【完結!】田舎暮らしの神殺し、二度目の神殺しに挑む〜余生は静かに暮らしたいのに弟子達がさせてくれない件〜

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第二章 人神代理戦争 予兆

三十五章 聖女の行進 其の弍拾漆

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 涅槃静寂ニルヴァーナは姿を変えず、代わりに彼の右腕にはガントレットが着いていた。黒い鉄で生まれたそれはバサラの腕にピッタリとハマっていながら、その動きを一切害する事ない。

 漆黒の腕、それを用いてバサラはダルクに向けて剣を前にし構えると一気に足を踏み込んだ。

 ダルクの共鳴器・愛染アイゼン、それは彼女が閉ざした目に埋め込まれた眼球型共鳴器である。声で捉えたものに対して、爆発を促し、肉体の熱を引き上げ、鉄を溶かし、製鉄したり、それを操ることが出来るモノ。様々な能力を兼ね備える一方、その分大きなデメリットも存在する。それは愛染アイゼンの使用者は常に身体中が焼け落ちる炎に晒される幻覚を味わうこと。

 幻覚の炎であってもそれは決して偽物と感じるのではなく、限りなく本物に近い熱に晒される様な物であり、ダルク以外の使用者が現れなかった。

 ダルクはかつてこの地、ゴルドバレーに飛ばされる直前まで火刑を受け、その身が朽ちる寸前で転移し、廃棄孔アクタール博士プロフェッサーが見つけていなければそのまま死んでいた程に弱り切っていた。幾重にも重なった集中治療により、ダルクは何とか一命を取り留めると自身の足で歩けるようになった頃、彼女はいきなり、目をつぶした。

 もう世界を見たく無い、それが目をつぶした当初の理由であった。だが、そこに博士プロフェッサーはつけ込んだ。

 眼球型共鳴器、それを使える実験台が現れたことでダルクに頼み込み、使用時以外は目を閉ざすことが出来る帯を渡すことを条件に彼女はそれを受け入れた。

 しかし、この時、博士プロフェッサーに大きな誤算が生じてしまう。ダルクの肉体と精神は火刑の中から、異界へと転移に加えて、火に対しての強固な耐性を兼ね備えることになり、彼女は廃棄孔アクタール第四席の地位まで至ることになる。

 デメリットの踏み倒し、それが可能になった愛染アイゼンは見えない爆撃と近場にある鉄の形を変化させ、操作を行える破格の能力となっており、それを知っていても無傷で勝てるのは廃棄孔アクタールの中では帰還者リターナーだけ。

 ラヴァルはダルクが鉄がない時に、その身を捧げ、武器となるための物であり、事実、彼女が使っていた槍がそうであった。

 バサラは踏み込むと同時に、涅槃静寂ニルヴァーナに力を込めた。

 共鳴器・涅槃静寂ニルヴァーナ、それは鍛治士ヴォルガがその鍛治士人生で最高峰の一振りと称しながら、その詳細は一切伏せらていた魔剣。若きバサラのために打ったそれは彼以外が持てば持ち主の寿命を縮めるとされており、事実、これを買った者達が全員不慮の事故で亡くなっている。まあ、ヴォルガが生んだ人生最大の剣とされている六天崩剣すらも凌ぐと本人からも明言されているがその事実を知るのは彼の娘であるメタリカのみ。

 その魔剣が30年の時を経て、本来の持ち主の手に戻り、生まれてからこのかた、使われなかった運命の解放を行った故に、涅槃静寂ニルヴァーナは無意識のうちにリミットを外していた。

 普段、バサラに合わせて自らの力を抑えていた涅槃静寂ニルヴァーナは、初めて共鳴器としての価値を見出され、彼に答えるために力を解き放つ。

 踏み込んだと同時に涅槃静寂ニルヴァーナを振るうとバサラがかつて神を殺した同様の剣撃がダルク目掛けて放たれた。

 死という概念、それがあるとしたら今、バサラが放った斬撃が一番近い。ダルクはそう感じると脳が理解するよりも早く無意識に、避けた。

 玉座、壁を簡単に切り裂くとその斬撃は止まることを知らず、城の背後にある山をも削り取り、ダルクはそれを受けていれば自身が簡単に死んでいたと覚悟した。

 そして、その斬撃を見て、バサラ本人が一番冷や汗をかいていた。

(ええ?! 何これ?! 昔の自分みたいな斬撃出ちゃった?! いや、待って待って、僕、殺すために撃ったんじゃないんだよ?! それなのに、マジで?!)

 バサラは内心焦りに焦っているがダルクの警戒心は最大となり、今最も早く消すべき障害であると確信した。

「ようやく、本気と言うことですね、おじ様」

 ダルクはバサラの斬撃を前に、手が震えるも自身が倒すしかない敵を前にして、その震えを越えて、声を上げる。それに対してバサラは内心焦りまくりながら、それを隠す様に真剣な顔で答えた。

「僕も本気だ。容赦はしない」

(涅槃静寂ニルヴァーナでの斬撃、気をつけなきゃ)
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