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第6話 本当のことを言うと、アールグレイって、ちょっと苦手です
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ドアの向こうは、とても大きな部屋だった。
学園の教室ぐらいは、あるだろうか。
右手は一面が窓で、陽の光が降り注いでいる。
部屋のなかは、調度品が少なく、ずっと奥には事務机とファイル用の棚があった。
床はコンクリートの打ちっぱなしで、本や包装用の紙、大小、様々な形の箱などが転がっている。
天井は、どれが光源かわからないが、全体がぼんやり光っていて、充分な明るさがあった。
窓から差す光から考えると、午後ぐらいの時間ではないだろうか。
「おー、ようやく来たか」
今度は、肉声が聞こえてきた。
事務机は書類で埋まっていて、そこから、手が伸びている。
「やっと、あたしも休憩時間になったところだよ。そっちの、ソファに座っててもらえる?」
腕しか見えないが、声からすると、女性のようだった。
夕里菜《ゆりな》は、応接セットへと、ゆっくり近づいていった。
ソファは、孤島のように部屋の真ん中に、ぽつんと位置している。
ここからでは、よく見えないが、窓の向こうには、青空と草原、森林、舗装されていない道、遠くの山岳などが広がっているようだった。
「あっ、あ、いやぁ……あぁ~」
妙に艶っぽい声が聞こえてきて、そちらへ視線を向けると、書類の山が崩れて、次々となだれを引き起こしてしまっていた。
紙の束が、床へと広がり、ばさばさと舞った。
「あぁ、もう!」
書類の山が崩れて、事務机に座っていた人物の上半身が見えた。
白衣を着た、黒髪をストレートに伸ばした、綺麗な女性だった。
年齢は、二十代後半ぐらい。
うっすらと化粧をしており、声よりもずっと、大人っぽい印象だった。
「せっかく、まとめていたのにぃ」
立ち上がると、事務机を蹴飛ばした。
がん、と派手な音が鳴り、さらに本やクリップで留めていた紙の束がばさばさと落下していく。
「千砂《ちさ》センセ、千砂センセ。この書類をきちんと片づけるのは、千砂センセですよね。私、何度も警告しましたから。こんな、ぞんざいな書類の置き方をしたら、きっと崩れるに違いない、と私、言いましたから。ひとりでぜ~んぶ、処理なさるんですよね」
トレイを手にしたメイド服を着た女性が、そう言った。
カップとポットが、トレイの上に乗っている。
黒と白の、クラシックな衣裳が、彼女の存在を目立たなくさせていたのだろうか。
最初からいたのか、途中から入ってきたのか——いずれにしても、夕里菜はまったく、そのメイド姿の女性に気づかなかった。
黒のミニのワンピースに白いエプロンを巻き、白いアームカバー、太腿には黒タイツを穿いていて、ガーターベルトが覗いていた。
付け襟には、ピンク色のリボンが結ばれていて、とても可愛らしかった。
稲穂色の長い髪が、カチューシャの横の部分から、ツインテールにして、長く垂らしていた。
髪の尖端にはリボンを巻いているが、それは付け襟と、お揃いになっていた。
——それにしても……あんなに短いワンピースなら、少し屈んだだけで、下着が見えちゃうんじゃないのかな……。
心のなかで呟いてから、夕里菜は自分が下着を穿いていないことを思い出し、両脚をしっかりと閉ざした。
「あーん、アリエスぅ。そんな、意地悪しないよね? ねぇ?」
千砂と呼ばれた女性が、腕を広げて抱きつこうとするが、メイド服の女性は、トレイに載せられたカップやポットを揺らすことなく、身軽にかわしてしまった。
「千砂センセ……意地悪をして欲しいのなら、も~っと、徹底的にしてあげても、いいですわよ」
「本気じゃないよね。あ~ん、アリエスちゃあん。やっと、ひと息つけるようになったんだから、ねぇ」
