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彼の話(彼女の影)
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同期の工藤くんは、院卒なので私より2つ年上だ。そのせいか他の同期の男子達と違って、振る舞いが大人っぽい。仕事もできる。
彼の就業態度は、配属部署の上司達にも好印象を与えているし、指導担当の先輩にも可愛がられている。
ビジネスマナーは、とても同じ新人とは思えなかったので、私は思わず彼に聞いてみた。
「工藤くん、本当に新卒なの?年ごまかしてんじゃない?」
「そうだよ。就活にはめっちゃ苦労した新卒入社だよ。」
彼は苦笑しながら答えた。
「とてもそうとは思えないんだけど?その経験値はどこで?」
「バイト先で、4年勤めたところにいた社員の人が、厳しくて、バイトだからって甘やかさないで仕込んでくれたんだよ。これは、いずれ社会人になった時にきっと役に立つってね。」
「へぇ、すごいねぇ、そのバイト先。普通、バイトにそこまでしてくれないよねぇ。」
私の感想に彼は笑って
「うん、俺もそう思う。多くのバイト仲間には、口うるさいおばさんって言われてたけど、
感謝している奴も少なからずいた。」
おばさん、そっか、おばさんなんだ。でも、なんかその女性のこと話す時、めっちゃいい顔してるんじゃない。工藤くん。
工藤くんは、仕事ができるだけではなく、そこそこのイケメンでもある。だから、同期肉食系女子No.1の吉沢からロックオンされている。工藤くんはといえば、吉沢のことは嫌いらしい。多分、バイト先のおばさんとは、正反対のタイプの女だからだろう。吉沢の攻撃をスルーする工藤くんは、他の女子社員からも人気がある。ただ、彼の性格を把握している女子社員は、吉沢のようなあからさまなアプローチはしない。水面下で静かな戦いを繰り広げている。
私はといえば、同期ということが幸いして他の女子社員よりは、一歩先に出ることができた。どちらかと言えば、地味で目立たない方に分類される私だが、工藤くんはそういう女性がタイプだったらしいので、彼は私に対して悪いイメージは持っていない。
1,2ヶ月おきに終業後に行われる同期の飲み会以外にも、プライベートで映画やなんかに行くようになった。「好きだ」とは言われたわけではないけど、もしかしたら、クリスマスは一緒に過ごせるんじゃないかなぁと淡い期待を持つようにはなっていた。
クリスマスまで後1ヶ月ちょっととなった今夜、12月は飲み会が増えるからということで年内最後の同期の飲み会を終えて、同じ路線の工藤くんと私は、駅に向かっていた。雑談をしながら歩いていた私に、工藤くんが、
「なぁ、高田、クリスマスって」
と話しかけた。ドキン、今、クリスマスってクリスマスって…。工藤くんは、そこまで言って突然、私の後ろの方を見て固まった。
えっ、何?何なの?
「…りさん…。」
小さく、小さく、工藤くんがつぶやく。彼は私の後方を見たまま、一歩踏み出し、そこでまた固まった。
「…がう…」
また、小さくつぶやくと、頭を振って私に視線を戻すと
「行こう。」
といって駅に向かって歩き出した。
私は、「クリスマスって」の続きを聞くことはできなかった。工藤くん、多分、「えりさん」って言った、きっとこれが彼の心を占めている女性。その人は、元バイト先にいるんだろう。似た人を見かけただけで、彼に我を忘れさせた女性。嫌っていうほど思い知った。彼がその女性を忘れることはないし、私のことを見てくれることはないということを…。
彼の就業態度は、配属部署の上司達にも好印象を与えているし、指導担当の先輩にも可愛がられている。
ビジネスマナーは、とても同じ新人とは思えなかったので、私は思わず彼に聞いてみた。
「工藤くん、本当に新卒なの?年ごまかしてんじゃない?」
「そうだよ。就活にはめっちゃ苦労した新卒入社だよ。」
彼は苦笑しながら答えた。
「とてもそうとは思えないんだけど?その経験値はどこで?」
「バイト先で、4年勤めたところにいた社員の人が、厳しくて、バイトだからって甘やかさないで仕込んでくれたんだよ。これは、いずれ社会人になった時にきっと役に立つってね。」
「へぇ、すごいねぇ、そのバイト先。普通、バイトにそこまでしてくれないよねぇ。」
私の感想に彼は笑って
「うん、俺もそう思う。多くのバイト仲間には、口うるさいおばさんって言われてたけど、
感謝している奴も少なからずいた。」
おばさん、そっか、おばさんなんだ。でも、なんかその女性のこと話す時、めっちゃいい顔してるんじゃない。工藤くん。
工藤くんは、仕事ができるだけではなく、そこそこのイケメンでもある。だから、同期肉食系女子No.1の吉沢からロックオンされている。工藤くんはといえば、吉沢のことは嫌いらしい。多分、バイト先のおばさんとは、正反対のタイプの女だからだろう。吉沢の攻撃をスルーする工藤くんは、他の女子社員からも人気がある。ただ、彼の性格を把握している女子社員は、吉沢のようなあからさまなアプローチはしない。水面下で静かな戦いを繰り広げている。
私はといえば、同期ということが幸いして他の女子社員よりは、一歩先に出ることができた。どちらかと言えば、地味で目立たない方に分類される私だが、工藤くんはそういう女性がタイプだったらしいので、彼は私に対して悪いイメージは持っていない。
1,2ヶ月おきに終業後に行われる同期の飲み会以外にも、プライベートで映画やなんかに行くようになった。「好きだ」とは言われたわけではないけど、もしかしたら、クリスマスは一緒に過ごせるんじゃないかなぁと淡い期待を持つようにはなっていた。
クリスマスまで後1ヶ月ちょっととなった今夜、12月は飲み会が増えるからということで年内最後の同期の飲み会を終えて、同じ路線の工藤くんと私は、駅に向かっていた。雑談をしながら歩いていた私に、工藤くんが、
「なぁ、高田、クリスマスって」
と話しかけた。ドキン、今、クリスマスってクリスマスって…。工藤くんは、そこまで言って突然、私の後ろの方を見て固まった。
えっ、何?何なの?
「…りさん…。」
小さく、小さく、工藤くんがつぶやく。彼は私の後方を見たまま、一歩踏み出し、そこでまた固まった。
「…がう…」
また、小さくつぶやくと、頭を振って私に視線を戻すと
「行こう。」
といって駅に向かって歩き出した。
私は、「クリスマスって」の続きを聞くことはできなかった。工藤くん、多分、「えりさん」って言った、きっとこれが彼の心を占めている女性。その人は、元バイト先にいるんだろう。似た人を見かけただけで、彼に我を忘れさせた女性。嫌っていうほど思い知った。彼がその女性を忘れることはないし、私のことを見てくれることはないということを…。
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