積雪のKiss

幸人-Yukihito

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第1章 刑事、名波幸人

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 2025年12月1日。東京都渋谷区の都会"華理州町"(架空都市)。最近では滅多に犯罪が起きることがない平和な街であるが、小さな犯罪でも見逃さないのが警察官。彼らの仕事に終わりはない。
 かれこれ20年近く警察官として生きている名波幸人(44)は渋い性格ながら職場の雰囲気を盛り上げるムードメーカー。自ら「俺の名前は自分が幸せになる人でもあれば、誰かにも幸せを与えてあげる人、それで幸人」と語る少し痛いイケオジ。しかし彼の生き方は名前に恥じない生き方をしている。彼は本当に警察官として鏡のような存在だが、一体どんなルーティンなのだろうか?朝起きてご飯を食べて、スーツを着こなして職場の華理州警察署に出勤する。そして出動要請があれば真っ先に駆けつける。警察官として生きる彼なら当たり前のルーティンだが、第1章ではまず彼のことから知ってみないか?

「おはよう」
「おはようございます!」
 彼はホットのカフェラテを持って出勤した。渋い性格だが甘党。そして部下にも少し甘い。20年近く務めるベテランだけあって部下からの信頼も厚いが、一番の理由は彼の人柄の良さにある。
「おはよおっす幸さん!」
 少しノリの軽いテンションで挨拶をしてきたのは部下で兄弟分とも言える山波孝之介(29)。つい最近交通課から刑事課に異動してきた刑事だ。
「おはよう!相変わらず元気な孝之介君!」
「うっす!」
 見ての通り軽い男だが、こう見えて妻子持ちのパパだ。孝之介は彼のことを誰よりも尊敬しており、信じられないが孝之介は数年前まで暗めの性格だった。まだ所属する課が違った頃、職場に馴染めない孝之介に声をかけたのが幸人だった。
「あっ孝之介君!先週の車の盗難、目星ついた?」
「モッチロンすよ!案外近くにありました。犯人もバカっすよ~だって堂々と被害者の荷物乗っけたまんまパチンコやってんすからぁ!」
 まだ朝の9時だっていうのにパチンコか。窃盗犯の荒井信介は無職のくせにギャンブルをやるとは良いご身分だ。マヌケなのは警察にとって好都合だが。
「ハハハハハっ!確かにバカ…じゃない!早く確保に向かうぞ!」
「イエッサー!」
「それ古いぞ?」
 孝之介は29歳の若さだが、刑事の腕は非常に優秀で彼も一目置いている貴重な存在だ。幸人と孝之介は15歳差だが、幸人が若々しいせいでまるで本当の兄弟みたいに見える。当然同僚からは、
「あの2人ほんっと仲良いですよねぇ?」
「何か兄弟みたいじゃないか?」
「名波さんに山波君って格好良いわよねぇ!名波さんって結婚してるのかな?確か山波君は結婚してるって聞いたけど」
「あのね、名波さんにはあんまり奥さんとお子さんの話は振らないでね?」
 一部の人間は知っているが、幸人の家族は既に亡くなっていることを知らない者が多い。幸人と孝之介の2人は常にコンビを組んでいることや、さらに休憩中も一緒に会話していることもあって皆から"ナミナミコンビ"と呼ばれている。ネーミングセンスはあんまり良くないようだ。
 孝之介が運転する覆面パトカーで荒井信介がいるパチンコ店に向かう。ナミナミコンビなら車内でも会話は絶えない。
「そういえば、今日は海里君の誕生日か?」
「そうなんっすよ!2歳っす」
「2歳か?ちょうど可愛いときだ!」
 海里とは今日で2歳になった孝之介の息子だ。幸人には生きていれば19歳の息子がいるが、亡くなってもう8年経つのかと心の中で晴れない気持ちもある。今自分という大人がやるべきことは、子供の未来を守ってあげること。そして警察官なら市民を守ることだ。
「そういえば俺には教えてくれましたよね?幸さんのご家族…」
 孝之介は軽い性格でもきちんと場をわきまえるようで、人の不幸には一切笑わない。いわゆるノリと礼儀が良い男だ。
「息子…奏人は19になるはずだったな」
「犯人もまだ捕まってませんよね?」
「あぁ…俺が捜査に加わろうとしたら何故か上に止められたんだ。今の警視総監に…」
「警視総監って、大原警視総監?」
「止めたのはあの人だけ。桐野さんは俺を気遣ってくれたけど、やるせない気持ちでいっぱいだった…今でも、小さい子供が犠牲になった事件を担当すると蘇るんだ…」
「幸さん…」
 少し暗い話をしてしまった。だが幸人の心には何かが引っ掛かりがあり、その頃から警視庁は何か犯罪組織と癒着があるのではないかと言われ始めた。
「さっ、今日はこの話終わりだ。そろそろ近くだぜ?」
