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第3章 大学生、動く。
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長いような短いような、ヘンテコな共同生活の末、ようやく迎えた土曜日の朝。
「みんな、おはよー」
いよいよ、みいちゃんの家を探す旅が始まるはずだが……
「二人とも、元気ない?」
琉依の視線が周と秀人の間を行き来する。
「大義のためなら独身も已む無し。」
眉間に深く皺を刻む秀人からは、どこか悲哀に満ちた決意を感じる。
「結婚……できるかな……」
周は、虚ろな瞳で虚空を仰ぐ。
「二人ともどうしたの?」
「きのうからこうなの。」
戸惑う琉依に、みいちゃんは肩を竦めるが、
「まだまだ先のことなんだし、気楽に行こうよ。」
みいちゃんの前を素通りし、琉依は困ったように二人に駆け寄る。
「……」
「とりあえず、今日はこの子の家を探すと言うことでいいんだな?」
俯くみいちゃんを横目に、秀人は腕を組む。そこからは表情が消え、普段通りの真顔に戻っていた。
「うん。ちゃんと連れていってあげよう」
琉依もそれに同調する。
「じゃあ、みいちゃん、案内頼んでいいかな?」
周はしゃがみこんで、みいちゃんの目を見る。
「うん! まかせてー!」
直ぐに笑顔を取り戻したその目は、希望に満ちている。
「じゃあ、目的地はみいちゃんのおうちだな。」
周は立ち上がり、他の二人に目配せする。二人はそれぞれ頷く。こうして、みいちゃんと大学生たちは歩き始めた。
降り注ぐ春の陽射しは、暖かく一行を包み込む。
「今日は晴れて良かったねー」
緩やかに動き出した歩みは、一歩一歩、着実に終点へと向かってゆく。額に滲む汗をハンカチで丁寧に拭いながら、琉依は他の二人を見た。
「ちょっと曇ってもいいくらいかなあ……」
服で自分を仰ぎながら、周は顔をしかめる。
「ああ、さすがに少し暑いな。」
それに同調しながら、秀人は懐から扇子を取り出す。
「あ、わたしそれしってるよ! せんすっていうんだよね?」
それを見て、みいちゃんは得意気に胸を張る。
「よく知っているな。偉いぞ。」
それに、いつも通りぶっきらぼうに返す秀人に、
「褒めてるのか? それ……」
周は怪訝な表情を見せる。
「でも、みいちゃんとお話するとき、秀人くんって優しくなるよね」
「いや……それは……」
そんな三人を暖かく見守る琉依に、たじろぐ秀人。
「うわあ……きれい!」
「お、本当だ!」
みいちゃんは一点を指差しながらはしゃぐ。そこには目をみはるような満開の桜咲き誇っていた。
「ちょうど見頃だな。」
秀人は少しだけ口角を上げる。
「桜、きれいだね。みいちゃんは初めて見るのかなあ?」
秀人の視線に誘導されるように、琉依も桜に目を向ける。それは切ないような、愛おしむような、儚げなものだった。
「ううん、おばあちゃんともよくみにいってたよ!」
嬉しそうなみいちゃんは、ぴょんしゃん跳び跳ねている。
「そっか。おばあちゃんのところに返ろうね。」
「うん!」
みいちゃんの頭を撫でようと差し出した手を引っ込めながら、周は静かに腰を屈める。やはり透けたままのその少女は、屈託なく笑う。最近、ふと考えてしまうことがある。この子に未来があったら、どんな大人になるのだろうかと。キャリアウーマンか、はたまた天然系のお姉さんか……きっと素敵な大人になっていたのだろう。
余計な思考を振り払うように、周は立ち上がる。
「みいちゃん、行こっか。」
「うん!」
手を繋ごうと再び差し出そうとした手のやり場を誤魔化しながら、周はみいちゃんを見る。
「そろそろ行く?」
琉依の声が、周の迷いを優しく包み込む。そうだ、まだ時間はあるのだ。限られた時間を最大限、この子のために使おう、そう、強く思う。せめて、自分のところに来たことを後悔させないように……周は、桜の先を見据えた。
みいちゃんは、見かけに拠らず歩くのが結構早い。
「……」
「はあっ……秀人くん、大丈夫?」
普段の運動不足が祟ったのか、はたまた体質のせいなのか、大学生三人組の歩みは徐々に遅くなってゆく。
特に遅れが目立つ秀人を気遣う琉依も、疲労を隠せない。秀人は言葉を返さない……返せないといったほうが正しいか。
「周くん、みいちゃん、ごめん!」
琉依は眼前の二人を呼び止める。
「ちょっと休憩にしない? 早いけど、お昼ごはん……とか……」