いい大人の女性が、メイド姿の女の子の機嫌を取っているのは、ちょっと異様に見えるが、ふたりはきっと、こういうやり取りを何回も、繰り返しているのだろう。
「わかりました、わかりました。片付けは手伝いますけど、今度から、きちんとしてくださいね」
その台詞、きっと、また言うことになるんだろうな……。
思ったが、夕里菜は口にはしなかった。
そして、ふたりは夕里菜のいるソファのところまで、やって来た。
千砂は背中を思いっきり反らして、伸びをすると、テーブルを挟んで、夕里菜と反対側のソファに沈み込むように、座った。
どういう意味なのか、わからないが、千砂は体温計を咥えていた。
アリエスが身を屈めて、トレイをテーブルに置いた。
ティーポットと砂糖壺、それにティーカップを三人分、置くと、慣れた手つきで紅茶を注いでいった。
「紅茶か……お茶菓子とかはないの」
「千砂センセをあんまり、甘やかすと、きちんとお仕事をして頂けないと思いましたので」
「ふぅん……あたしはいいけどさぁ、その……ええと?」
千砂が、夕里菜を見る。
「あ……夕里菜です」
「夕里菜さんね。上の名前は、わかる?」
千砂が、クリップボードを手にしていた。
咥えた体温計を動かしながら、万年筆を持つ。
「は、はい。霧島《きりしま》夕里菜です」
「あたしは、妙高《みょうこう》千砂。この桜ヶ咲学院で、軍医みたいなことをしている。まぁ、任官仕立てで、引き継ぎでいっぱいいっぱいなんだけどね」
「軍医……ですか?」
「そ。桜ヶ咲学院は、奈落よりのものとの戦闘の最前線となっているからね。ま、階級といっても、命令系統をはっきりとさせるもので、軍隊ってわけじゃない。あくまでも、便宜上のものだよ」
「は……はぁ」
「夕里菜さま。私は、アリエス・フレッチャーです。バリバリの現役のアリアンフロッドではありませんが、どこかでまた、出会うかもしれませんわね」
メイド姿の女性が、言った。
——アリアンフロッド……。
その言葉は、アリサと郁歌との会話でも、出てきたはずだ。
「さぁ、まずは紅茶をひと口、頂きませんか? 冷めてしまいますわ」
夕里菜は、砂糖壺から角砂糖を三つ、取り出してかき混ぜた。
三人、しばらく、口を閉ざして、紅茶の香りを嗅いでから、ゆっくりと味わって飲んだ。
——これは、アール・グレイだろうか……。
喉にすうっと、爽やかなものが通り抜けていく感覚がある。
紅茶の味を楽しみながら、夕里菜はアリエスをちらちらと、見てしまう。
アリエス、という名前からして、日本人っぽくないな、とは思っていたが、顔立ちもそうだ。
顔の彫りが深く、肌は本当に綺麗だった。
ハーフでもないだろう。
瞳も、よく見たら、深いブルーの色で、澄み切っている。
そんな目で見つめられたら、じっと、魅入られたように、身動きできなくなってしまうのかもしれない。
「あ……アリエスさんは、どこ出身なんですか?」
そう訊くと、アリエスと千砂は視線を合わせた。
「出身……で、ございますか。私も、夕里菜さまと同じで、はっきり記憶が残ってはおりませんので、正確にはお答えできませんが、おそらく、英国かと」
「それにしては……日本語がとても、お上手ですね」
「日本語……ええと、千砂センセ?」
「ん? あぁ……まず、言葉について、説明しておいたほうがいいのかな」
千砂は、カップをテーブルに置き直すと、腕を組んだ。
「……あたしたちが喋っているのは、日本語じゃない」
「え? でも……」
「基本的に習得しているスキルのひとつ、と説明すれば、わかりやすいのかな。脳に既にインストールされているんだよ。桜ヶ咲学院には、色んな時代、地域から召喚されてくるアリアンフロッドが集まってきているからね。だから、共通の言語を用意しているってわけさ。もし、学院の外でアリアンフロッド以外の人間と喋ることがあれば、気をつけたほうがいい」
「ほ……本当に? 今、喋っているのは、日本語じゃないんですか」
「夕里菜さま。紙にものを書いてみれば、明白です。そうですね……数字を書いて頂いてみても、よろしいでしょうか」