「そうっすね。あっ、今日はチョココロネだ」
「これ美味いんだよ」
 幸人は煙草を一切吸わないが、仕事中も甘味の間食をする。しかし筋肉質な体型で血糖値も正常なのだ。現場に到着する前にコロネを食べ終わると、ジャラジャラと爆音が鳴り響く店内へと入る。しばらく店内を歩き回っていると荒井容疑者はパチンコで負けたのか、台を拳で殴ってイライラを見せていた。
「クソが…今日はこの辺にしとくか」
「追うぞ」
 荒井容疑者は例の盗難車のマークXに乗って家に帰ろうとしていた。車に乗り込む前に
「ああぁちょっとすいませんねぇ、これ君の車じゃないよね?」
「な…何ですか急に?」
 幸人が静かに警察手帳を見せると、荒井容疑者は目を見開いて冷や汗をかき始めた。そして持っているバッグを横に振って攻撃!
「ちくしょうが…!」
 荒井容疑者は車の鍵と財布が入ったバッグを捨てて2人から逃亡を図る。しかし2人は一切焦ろうとしない。
「はぁ…じゃあ幸さん、お願いします」
「ラクショー」
 幸人の走力は100mを何と11秒!彼から逃げられた逃亡犯はこれまで誰もいない。あっという間に追いついた彼はそのままあっさり逮捕しようと背負投げ。しかしその程度で諦める奴ではないようだ。両手をフリフリするかのように反撃しているつもりなのか。
「はい掴んだ、ホイッと!10時2分、荒井信介!自動車盗難、窃盗の容疑で現行犯逮捕する!」
「やっと追いついた…幸さん足速すぎて追いつくのマジ大変っす…」
「これも日々練習だな?さあさあ君はパトカーへGoだよ」
「………」
 流石に足が速くて力も強い幸人に取り押さえられればもう観念したのだろう。荒井信介はそのままお縄になり、盗難されたマークXは無事所有者に返され、幸い車に一切傷はなかった。愛車の鍵はしっかり管理をしておくこと!
 一仕事を終えて警察署に戻った頃はもう昼ご飯の時間だった。やはりナミナミコンビはいつも一緒に昼食を食べるようだ。孝之介の昼食はいつも妻が作るお弁当だが、今日は海里の誕生日パーティーのための準備でお弁当を持っていなかった。
「よかったら食い行きません?」
「いいねぇ、何食いたい?」
「今日は海里の誕生日だから、ラーメン!」
「ラーメン、最高だ!今日走ったし二郎系にすっか」
 今日の昼食は近くにある二郎系のラーメン店。
「ラーメン、ニンニクアブラ少なめ、味も薄めで」
「俺は普通多め濃いめ、いや普通で!」
 幸人は食欲旺盛だが濃い味付けにはあまり耐性がない。甘党だが薄味派だ。孝之介は若さもあって油は多め、濃い味にしようと思ったが、海里の誕生日パーティーのために濃い味は控えるようだ。ラーメンが到着すると、
「幸さんはやっぱ野菜マシマシっすね」
「俺、野菜好きだから」
「美味いんでわかるっすよ」
 まるでタワーのように立っているもやし。麺に辿り着くまでがやっとな量をガツガツと食べ進める幸人。
「ほういえば最近、物騒な事件こそなくなったっすね?」
「そうだな、強いて言えば2年前の事件ぐらいか」
「あの行方不明事件ですよね?」
 今から2年ほど前、学校から下校途中の少女、持田絵美里ちゃん(当時12)が突如行方不明になった事件があり、懸命な捜査も虚しく遺留品すら見付かっていない。世の中に行方不明の人間なんて8万人ほどいるが、例の少女行方不明事件は神隠しとしか言いようがない。幸人は昔から行方不明事件には興味があって警察官になった故でもあるが、いざ身近で発生したらやはり恐怖を感じる。未解決な殺人事件は勿論怖いが、逆に失踪や行方不明事件は本当に何が起きたのかがわからないのが恐怖を感じる要因だ。足取りが掴めなくても、2人は少女発見の道を諦めてなんかいない。
「でもこれだけ捜しても見付からないなんて、神隠し以外なら相当腕の良い奴が拉致した可能性あるっすよね?」
「神隠し拉致…それか自分から失踪とかな。戻ったらまた聞き込み行くか…」
 むしろ今の時期に凶悪事件が起きているより未解決事件の方が多いだろう。例えば殺人事件でも行方不明扱いになった後、命からがら脱走したことがキッカケで行方不明者が発見された例もある。つまり失踪したからといって亡くなっているとは限らない。
「2年前まだ孝之介君は交通課だったよな?事件の日何か不審な人物とかは報告されていなかったみたいだが…」
「俺が気になる点は、行方がわからなくなったのは同級生と別れてから約5分以内。そして不審な人物は見付かっていない…考えるだけじゃわかんないっすね。やっぱ行ってみますか」
 2人はラーメンを食べ終えて会計を済ませると、そのまま聞き込み調査へ向かおうとしたが、幸人の携帯に着信が鳴った。一体誰からだ?発信源は"`遠藤君"と書かれている。
