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第1章 大学生、出会う。
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味のしない食事を終えて、部屋に帰る。生憎、セットドリンク一杯だけで込み合う飲食店に一人で居座る勇気を、周は持ち合わせていなかった。
「おにいちゃん、どうしたの?」
「あ、いや……」
帰り道、これからの事をずっと考え続けている。あれやこれや浮かんでは消えるーーその全ての策は、きっと最善策ではないのだろう。表情の消え失せたその顔は、
「おにいちゃん、これなあに?」
「あっ……それはっ」
あちらこちらに興味を示す女の子ーーみいちゃんよりも、よっぽど生気がない。
「きれいなおねえさんだねえ」
「やめて! それは早いって!!」
ベッドの下などという典型的なところに自分の欲望を詰め込んでおいたことをほとほと後悔しながら、衣替えくらいでしか空けることのないタンスに、その本を仕舞い込む。
「ソファーだあ!」
「……」
今度はソファーにダイブする女の子を、微笑ましく見つめると、
ーーこうやって見ると、案外かわいい……
ふとした瞬間、みいちゃんが『透けている』という現実を突き付けられて、反射的に目を逸らす。
急に静かになったので、不安になりソファーを見ると、
「あれ、……み、みいちゃん?」
「ばあ」
「うおあっ!?」
どこかしらに隠れていたみいちゃんに驚かされる。
「あはは、おにいちゃん、おもしろーい」
「……ははは……」
その無邪気さに怒ることもできないが、怖いものは怖い。飛び出したのは、乾いた笑いだけだった。
「むにゃー」
先程までの元気はどこへやら、みいちゃんは突如として目を擦りだす。
「眠たいの?」
本当にそんな感覚があるのかはさておき、恐る恐る問いかける周に、みいちゃんはこくりと頷く。
「おやすみなさいー」
「あ、ちょっと」
そのまま、床に寝そべるみいちゃんを、ベッドに動かそうとするが、
「やっぱり触るのは無理……か。」
毛布を掛けてやろうとするが、それさえも軽々とみいちゃんの体をを無視してしまう。
「はあ……おやすみ。」
せめて、部屋の電気だけ消してやろう。周は、ため息混じりに、静かにその場を去った。
とりあえず風呂に入り、ベッドの中で今後の対策を考える。
「やっぱり、誰かに相談……」
携帯で、メッセージを送ろうとするが
「何て言おう……」
どう説明すればよいのか、説明したところで受け入れてもらえるのか……指が震え、携帯電話を枕元に置く。
「こんな眉唾、誰も信じないよな……」
仮に信じてもらえたとして、次に待っているのはいいところ精神病院の紹介といったところか。
人間は社会性をもつ生物だ。自分はその中ではまあまあ上手くやっている方だとーー周は常々そう思っている。目立ちもせず、特に意見も言わず……『嫌われない』ことについて、ここまで没個性で扱いやすい人間はいないだろう。お陰さまで、どこにいってもそれなりに友人はいる。連絡先も、家も、趣味もーー一定程度の情報は知っている。
けれど、
「相談……」
こんなことを相談して、真剣に聞いてくれる友人は、果たしているのだろうか。周の脳裏に、様々な人物の顔が浮かぶ。
「はあ……」
縁を切られるか、変人として残りの学生生活を送るかーーどちらも御免だ。
ベッドから出て、水を飲む。
「難しいな……」
水の冷たさに呼応するように、先程までちらついていた二人組の顔を鮮明に思い描く。
岡琉依と、横溝秀人ーー共に連絡先も、専攻さえ知らないーーただいつも学食で会うだけの、友人といえるかも分からない関係。けれど、それくらいの薄い付き合いだからこそ、彼らなら大丈夫だと思うのか……
「相談……してみるか……」
否、彼らならば、どんな荒唐無稽な話でも受け入れてくれる、そんな気がしたのだ。
『……悩みがあるんなら相談乗るから、ね?』
不思議と、琉依の言葉には嘘がない、そんな気がした。
ふと足元を見ると、みいちゃんは相変わらずすやすや眠っている。その顔は、幸せに溢れている。
「ごめんね、俺じゃなかったら、もっと……」
申し訳なさやら、情けなさやら、様々な感情がこみ上げる。