アリエスが、メモ帳から一枚、破り取ると、ペンを添えて差し出してきた。
言われるまま、夕里菜はペンを走らせた。
「え……えっ?」
数字を書いてみて、びっくりした。
自分では、算用数字を書いているつもりなのに、まったく、見たこともない、記号だった。
続いて、夕里菜は自分の名前を書いてきた。
『わたしの名前は、霧島夕里菜です』
だけど、メモに書かれているのは、まったく別の文字だった。
漢字ですらなく、アルファベットでもない。
「これ、何て書いてあるか、読めますか?」
千砂とアリエスに、差し出してみる。
「ええと……『わたしの名前は、キリシマ・ユリナです』。そう書かれているね」
「——では、ここは、本当に日本ではない、ということなんですか」
ため息をついた。
「はっきりと言い切ることは出来ないけど、この世界は二度目の生を受けた場所なんだと思う。がっかりさせちゃうけど、もう日本には帰れないってことだね」
「そう……ですか……」
夢ではない、と思いはじめた時から、ある程度、覚悟していたことだった。
「体のほうは、どうかな? 今の紅茶の味も、変に感じなかった?」
「いいえ……普通に、紅茶と砂糖の味がしましたけど」
「夕里菜さま……千砂センセには、注意したほうがいいですわよ。医者としての腕はいいのですけど、どんどん、セクハラまがいのことを、してきますからね」
「そこは、職業熱心と呼んで欲しいね。さっそくだけど、夕里菜ちゃん。ちょっと、立ってみてくれる?」
——いつの間にか、ちゃん付けになっている……。
気づいたが、親しみを込められている、と思うことにした。
千砂が、ソファを移動してきた。
「両手をまっすぐ、広げてみて」
指示に従い、Tの字になるように、腕を持ち上げてみる。
「ちょっと……いい?」
了解するより前に、千砂が体に触れてきた。
さわさわと、腕や肩、首筋、それに腋へと、触ってくる。
——なんだか、手つきがいやらしい……。
思ったが、夕里菜は口を閉ざしていた。
恥ずかしさで、体温が上昇してきた。
息が熱を帯びる。
学園の教室ぐらいは、あるだろうか。
右手は一面が窓で、陽の光が降り注いでいる。
部屋のなかは、調度品が少なく、ずっと奥には事務机とファイル用の棚があった。
床はコンクリートの打ちっぱなしで、本や包装用の紙、大小、様々な形の箱などが転がっている。
天井は、どれが光源かわからないが、全体がぼんやり光っていて、充分な明るさがあった。
窓から差す光から考えると、午後ぐらいの時間ではないだろうか。
「おー、ようやく来たか」
今度は、肉声が聞こえてきた。
事務机は書類で埋まっていて、そこから、手が伸びている。
「やっと、あたしも休憩時間になったところだよ。そっちの、ソファに座っててもらえる?」
腕しか見えないが、声からすると、女性のようだった。
夕里菜《ゆりな》は、応接セットへと、ゆっくり近づいていった。
ソファは、孤島のように部屋の真ん中に、ぽつんと位置している。
ここからでは、よく見えないが、窓の向こうには、青空と草原、森林、舗装されていない道、遠くの山岳などが広がっているようだった。
「あっ、あ、いやぁ……あぁ~」
妙に艶っぽい声が聞こえてきて、そちらへ視線を向けると、書類の山が崩れて、次々となだれを引き起こしてしまっていた。
紙の束が、床へと広がり、ばさばさと舞った。
「あぁ、もう!」
書類の山が崩れて、事務机に座っていた人物の上半身が見えた。
白衣を着た、黒髪をストレートに伸ばした、綺麗な女性だった。
年齢は、二十代後半ぐらい。
うっすらと化粧をしており、声よりもずっと、大人っぽい印象だった。
「せっかく、まとめていたのにぃ」
立ち上がると、事務机を蹴飛ばした。
がん、と派手な音が鳴り、さらに本やクリップで留めていた紙の束がばさばさと落下していく。
