちこちからおしゃべりの声が聞こえてくる。さすがにそこは女子校、僕が今まで見てきた学校内の昼休みの光景とはちょっと違う。
その光景とはおしゃべりをボクシングに例えればまさに足を止めての打ち合い、じっくりその場にとどまってのおしゃべりをしている。廊下や教室、その好きな所で立って話すのか…。教室内で座って話すのかの差はあるが、僕がかつて学校生活で見てきたものと比べればはるかに賑やかなものだった。
そんな賑やかなおしゃべりを廊下でしていた女子生徒の一人が戻ってきた僕達に気づいて声を上げた。
「あっ!佐久間君だっ!!」
声を上げた子の顔に見覚えはない、少なくとも同じA組の生徒ではないようだ。
「えっ!?佐久間君ッ?」
突いた巣から蜂が飛び出して来るようにB組の教室から女子生徒達がわらわらと出てくる。
「えっ!?佐久間君ッ!?」
「も、戻ってきたんだっ!」
「多目的の中じゃなかったんだ!」
「さすがに長すぎるもんね」
一年A組とは反対の方向から声を上げながらやってくる集団には見覚えがある、同じクラスの女子生徒達だ。なぜか体育の授業が終わった時と同じ格好、彼女達が言うところの『陸戦型戦闘服』こと体操着である。
ちなみにその体操着にも大きく分けて現行型と旧型の二種類が存在する。現行型はいわゆるハーフパンツ、旧型はいわゆるブルマーだ。
あれ?みんな教室に戻ってなかったの?
「き、着替え終わってる…」
「そ、そんな…。まさか…」
学生服に着替えた僕の格好を見てクラスの女子達はあからさまに落胆している。中にはガックリと崩れ落ちている子もいる、まるでサヨナラホームランを打たれた敗戦投手のようだ。
「そ、それよりも…」
「さ、佐久間君。多目的トイレで着替えなかったの?」
「あ、うん。別の場所で…」
「………ッ!!」
「ち、違う…場所…」
「くっ…。着替え…」
「の…残り香なんてなかった…」
ウチのクラスの女子達が完全に魂を抜かれたような表情になっている。なんだろう、なんだか燃え尽きてしまったように…。
「ところでさ、ところでさ!」
一人の女子生徒が声をかけてきた。立っている位置と見覚えのないところから考えてB組の女子生徒だろう。
「さ、佐久間君…。今、佐久間さんと一緒に教室に来なかった?…ん、あれ…?佐久間…」
何かに気付いたかのように話しかけてきた女子生徒の言葉の勢いが鈍る。
「あ、はい。一緒に来ましたよ。一緒にお昼を食べてたんで」
「「「「お、お昼をッ!?」」」」
ざわざわっ!!周囲が一気にざわめく。
「そ、そんな。いきなり初日から二人でお昼とか…」
「ふ、二人はどういう関係なの?」
ぐぐっ!周囲の女子生徒達が身を前に乗り出すようにして僕の返答を待っている。
「えっと…。真唯ちゃ…、いや…真唯は…」
「「「「「真唯ッ!!!?」」」」」
「な、名前でっ!?」
「うらやまっ!!」
僕の話し始めると過敏なまでに女子生徒達の反応がある。ど、どうしたっ!皆、そんなに身を乗り出して…。
でも、まあしっかり返答しないと…そう思った時の事だった。
きゅっ…。
僕の制服の背中側、その裾のあたりを掴まれたような感覚…。そこにいるのは当然真唯の手…。
「真唯は…」
ぐぐぐっ…!!
女子生徒達がさらに身を前に乗り出してくる。その様子には妙な迫力があった。一瞬、ひるみそうになるが僕はここでお腹にグッと力を入れるのと同時に制服の裾に触れている真唯の手に触れながら口を開く。
「僕の…、大切な人です」
5
あなたにおすすめの小説
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
男女比1:50の世界に転生したけど、前世の感覚で普通に接してたら幼馴染も姉妹もお嬢様もみんな沼にハマっていった件 ~ダンジョンにも潜ります〜
ベリーブルー
ファンタジー
男女比1:50――この世界で男は、守られ、大切にされ、穏やかに生きることを求められる存在。
だけど蓮は違った。
前世の記憶を持つ彼には、「男だから」という枷がない。女の子にも男の子にも同じように笑いかけ、距離を詰め、気負いなく手を差し伸べる。本人にとってはただの"普通"。でもこの世界では、その普通が劇薬だった。
幼馴染は気づけば目で追っていた。姉は守りたい感情の正体に戸惑い始めた。名家のお嬢様は、初めて「対等」に扱われたことが忘れられなくなった。
そして蓮はと言えば――。
「ダンジョン潜りてえなあ!」
誰も見たことのない深淵にロマンを見出し、周囲の心配をよそに、未知の世界へ飛び込もうとしている。
自覚なき最強のタラシが、命懸けの冒険と恋の沼を同時に生み出す、現代ダンジョンファンタジー。
カクヨムさんの方で先行公開しております。
男女比5対1の女尊男卑の世界で子供の頃、少女を助けたら「お嫁さんになりたい!」と言って来た。まさか、それが王女様だったなんて……。
楽園
恋愛
「将来、あなたのお嫁さんになりたい」
10年前、俺は魔法の力で一人の少女を救った。
……そして現在。ここは男女比5:1の女尊男卑の世界。
男は女に「選ばれる」ためだけの存在する。
俺、アルトは、前世の記憶と女でさえ持っていない無限の魔力を隠し、父と静かに暮らす「モブ」になるはずだった。
「待っていましたわ、アルト」
学園で再会したあの時の少女は、驚くべきことにリリアーナ王女だった。
どうやら彼女、あの日の「約束」を本気で果たしに来たらしい。
(俺の平穏なモブ生活が……!)
最強を隠したい男と、その秘密ごと彼を手に入れたい王女の、すれ違い学園ファンタジー!
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる