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夏祭り編
後輩ちゃんと
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午後七時を過ぎ、空はようやく黒さを見せてきた。それでも、まだ夏だからやや明るいと言った様子である。
お祭りでも、伸哉は大活躍? と言うくらいの存在感を示していた。手の器用さ、集中力、センスが飛び抜けている伸哉は輪投げ、射的、型抜きを次々とクリアしていった。
そして今、伸哉は型抜きで得た2000円からわたあめを買い、咲香と一緒に食べている。
「久しぶりに食べるけど、甘いねえ。でもこの甘さがいいんよねえ」
咲香はわたあめを頬張りながら言う。伸哉はその様子を見て、少し見惚れているようだ。
「う、うん。そうだね。僕も小さい頃に食べて以来だけど、たまにはいいよね」
見惚れているのを悟られぬよう、伸哉は誤魔化すようにコメントをする。それを見て、咲香はうふふと微笑んだ。
「けど、伸哉くん本当器用と言うか凄いよね。なんでも簡単に熟すけん。私もやってみるけど、全然出来んけん、やっぱモノが違うんやろうねえ」
「そんなことないよ。今日はたまたま出来ただけで、明日はできないかもしれない。偶然だよ、偶然」
伸哉なりに咲香をフォローした。咲香は、そう言うことにしとくねと返事をした。その後もとりとめのない会話を続けていた。
本当に些細な話で、特段面白いオチもタメになる事もない会話だ。けれど、それが良かった。それだけで二人は幸せそうにしていた。
「あれ? 村野先輩じゃないですか?」
二人で会話している最中だった。華奢な体格で、肩に少しかかるくらいの濃紺の髪をした女の子が、咲香に少し低い声で話掛けてきた。
伸哉は少し見覚えがあるが、誰かを思い出せない。一方の咲香は直ぐに誰かが分かったようだ。
「あらぁ。優梨華ちゃんじゃない! 久しぶりやねえ!」
咲香は少しテンションが上がっていた。優梨華と言う名前を聞いて伸哉は思い出した。幸長の妹だと言うことを。
前に幸長に聞いた話を参考にすれば、この二人は同じ中学で、しかも同じバスケ部のはずである。つまり、同じ部活の先輩後輩の関係になる。
なるほど。だから少しテンションが上がっていたのか。伸哉はそう納得した。
「お久しぶりです。先輩は女友達とお祭りですか?」
「おっ、女……」
優梨華の何気ない一言に、伸哉は大きなショックを受けていた。まるで、試験に落ちて絶望している人のように。咲香は少し苦笑いをしていた。
「えっとねえ。こう見えるけど、男の子なんよね。名前は伸哉くんって言うの」
それを聞いた優梨華はゆっくりと伸哉の方に少し手を近づける。近くまで来て、少し触れたが、直ぐに手を引っ込めてしまった。伸哉は何をされたのか分からなかったが、優梨華はなるほどと口に出していた。
「本当みたいですね。近付けはしますけど、触るまではできないので男ですね。女性と間違えてすいませんでした」
優梨華はぺこりと頭を下げた。
「いいよ。いいよ。大体の人が間違えるから仕方ないよ」
伸哉はそう言った。
「そう言って頂けるのなら助かります」
優梨華はそう返事をした。少しした後、咲香は優梨華に質問をする。
「優梨華ちゃんは、今日もお兄さんの観察に来たの?」
その問いに、優梨華は顔を赤くする。まるで屋台のリンゴ飴のようだ。
「ちっ、違います! たまたまこう言う祭りがあるから来ただけで、決して兄の観察など……」
優梨華は必死で否定しているが、他人から見ればそうは見えない。ツンデレのような反応にしか見えない。それを面白く思ったのか、咲香は笑い出した。
「そんな否定せんでも。私は知っとるから、私には素直に言えばいいのに」
「違います! 本当に違いますから!」
「じゃあ、涼花ちゃんに会いにでも来たとね?」
涼花と言う名前に優梨華は反応する。また一段とヒートアップしているようだ。
「そんなのあるわけないじゃないですか! 私と笠野さんはラ・イ・バ・ルなんです! そんな人に会いに行くわけないじゃないですか」
優梨華はぷりぷりしている。咲香はそれを見て笑っている。伸哉は少し気まずそうな反応をしている。少なくとも、二人の間には入らない方が良さそうだと考えてはいるようだ。
「そんなこと言って! 本当はそうじゃないんでしょ?」
咲香の言葉に優梨華は少し黙り込む。そうして言葉が出てきた所で口を開いた。
「……村野先輩は本当に苦手です。人の隠してることに土足でズケズケと踏み入ってきて……」
ぷくーっと頬を膨らませている。それほど嫌だったのだろう。咲香はそれを見てか、真剣な表情をし始めた。
「早く素直になれないと、涼花ちゃんはどっか遠くの高校に行って、離れ離れになっちゃうよ。それでいいと?」
優梨華は再び顔を赤く染める。
「もういいです! 私帰ります! しばらく話しかけてこないでください!」
高く幼めなかわいい声でそう言って、優梨華は何処かへと走って行ってしまった。伸哉は心配になったのか追いかけようとするが、咲香はそれを止めた。
「大丈夫。あの子ちょっと他人に素直になれんだけ。でも、賢いからいつか分かってくれる。けど、今はその時じゃないから放っておくのが一番」