「千砂《ちさ》センセ、千砂センセ。この書類をきちんと片づけるのは、千砂センセですよね。私、何度も警告しましたから。こんな、ぞんざいな書類の置き方をしたら、きっと崩れるに違いない、と私、言いましたから。ひとりでぜ~んぶ、処理なさるんですよね」
トレイを手にしたメイド服を着た女性が、そう言った。
カップとポットが、トレイの上に乗っている。
黒と白の、クラシックな衣裳が、彼女の存在を目立たなくさせていたのだろうか。
最初からいたのか、途中から入ってきたのか——いずれにしても、夕里菜はまったく、そのメイド姿の女性に気づかなかった。
黒のミニのワンピースに白いエプロンを巻き、白いアームカバー、太腿には黒タイツを穿いていて、ガーターベルトが覗いていた。
付け襟には、ピンク色のリボンが結ばれていて、とても可愛らしかった。
稲穂色の長い髪が、カチューシャの横の部分から、ツインテールにして、長く垂らしていた。
髪の尖端にはリボンを巻いているが、それは付け襟と、お揃いになっていた。
——それにしても……あんなに短いワンピースなら、少し屈んだだけで、下着が見えちゃうんじゃないのかな……。
心のなかで呟いてから、夕里菜は自分が下着を穿いていないことを思い出し、両脚をしっかりと閉ざした。
「あーん、アリエスぅ。そんな、意地悪しないよね? ねぇ?」
千砂と呼ばれた女性が、腕を広げて抱きつこうとするが、メイド服の女性は、トレイに載せられたカップやポットを揺らすことなく、身軽にかわしてしまった。
「千砂センセ……意地悪をして欲しいのなら、も~っと、徹底的にしてあげても、いいですわよ」
「本気じゃないよね。あ~ん、アリエスちゃあん。やっと、ひと息つけるようになったんだから、ねぇ」
いい大人の女性が、メイド姿の女の子の機嫌を取っているのは、ちょっと異様に見えるが、ふたりはきっと、こういうやり取りを何回も、繰り返しているのだろう。
「わかりました、わかりました。片付けは手伝いますけど、今度から、きちんとしてくださいね」
その台詞、きっと、また言うことになるんだろうな……。
思ったが、夕里菜は口にはしなかった。
そして、ふたりは夕里菜のいるソファのところまで、やって来た。
千砂は背中を思いっきり反らして、伸びをすると、テーブルを挟んで、夕里菜と反対側のソファに沈み込むように、座った。
どういう意味なのか、わからないが、千砂は体温計を咥えていた。
アリエスが身を屈めて、トレイをテーブルに置いた。
ティーポットと砂糖壺、それにティーカップを三人分、置くと、慣れた手つきで紅茶を注いでいった。
「紅茶か……お茶菓子とかはないの」
「千砂センセをあんまり、甘やかすと、きちんとお仕事をして頂けないと思いましたので」
「ふぅん……あたしはいいけどさぁ、その……ええと?」
千砂が、夕里菜を見る。
「あ……夕里菜です」
「夕里菜さんね。上の名前は、わかる?」
千砂が、クリップボードを手にしていた。
咥えた体温計を動かしながら、万年筆を持つ。
「は、はい。霧島《きりしま》夕里菜です」
「あたしは、妙高《みょうこう》千砂。この桜ヶ咲学院で、軍医みたいなことをしている。まぁ、任官仕立てで、引き継ぎでいっぱいいっぱいなんだけどね」
「軍医……ですか?」
「そ。桜ヶ咲学院は、奈落よりのものとの戦闘の最前線となっているからね。ま、階級といっても、命令系統をはっきりとさせるもので、軍隊ってわけじゃない。あくまでも、便宜上のものだよ」
「は……はぁ」
「夕里菜さま。私は、アリエス・フレッチャーです。バリバリの現役のアリアンフロッドではありませんが、どこかでまた、出会うかもしれませんわね」
メイド姿の女性が、言った。
——アリアンフロッド……。
その言葉は、アリサと郁歌との会話でも、出てきたはずだ。
「さぁ、まずは紅茶をひと口、頂きませんか? 冷めてしまいますわ」
夕里菜は、砂糖壺から角砂糖を三つ、取り出してかき混ぜた。
三人、しばらく、口を閉ざして、紅茶の香りを嗅いでから、ゆっくりと味わって飲んだ。
