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第2章 大学生、考える。
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明くる月曜日、学食に向かう周の足取りはとても重い。
「ねえねえ、ひとがいっぱいいるね!」
見るもの全てを嬉しそうに眺めるみいちゃんと、
「……はあ。お空青いなー」
対照的に、さして青くもない、どんよりとした曇り空を遠い目で見つめる周。
一昨日の決心はどこへやら、怖いものは怖い。一人でお留守番してもらうか、学校に連れてくるか迷った末、一緒に登校することにしたこの子が、まず一つ。そして……
「大丈夫かな……」
本当にあの二人に受け入れてもらえるのかといった、別の意味での怖さが一つ。
「……」
「ねえ、ここひとがいっぱいだねえ!」
四つの足が、ぴたりと止まる。
「うん、ここが学食だよ……」
吹けば飛んで行きそうな周を他所に、みいちゃんは相変わらず喜び勇んでその辺りを駆け回っている。
「はあ……元気だな。入ろっか。」
無意識に差し出そうとした手を引っ込めながら、みいちゃんを呼ぶと、
「はあい!」
これまた元気よく、みいちゃんはこちらに跳び跳ねてくる。
「ねえねえ、ここってなあに?」
首を傾げながら問いかけるみいちゃんに、
「ああ、ここはご飯を……」
思わず答えを探す。この子はご飯を食べることができないのに、配慮が足りないのではないか?
「あの……」
「ふうん、みんなでごはんをたべるんだね!」
脳裏に過った焦りを、みいちゃんは拭い去る。
「あのね、ごはんをたべるときはおりこうさんにしてなさいって。みんながたべるの、ずっとみてたんだよー」
無邪気な微笑みに、胸がざわつく。この子はどうしてーーこの先を考えないよう、思考にブレーキを掛ける。
「おはよー。」
「早くはないだろ。」
学食で見慣れた姿は、いつもの定位置にあった。普段通りの二人だったことに、何故だか少し、安堵する。
「……」
「元気ない? 大丈夫?」
心配そうにこちらを覗き込むのは、琉依の綺麗な瞳だった。
「顔色悪いぞ?」
何かを感じたのか、秀人も本から視線を上げる。
「実は……」
事態を打ち明けようとした瞬間、秀人は予想外の言葉を接いだ。
「っていうか、その子、どうした?」
いつの間にか周の後ろに引っ込んでいたみいちゃんに目を向けているではないか。
「お前、見えるの?」
「なになにー? 何かあったの?」
興味津々な琉依には目もくれず、周は秀人の言葉に食いつく。
「……」
秀人は一瞬固まる。その理由は明白だ。なんせ、その女の子は透けているのだから。
「すまん、壁のシミだ。」
「絶対嘘だね!」
すぐに目を反らした秀人に、周は食い気味に返した。
「もしかして、オカルトの香り……?」
そんな二人の様子を受けて、琉依の目に今までにない光が宿る。
「こんにちはー」
「そっちには誰もいないよ……」
喜びに満ちた瞳で明後日の方向に向けて挨拶をしだした琉依を、周は思わず制する。それに同調するかのように、秀人は静かに首肯した。
「ああ、ごめんごめん。こっちだよねー」
次の向きも、見当外れ。
「ここまで外すって、最早才能では……?」
いっそのこと、その鈍感さを分けてほしいとすら思い始めた周。
「いや、なにも見えてないこれは壁のシミカベノシミカベノシミ……」
いとも簡単に崩壊した秀人の理性に、
「おにいちゃん、このひと、こわい……」
なぜか怯えるお化けのみいちゃん。
「いや、俺は不審者では……」
小さい子供に怖がられたことにショックを受けたのか、秀人が真顔で否定しようとすると、
「あれ、会話できてない?」
すかさず仲間を求めだす周。
「こんにちは……?」
おずおずと挨拶をしてみるみいちゃんと、
「こんに……壁のシミが……しゃべった?」
「それ、いっそ認めた方が楽なんじゃ……」
周ですら若干引くほど、現実をかなぐり捨てた秀人。
「なんだあ、こっちかあ」
「いやいや、被ってる被ってる!!」
みいちゃんが見えないことを頑なに認めようとしない琉依は、ついにみいちゃんを暗闇に沈めてしまう。
「あれれ、なにもみえないよ?」
「いいから、そこを退いてやって……」