こちらを振り向く周、想像とは裏腹に、救われた信徒のような表情をしていた。
「みんな、おはよー」
いよいよ、みいちゃんの家を探す旅が始まるはずだが……
「二人とも、元気ない?」
琉依の視線が周と秀人の間を行き来する。
「大義のためなら独身も已む無し。」
眉間に深く皺を刻む秀人からは、どこか悲哀に満ちた決意を感じる。
「結婚……できるかな……」
周は、虚ろな瞳で虚空を仰ぐ。
「二人ともどうしたの?」
「きのうからこうなの。」
戸惑う琉依に、みいちゃんは肩を竦めるが、
「まだまだ先のことなんだし、気楽に行こうよ。」
みいちゃんの前を素通りし、琉依は困ったように二人に駆け寄る。
「……」
「とりあえず、今日はこの子の家を探すと言うことでいいんだな?」
俯くみいちゃんを横目に、秀人は腕を組む。そこからは表情が消え、普段通りの真顔に戻っていた。
「うん。ちゃんと連れていってあげよう」
琉依もそれに同調する。
「じゃあ、みいちゃん、案内頼んでいいかな?」
周はしゃがみこんで、みいちゃんの目を見る。
「うん! まかせてー!」
直ぐに笑顔を取り戻したその目は、希望に満ちている。
「じゃあ、目的地はみいちゃんのおうちだな。」
周は立ち上がり、他の二人に目配せする。二人はそれぞれ頷く。こうして、みいちゃんと大学生たちは歩き始めた。
降り注ぐ春の陽射しは、暖かく一行を包み込む。
「今日は晴れて良かったねー」
緩やかに動き出した歩みは、一歩一歩、着実に終点へと向かってゆく。額に滲む汗をハンカチで丁寧に拭いながら、琉依は他の二人を見た。
「ちょっと曇ってもいいくらいかなあ……」
服で自分を仰ぎながら、周は顔をしかめる。
「ああ、さすがに少し暑いな。」
それに同調しながら、秀人は懐から扇子を取り出す。
「あ、わたしそれしってるよ! せんすっていうんだよね?」
それを見て、みいちゃんは得意気に胸を張る。
「よく知っているな。偉いぞ。」
それに、いつも通りぶっきらぼうに返す秀人に、
「褒めてるのか? それ……」
周は怪訝な表情を見せる。
「でも、みいちゃんとお話するとき、秀人くんって優しくなるよね」
「いや……それは……」
そんな三人を暖かく見守る琉依に、たじろぐ秀人。
「うわあ……きれい!」
「お、本当だ!」
みいちゃんは一点を指差しながらはしゃぐ。そこには目をみはるような満開の桜咲き誇っていた。
「ちょうど見頃だな。」
秀人は少しだけ口角を上げる。
「桜、きれいだね。みいちゃんは初めて見るのかなあ?」
秀人の視線に誘導されるように、琉依も桜に目を向ける。それは切ないような、愛おしむような、儚げなものだった。
「ううん、おばあちゃんともよくみにいってたよ!」
嬉しそうなみいちゃんは、ぴょんしゃん跳び跳ねている。
「そっか。おばあちゃんのところに返ろうね。」
「うん!」
みいちゃんの頭を撫でようと差し出した手を引っ込めながら、周は静かに腰を屈める。やはり透けたままのその少女は、屈託なく笑う。最近、ふと考えてしまうことがある。この子に未来があったら、どんな大人になるのだろうかと。キャリアウーマンか、はたまた天然系のお姉さんか……きっと素敵な大人になっていたのだろう。
余計な思考を振り払うように、周は立ち上がる。
「みいちゃん、行こっか。」
「うん!」
手を繋ごうと再び差し出そうとした手のやり場を誤魔化しながら、周はみいちゃんを見る。
「そろそろ行く?」
琉依の声が、周の迷いを優しく包み込む。そうだ、まだ時間はあるのだ。限られた時間を最大限、この子のために使おう、そう、強く思う。せめて、自分のところに来たことを後悔させないように……周は、桜の先を見据えた。
みいちゃんは、見かけに拠らず歩くのが結構早い。
「……」
「はあっ……秀人くん、大丈夫?」
普段の運動不足が祟ったのか、はたまた体質のせいなのか、大学生三人組の歩みは徐々に遅くなってゆく。
特に遅れが目立つ秀人を気遣う琉依も、疲労を隠せない。秀人は言葉を返さない……返せないといったほうが正しいか。
「周くん、みいちゃん、ごめん!」
琉依は眼前の二人を呼び止める。
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こちらを振り向く周、想像とは裏腹に、救われた信徒のような表情をしていた。
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