「もしもし」
「もしもし!名波さんすいません、さっき…!」
「また、犯人に逃げられちゃった?」
 話を聞く前に何を言おうとしたのかがすぐわかった。電話越しから息切れの声が聞こえまくりだ。
「だから君の体調はいつも心配なんだよな…場所は?」
「華理州町の駅ビルです…本当すみません」
「わかったよ。もう気にするな」
 ツーツー
「またあの遠藤さんっすか?」
「まあね。まああの人らしいけど…場所は駅ビルって言ってた。今日はこれで1日終わりそうだな」
 現在位置からまで徒歩15分。タクシーを捕まえるよりかは早い。時期は12月で肌寒く、歩いているときはポケットから手を出せない。
 遠藤君という人が待っているはずの駅ビルに辿り着いたが一体どこにいるんだ?
「名波さ~ん!山波君!」
「いた」
「ハァハァ…」
 息を切らして歩み寄ってきたのは遠藤昇太(37)。身長は幸人より少し低い180cmだが体重は驚きの112kg。華理州警察署断トツの食いしん坊刑事だ。見た目通り愛嬌あって皆からの愛されキャラである一方、大事に思われている存在だからこそ体調を常に心配されている。
「名波さんのもとで今度こそ痩せます…」
「君いつも長くて一週間だったな…まっ俺含め君はホント好かれるキャラだから、逆に太っている姿良いかもよ?ただ俺は君の先輩としてずっと健康でいてほしいけどね。ああ忘れてた、さっきまで誰を追っていたんだ?」
「受け子やってた若いのです」
 2025年になってもまだ受け子による詐欺が多発しているとは…闇バイトの実態に掴めないとは刑事としてのプライドが廃る…
「ところで逃げた若いのの特徴は?」
「就活するようなスーツ着て、けっこう童顔な感じの…」
「それだけ聞ければ十分だ…」
「え?ってえぇぇ!?」
 幸人は突然地面を蹴って猛ダッシュ!この人の体力一体どうなってるんだ?それも44歳で。てか遠藤君が逃してから既に1時間は経っているはずなのだが…あっという間に姿が見えなくなった彼を見届けることしかできない2人。時刻は15時過ぎ、孝之介は海里の誕生日のために早上がり希望だったのでここで解散だ。
「今日息子の誕生日なんで、俺はここで失礼します。お疲れっした!」
「そうか息子君の誕生日か!そっちのが大事、お疲れ様ね!」
「幸さんをよろしくっす!」
「ヤベェ忘れてた!あの人どこ行ったんだ…?」
 高身長で筋肉質且つめっちゃ足速い。警察官じゃなくてどの業界でも完璧に仕事するだろう。
 数十分かけて追っていると、やっとのことで幸人の姿が見えた。幸い位置情報共有アプリで場所がわかるのでよかったが、もしわからなかったらずっと追いつかなかったかもしれない。それより何でこんな路地裏にいるんだ?それに受け子をした若者の隣にはスキンヘッドの厳つい男がいた。
「あらまぁ~サツに見付かっちゃったか?こりゃキツイお仕置きが必要だ」
「お仕置きをするのは俺たち警察官で十分さ。ったく若えのにママを心配させるようなことしやがって…」
「だが俺たちもここでパクられるわけにはいかないんでな。サツ殺しちまうのはかなりリスクあるが仕方ねぇ…おい!出てこいっ!」
 スキンヘッド男が号令をかけると何やら物騒な武器持った奴らが来やがった。
「もしやるんだったら、こっちも実力行使になるけどいいかな?」
「(ヤバいマジもんじゃんこれ!名波さんでもこれはマズい…!)」
「おい、やっちまえ!」
 狭い路地なら逃げようにも逃げられないと踏んだか…けど、こっちはただの警察官じゃないんだよ!
「同時に攻撃してどうする?振り上げればお腹ガラ空きだぞ」
「えっ…早!?」
 そう。2人襲い掛かるのは良い攻撃法だが、両者同じタイミングで鉄パイプなんか上に上げると無防備しかないのだ。2人にお見舞いしたのは泡を吹かない程度の太極拳!泡吹かないとはいえこの一撃はもう立っていられない…
「えっ…?スゲェ」
「何だと?クソやっちまえ!」
 今の闇バイトする輩はチャカ(拳銃)なんか持っているのか?彼には到底当たることもないが…
 バァンバァン!
「同時に撃ってどうすんだ?筋肉の動きで発砲するタイミングなん丸わかりなんだよ…」
 銃を持つ腕に強烈なチョップ!これで1週間は腕上げられない威力を喰らっている。残りの3人にお灸を据え、これでもうスキンヘッド男を守る奴は誰もいなくなった。
「ちくしょうが…こいつ何なんだよ?」
「君はこの人(遠藤)について行きな。さてと、俺のマッチョ体型見て襲い掛かるとか、度胸だけはよかったね?あとスキンヘッドに厳ついタトゥーも。これが、にわかヤクザ?」
 とことん犯人をバカにする彼には挑発しか感じられない。当然そんな挑発ににわかなマジもんでもナイフで彼に襲い掛かる!