咲香の言葉を聞いて、伸哉は分かったと返事をした。空は殆ど漆黒に染まり切ろうとしていた。
お祭りでも、伸哉は大活躍? と言うくらいの存在感を示していた。手の器用さ、集中力、センスが飛び抜けている伸哉は輪投げ、射的、型抜きを次々とクリアしていった。
そして今、伸哉は型抜きで得た2000円からわたあめを買い、咲香と一緒に食べている。
「久しぶりに食べるけど、甘いねえ。でもこの甘さがいいんよねえ」
咲香はわたあめを頬張りながら言う。伸哉はその様子を見て、少し見惚れているようだ。
「う、うん。そうだね。僕も小さい頃に食べて以来だけど、たまにはいいよね」
見惚れているのを悟られぬよう、伸哉は誤魔化すようにコメントをする。それを見て、咲香はうふふと微笑んだ。
「けど、伸哉くん本当器用と言うか凄いよね。なんでも簡単に熟すけん。私もやってみるけど、全然出来んけん、やっぱモノが違うんやろうねえ」
「そんなことないよ。今日はたまたま出来ただけで、明日はできないかもしれない。偶然だよ、偶然」
伸哉なりに咲香をフォローした。咲香は、そう言うことにしとくねと返事をした。その後もとりとめのない会話を続けていた。
本当に些細な話で、特段面白いオチもタメになる事もない会話だ。けれど、それが良かった。それだけで二人は幸せそうにしていた。
「あれ? 村野先輩じゃないですか?」
二人で会話している最中だった。華奢な体格で、肩に少しかかるくらいの濃紺の髪をした女の子が、咲香に少し低い声で話掛けてきた。
伸哉は少し見覚えがあるが、誰かを思い出せない。一方の咲香は直ぐに誰かが分かったようだ。
「あらぁ。優梨華ちゃんじゃない! 久しぶりやねえ!」
咲香は少しテンションが上がっていた。優梨華と言う名前を聞いて伸哉は思い出した。幸長の妹だと言うことを。
前に幸長に聞いた話を参考にすれば、この二人は同じ中学で、しかも同じバスケ部のはずである。つまり、同じ部活の先輩後輩の関係になる。
なるほど。だから少しテンションが上がっていたのか。伸哉はそう納得した。
「お久しぶりです。先輩は女友達とお祭りですか?」
「おっ、女……」
優梨華の何気ない一言に、伸哉は大きなショックを受けていた。まるで、試験に落ちて絶望している人のように。咲香は少し苦笑いをしていた。
「えっとねえ。こう見えるけど、男の子なんよね。名前は伸哉くんって言うの」
それを聞いた優梨華はゆっくりと伸哉の方に少し手を近づける。近くまで来て、少し触れたが、直ぐに手を引っ込めてしまった。伸哉は何をされたのか分からなかったが、優梨華はなるほどと口に出していた。
「本当みたいですね。近付けはしますけど、触るまではできないので男ですね。女性と間違えてすいませんでした」
優梨華はぺこりと頭を下げた。
「いいよ。いいよ。大体の人が間違えるから仕方ないよ」
伸哉はそう言った。
「そう言って頂けるのなら助かります」
優梨華はそう返事をした。少しした後、咲香は優梨華に質問をする。
「優梨華ちゃんは、今日もお兄さんの観察に来たの?」
その問いに、優梨華は顔を赤くする。まるで屋台のリンゴ飴のようだ。
「ちっ、違います! たまたまこう言う祭りがあるから来ただけで、決して兄の観察など……」
優梨華は必死で否定しているが、他人から見ればそうは見えない。ツンデレのような反応にしか見えない。それを面白く思ったのか、咲香は笑い出した。
「そんな否定せんでも。私は知っとるから、私には素直に言えばいいのに」
「違います! 本当に違いますから!」
「じゃあ、涼花ちゃんに会いにでも来たとね?」
涼花と言う名前に優梨華は反応する。また一段とヒートアップしているようだ。
「そんなのあるわけないじゃないですか! 私と笠野さんはラ・イ・バ・ルなんです! そんな人に会いに行くわけないじゃないですか」
優梨華はぷりぷりしている。咲香はそれを見て笑っている。伸哉は少し気まずそうな反応をしている。少なくとも、二人の間には入らない方が良さそうだと考えてはいるようだ。
「そんなこと言って! 本当はそうじゃないんでしょ?」
咲香の言葉に優梨華は少し黙り込む。そうして言葉が出てきた所で口を開いた。
「……村野先輩は本当に苦手です。人の隠してることに土足でズケズケと踏み入ってきて……」
ぷくーっと頬を膨らませている。それほど嫌だったのだろう。咲香はそれを見てか、真剣な表情をし始めた。
「早く素直になれないと、涼花ちゃんはどっか遠くの高校に行って、離れ離れになっちゃうよ。それでいいと?」
優梨華は再び顔を赤く染める。
「もういいです! 私帰ります! しばらく話しかけてこないでください!」
高く幼めなかわいい声でそう言って、優梨華は何処かへと走って行ってしまった。伸哉は心配になったのか追いかけようとするが、咲香はそれを止めた。
「大丈夫。あの子ちょっと他人に素直になれんだけ。でも、賢いからいつか分かってくれる。けど、今はその時じゃないから放っておくのが一番」
咲香の言葉を聞いて、伸哉は分かったと返事をした。空は殆ど漆黒に染まり切ろうとしていた。
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