戸惑うみいちゃん、琉依を諌める周、
「あはは、ごめんごめん」
「だからそっちじゃないって!」
忙しいこの状況を、周はいつしか楽しんでいた。
「ねえねえ、ひとがいっぱいいるね!」
見るもの全てを嬉しそうに眺めるみいちゃんと、
「……はあ。お空青いなー」
対照的に、さして青くもない、どんよりとした曇り空を遠い目で見つめる周。
一昨日の決心はどこへやら、怖いものは怖い。一人でお留守番してもらうか、学校に連れてくるか迷った末、一緒に登校することにしたこの子が、まず一つ。そして……
「大丈夫かな……」
本当にあの二人に受け入れてもらえるのかといった、別の意味での怖さが一つ。
「……」
「ねえ、ここひとがいっぱいだねえ!」
四つの足が、ぴたりと止まる。
「うん、ここが学食だよ……」
吹けば飛んで行きそうな周を他所に、みいちゃんは相変わらず喜び勇んでその辺りを駆け回っている。
「はあ……元気だな。入ろっか。」
無意識に差し出そうとした手を引っ込めながら、みいちゃんを呼ぶと、
「はあい!」
これまた元気よく、みいちゃんはこちらに跳び跳ねてくる。
「ねえねえ、ここってなあに?」
首を傾げながら問いかけるみいちゃんに、
「ああ、ここはご飯を……」
思わず答えを探す。この子はご飯を食べることができないのに、配慮が足りないのではないか?
「あの……」
「ふうん、みんなでごはんをたべるんだね!」
脳裏に過った焦りを、みいちゃんは拭い去る。
「あのね、ごはんをたべるときはおりこうさんにしてなさいって。みんながたべるの、ずっとみてたんだよー」
無邪気な微笑みに、胸がざわつく。この子はどうしてーーこの先を考えないよう、思考にブレーキを掛ける。
「おはよー。」
「早くはないだろ。」
学食で見慣れた姿は、いつもの定位置にあった。普段通りの二人だったことに、何故だか少し、安堵する。
「……」
「元気ない? 大丈夫?」
心配そうにこちらを覗き込むのは、琉依の綺麗な瞳だった。
「顔色悪いぞ?」
何かを感じたのか、秀人も本から視線を上げる。
「実は……」
事態を打ち明けようとした瞬間、秀人は予想外の言葉を接いだ。
「っていうか、その子、どうした?」
いつの間にか周の後ろに引っ込んでいたみいちゃんに目を向けているではないか。
「お前、見えるの?」
「なになにー? 何かあったの?」
興味津々な琉依には目もくれず、周は秀人の言葉に食いつく。
「……」
秀人は一瞬固まる。その理由は明白だ。なんせ、その女の子は透けているのだから。
「すまん、壁のシミだ。」
「絶対嘘だね!」
すぐに目を反らした秀人に、周は食い気味に返した。
「もしかして、オカルトの香り……?」
そんな二人の様子を受けて、琉依の目に今までにない光が宿る。
「こんにちはー」
「そっちには誰もいないよ……」
喜びに満ちた瞳で明後日の方向に向けて挨拶をしだした琉依を、周は思わず制する。それに同調するかのように、秀人は静かに首肯した。
「ああ、ごめんごめん。こっちだよねー」
次の向きも、見当外れ。
「ここまで外すって、最早才能では……?」
いっそのこと、その鈍感さを分けてほしいとすら思い始めた周。
「いや、なにも見えてないこれは壁のシミカベノシミカベノシミ……」
いとも簡単に崩壊した秀人の理性に、
「おにいちゃん、このひと、こわい……」
なぜか怯えるお化けのみいちゃん。
「いや、俺は不審者では……」
小さい子供に怖がられたことにショックを受けたのか、秀人が真顔で否定しようとすると、
「あれ、会話できてない?」
すかさず仲間を求めだす周。
「こんにちは……?」
おずおずと挨拶をしてみるみいちゃんと、
「こんに……壁のシミが……しゃべった?」
「それ、いっそ認めた方が楽なんじゃ……」
周ですら若干引くほど、現実をかなぐり捨てた秀人。
「なんだあ、こっちかあ」
「いやいや、被ってる被ってる!!」
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「あれれ、なにもみえないよ?」
「いいから、そこを退いてやって……」
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