 闇バイトリーダーの男
 犯罪行為に手を染めて指示している立場なら戦闘力にも自信がある。全力の限りを尽くして幸人を倒そうと必死でパンチをするが
「(何なんだコイツ!?)」
 速すぎる回避にまるで止まって見える。そのまま一瞬にして腕を掴むと
「残念遅い!」
 そのまま柔道の背負投げ!
 ドーン!
「痛てぇ…!」
 まるで地割れが発生するような威力の背負い投げで大ダメージを与える。当然その一撃で…
「はい逮捕ね。えぇっと名前…わかんねぇからスキンヘッドのにわかヤクザ君でいいや!16時27分、特殊詐欺の現行犯で逮捕する!」
 瞬時にパトカーを手配して男をそのまま連行し、今日は残業がてらやることが一つできた。それは受け子をやっていた若者の事情聴取だ。若者の未来は俺たちが守るべきだからな。

 17時の取り調べ室。受け子として逮捕されたのは20歳の大学2年生、牧野大貴(マキノダイキ)。応募したのは高額バイトの掲示板に興味を持って軽い気持ちだったのが動機だった。闇バイトに加担してしまう若者が落ちてしまう落とし穴だ。勿論取り調べをするのは幸人、もう一人は遠藤だ。遠藤に大汗をかかせたもんな…
「何で関係を絶てなかった?」
「個人情報渡しちゃったから…番号変えたりしても奴らがずっと追ってきて…何されるかわからなくて…でも今こうして警察に捕まったら、安心した自分もいて…」
「まあ君も詐欺に加わったとしてお咎めなしにはできないけど、君いくつだっけ?」
「20歳ですけど?」
「俺にもさ、19になるはずの息子がいたんだ…息子は未来へ羽ばたくことができなかったけど、君はまだ羽ばたけるんだよ。今回のことでしっかり罪を償って、もし出所して飯に困ったら食べさせるくらいしてあげるからさ」
 この一件で間違いなく大学は退学処分になり、家族も詐欺に加担した事実などで後ろ指を差されるだろう。けど大貴も被害者なんだ。俺たちに未来まで奪う権利なんてない。
「それと、こんな太った俺にあんな大汗かかせたとして、出所したら俺と大食い対決な!」
 何なんだこのおまわりさんたち?何か逮捕されてしばらく刑務所で過ごさなきゃいけないのに不思議と笑いが出てしまうではないか!
「ハハハ…!遠藤君最高じゃないか!ってことで牧野君、しっかりと罪、償えるかい?」
「勿論です!本当にご迷惑おかけして申し訳ありませんでした!」
 後日行われた裁判で大貴には懲役1年半が言い渡された。まだ詐欺を行ったのが二度で、さらに直接金品を奪ったわけではないことで減刑された。大学こそ退学を言い渡されたが、出所後は母方の叔父が経営する鉄工所で働かせてもらうことが決まり、幸人の望む未来へ羽ばたけるチャンスを神様は見捨てなかった。