——これは、アール・グレイだろうか……。
喉にすうっと、爽やかなものが通り抜けていく感覚がある。
紅茶の味を楽しみながら、夕里菜はアリエスをちらちらと、見てしまう。
アリエス、という名前からして、日本人っぽくないな、とは思っていたが、顔立ちもそうだ。
顔の彫りが深く、肌は本当に綺麗だった。
ハーフでもないだろう。
瞳も、よく見たら、深いブルーの色で、澄み切っている。
そんな目で見つめられたら、じっと、魅入られたように、身動きできなくなってしまうのかもしれない。
「あ……アリエスさんは、どこ出身なんですか?」
そう訊くと、アリエスと千砂は視線を合わせた。
「出身……で、ございますか。私も、夕里菜さまと同じで、はっきり記憶が残ってはおりませんので、正確にはお答えできませんが、おそらく、英国かと」
「それにしては……日本語がとても、お上手ですね」
「日本語……ええと、千砂センセ?」
「ん? あぁ……まず、言葉について、説明しておいたほうがいいのかな」
千砂は、カップをテーブルに置き直すと、腕を組んだ。
「……あたしたちが喋っているのは、日本語じゃない」
「え? でも……」
「基本的に習得しているスキルのひとつ、と説明すれば、わかりやすいのかな。脳に既にインストールされているんだよ。桜ヶ咲学院には、色んな時代、地域から召喚されてくるアリアンフロッドが集まってきているからね。だから、共通の言語を用意しているってわけさ。もし、学院の外でアリアンフロッド以外の人間と喋ることがあれば、気をつけたほうがいい」
「ほ……本当に? 今、喋っているのは、日本語じゃないんですか」
「夕里菜さま。紙にものを書いてみれば、明白です。そうですね……数字を書いて頂いてみても、よろしいでしょうか」
アリエスが、メモ帳から一枚、破り取ると、ペンを添えて差し出してきた。
言われるまま、夕里菜はペンを走らせた。
「え……えっ?」
数字を書いてみて、びっくりした。
自分では、算用数字を書いているつもりなのに、まったく、見たこともない、記号だった。
続いて、夕里菜は自分の名前を書いてきた。
『わたしの名前は、霧島夕里菜です』
だけど、メモに書かれているのは、まったく別の文字だった。
漢字ですらなく、アルファベットでもない。
「これ、何て書いてあるか、読めますか?」
千砂とアリエスに、差し出してみる。
「ええと……『わたしの名前は、キリシマ・ユリナです』。そう書かれているね」
「——では、ここは、本当に日本ではない、ということなんですか」
ため息をついた。
「はっきりと言い切ることは出来ないけど、この世界は二度目の生を受けた場所なんだと思う。がっかりさせちゃうけど、もう日本には帰れないってことだね」
「そう……ですか……」
夢ではない、と思いはじめた時から、ある程度、覚悟していたことだった。
「体のほうは、どうかな? 今の紅茶の味も、変に感じなかった?」
「いいえ……普通に、紅茶と砂糖の味がしましたけど」
「夕里菜さま……千砂センセには、注意したほうがいいですわよ。医者としての腕はいいのですけど、どんどん、セクハラまがいのことを、してきますからね」
「そこは、職業熱心と呼んで欲しいね。さっそくだけど、夕里菜ちゃん。ちょっと、立ってみてくれる?」
——いつの間にか、ちゃん付けになっている……。
気づいたが、親しみを込められている、と思うことにした。
千砂が、ソファを移動してきた。
「両手をまっすぐ、広げてみて」
指示に従い、Tの字になるように、腕を持ち上げてみる。
「ちょっと……いい?」
了解するより前に、千砂が体に触れてきた。
さわさわと、腕や肩、首筋、それに腋へと、触ってくる。
——なんだか、手つきがいやらしい……。
思ったが、夕里菜は口を閉ざしていた。
恥ずかしさで、体温が上昇してきた。
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