寝息は聞こえないが、みいちゃんは確かにそこに『い』る。あどけない寝顔を覗き込んでから、周は今度こそ、眠りに就いた。
「おにいちゃん、どうしたの?」
「あ、いや……」
帰り道、これからの事をずっと考え続けている。あれやこれや浮かんでは消えるーーその全ての策は、きっと最善策ではないのだろう。表情の消え失せたその顔は、
「おにいちゃん、これなあに?」
「あっ……それはっ」
あちらこちらに興味を示す女の子ーーみいちゃんよりも、よっぽど生気がない。
「きれいなおねえさんだねえ」
「やめて! それは早いって!!」
ベッドの下などという典型的なところに自分の欲望を詰め込んでおいたことをほとほと後悔しながら、衣替えくらいでしか空けることのないタンスに、その本を仕舞い込む。
「ソファーだあ!」
「……」
今度はソファーにダイブする女の子を、微笑ましく見つめると、
ーーこうやって見ると、案外かわいい……
ふとした瞬間、みいちゃんが『透けている』という現実を突き付けられて、反射的に目を逸らす。
急に静かになったので、不安になりソファーを見ると、
「あれ、……み、みいちゃん?」
「ばあ」
「うおあっ!?」
どこかしらに隠れていたみいちゃんに驚かされる。
「あはは、おにいちゃん、おもしろーい」
「……ははは……」
その無邪気さに怒ることもできないが、怖いものは怖い。飛び出したのは、乾いた笑いだけだった。
「むにゃー」
先程までの元気はどこへやら、みいちゃんは突如として目を擦りだす。
「眠たいの?」
本当にそんな感覚があるのかはさておき、恐る恐る問いかける周に、みいちゃんはこくりと頷く。
「おやすみなさいー」
「あ、ちょっと」
そのまま、床に寝そべるみいちゃんを、ベッドに動かそうとするが、
「やっぱり触るのは無理……か。」
毛布を掛けてやろうとするが、それさえも軽々とみいちゃんの体をを無視してしまう。
「はあ……おやすみ。」
せめて、部屋の電気だけ消してやろう。周は、ため息混じりに、静かにその場を去った。
とりあえず風呂に入り、ベッドの中で今後の対策を考える。
「やっぱり、誰かに相談……」
携帯で、メッセージを送ろうとするが
「何て言おう……」
どう説明すればよいのか、説明したところで受け入れてもらえるのか……指が震え、携帯電話を枕元に置く。
「こんな眉唾、誰も信じないよな……」
仮に信じてもらえたとして、次に待っているのはいいところ精神病院の紹介といったところか。
人間は社会性をもつ生物だ。自分はその中ではまあまあ上手くやっている方だとーー周は常々そう思っている。目立ちもせず、特に意見も言わず……『嫌われない』ことについて、ここまで没個性で扱いやすい人間はいないだろう。お陰さまで、どこにいってもそれなりに友人はいる。連絡先も、家も、趣味もーー一定程度の情報は知っている。
けれど、
「相談……」
こんなことを相談して、真剣に聞いてくれる友人は、果たしているのだろうか。周の脳裏に、様々な人物の顔が浮かぶ。
「はあ……」
縁を切られるか、変人として残りの学生生活を送るかーーどちらも御免だ。
ベッドから出て、水を飲む。
「難しいな……」
水の冷たさに呼応するように、先程までちらついていた二人組の顔を鮮明に思い描く。
岡琉依と、横溝秀人ーー共に連絡先も、専攻さえ知らないーーただいつも学食で会うだけの、友人といえるかも分からない関係。けれど、それくらいの薄い付き合いだからこそ、彼らなら大丈夫だと思うのか……
「相談……してみるか……」
否、彼らならば、どんな荒唐無稽な話でも受け入れてくれる、そんな気がしたのだ。
『……悩みがあるんなら相談乗るから、ね?』
不思議と、琉依の言葉には嘘がない、そんな気がした。
ふと足元を見ると、みいちゃんは相変わらずすやすや眠っている。その顔は、幸せに溢れている。
「ごめんね、俺じゃなかったら、もっと……」
申し訳なさやら、情けなさやら、様々な感情がこみ上げる。
寝息は聞こえないが、みいちゃんは確かにそこに『い』る。あどけない寝顔を覗き込んでから、周は今度こそ、眠りに就いた。
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