 取り調べの後幸人と遠藤は行きつけの食べ放題焼肉店で食事をしていた。
「乾杯!今日もお疲れさん」
「お疲れ様です!ゴクゴク…くぅ~!汗かきすぎてビールが染み渡るっすぅ…!うめぇ~!」
「今日は奢りだ」
「いいんですか!?」
「いいよいいよ。俺家族いないから、まあ一人になった分貯金も貯まってるし」
 幸人は家族を失ってからは所有していた一軒家は手放しており、それ以降ワンルームマンションで一人暮らしをしている。唯一いる家族は現在63歳の母親、千絵。港区のホテル"ティアードロップ"の料理長として働いている。ん?幸人が44歳で母親が63歳、つまり19歳で生まれている。しばらく会っていないな…
「それより何で名波さんはあんな足速いんですか?」
「まぐれさ」
「まぐれでああはならないですよ?それに喧嘩もメッチャ強いですね」
 確かに遠藤が見た彼の実力は並の警察官じゃあそこまでのスピードとパワーは出せない。まるで某ヤクザゲームのプレイ映像をリアルに見ているようだった。あの強烈な太極拳と銃弾を避けるスピード、一体幸人は何者なのだろうか?遠藤も警察官歴15年以上のベテランだが、幸人と初めて会ったのは3年前ほど。20年近く警察官をやっていること以外の経歴が一切わからない。もしかして、元ヤクザ…いや考えすぎか。あるとしたらマル暴、それか学生時代に格闘技を習っていたことくらいか。詳しいことは、また機会があれば聞いてみよう。欲を言えば幸人が自ら語ってくれる日がくるまで。
「ふぅ~俺は腹いっぱいだけど、デザートはやっぱり」
 甘党の幸人は毎回デザートを食べる。今日食べるのはきなこをまぶしたバニラアイスクリーム。寒い夜でも焼肉の後は自然と食べれてしまう。
「ご馳走さまです!」
「ごっつぁん…お会計お願いします!」
「ありがとうございました!お客様のお会計13792円でございます」
「じゃあ現金で」
「ちょうどいただきました。こちらレシートのお返しです。ありがとうございました!」
「ありがとうございましたぁ!」
 焼肉食べ放題で最も上のコース、さらに生ビールを含んだ飲み放題。たらふく食って幸せだぁ。
「お疲れ様でした!明日もよろしくです名波さん!」
「おう!また明日な」
 焼肉食べて良い感じに酔っ払って幸せな気分だが、明日も仕事だ。俺たち警察官は市民を守るのが仕事。それにどうしても気になるのが例の少女行方不明事件。最悪の事態になっていないことを祈るばかりだ…

 時刻は21時前。マンションに着いた幸人のスーツは今日かいた汗と焼肉の煙で早く洗わなければ臭うな。家に着くとさっきまでの明るい表情が一気に暗くなり出す。実は今こうして気が沈んでいる瞬間が彼の本来の性格なのだ。今でもときどき、息子を殺されたトラウマが蘇ってしまう。特に小さい子供が殺人犯によって犠牲になったなどの事件を担当すると、悔しさと憎悪で気を失うまで酒を飲み続ける。元々渋くて明るい性格だからこそ職場では器用に振る舞えるが、本当なら上司や部下にも自分の弱さも明かしたい。けどできない…彼は無理をしすぎなんだ。
 シャワーを浴び終えて髪を乾かすと、彼が寝る前に眺めるのは2017年に撮影された一枚の写真。真ん中には亡くなった息子で左に妻、そして右に幸人。サッカーのユニフォームを着ていてさらにトロフィーを手に持っている。
「奏人…咲子…」
 おそらく大会で良い賞を獲得したときの写真だろう。この詳細はまた後々に明かされるが、今回は名波幸人という男の並外れた能力と戦闘力の紹介にはなった。そして2025年12月が、彼のリミッターが解除されることになる…

 翌日、朝いつも起きる時間は6時。いつも通り歯を磨いていると彼の携帯のアラームが鳴った、ではなく着信だ。一体誰から?急いでうがいを済ませると
「どうした孝之介君?」
「朝早くにすまんっす!たった今うちに通報が入ったんすけど、どうやら殺人事件です!」
「何だと…!?場所はどこだ?」
「華理州町大通りの路地裏です!酷い殺され方みたいです…」
「わかった、俺も今すぐ向かう!」
 ツーツー
 髪をセットする余裕はなく最低限とかして現場までダッシュ。自家用車を持たない彼の移動手段は徒歩かダッシュだ。
 まだ殺された人物の性別や年齢なども不明だが、酷い殺され方って一体何をされたのだろうか?とにかく今は考えている暇はない。彼は考えをやめてとにかく走り続けた。だが今回の殺人事件は、彼にとって運命を大きく動かすことになるとは知る由もなかった…そして、息子を殺した犯人がすぐそこにいることも…
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