積雪のKiss

幸人-Yukihito

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第7章 代替品

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 2017年12月7日。この日は奏人が殺害された当日だった…幸人が知らない内に起きた悲劇。そして一連の睾丸切り取り殺人事件の犯人は誰なのか?今ここで、犯人が明らかになる…

「行ってきます!」
「行ってらっしゃい!ママも出なきゃっと」
 奏人が殺害される当日、幸人は早出で少し先に出勤していた。いつものように家を出た奏人だが、悲劇は学校に着く前に起きてしまう…
 家から学校までは徒歩圏内。だがバス通などしていなければ一人で歩いている時間も多い…犯人はそれを狙っていた。
「何だろう?さっきから誰か…」
 明らかに誰かに追けられている気がする。11歳の奏人にとって正体不明の誰かに狙われるなど恐怖でしかない。そして、奏人の嫌な予感は的中してしまう…
「むぅぅ…!?」
 突然何者かが口を塞ぐ!抵抗しようにも力が強すぎて離らかすこともできず、そのまま地面に叩きつけられる!突然のことで理解が全く追い付かない。
「だ…だれ!?」
 謎の男はフードを被っていて顔が全く見えない。顔が見えない恐怖に涙を流す奏人は思わず…
「助けて…パパ…!」
「お前のパパは来ない…お前の貴重な検体…貰うぞ」
「やめて…やめてぇ…!」
 すると奴は何の躊躇もなく奏人の股間目掛けてナイフを突き刺す!
「アァアーーー…!痛い!いたいぃ…!」
「チッ…」
 痛みの訴えを一切無視してそのまま睾丸を含め陰茎まで全て切除!
「カァ…いた…ぃ…!」
 一連の睾丸切り取り殺人事件における死因は上半身の刺し傷ではなく、睾丸を切り取ったことによる失血死だった。犯人は殺害方法を誤認させるため、睾丸を切り取って殺害した後に上半身を数カ所ナイフで突き刺していた。それによって直接的な死因を上半身の刺し傷と誤認させ、睾丸を切り取る理由をいかにもわからなくするためにしたのだ。
 実際睾丸を切り取る理由は犯人の目的であるが、自分の目的を果たし、そして自分に捜査の手がいかないようにするために完璧に行われたミスリード。その犯人の正体とは…?

 12月12日。幸人は一人の男の経歴について調べていた。珍しく眼鏡をかけ、いかにも真剣な表情。メロンパンを食べながら資料を見る幸人に孝之介と凛七が声を掛ける。
「幸人…クマ凄いよもう…ところで犯人知ってるんなら教えてよ」
「君が知るにはまだ早い…」
「何だよそれ?女は知る権利がないっての?」
「違う…とてもじゃないがまだ教えられない…それに君に事実を知る覚悟が…」
 ドン!
 凛七がいきなり机を叩く。
「覚悟も何も聞く権利があるでしょ…私は好きだった奏人を殺されたんだよ。お願い教えて…」
 凛七の目は見開かれ、幸人を殴らんばかりに怒りの表情が見える。幸人の息子、そして凛七が愛した一人の存在。大切な人を失った者同士だ。
「わかった…でも、心して聞いてくれ?」
「お願い…」
 幸人は1枚の資料と顔写真を出す。凛七にとって見たことのない顔だが、幸人と孝之介は知らないはずのない顔だ。その正体は?
「誰?これ…ただのおっさんにしか見えないけど」
「桐野賢一…けど桐野賢一は本名じゃなくて、実際の名前は城倉利充。俺の上司だ…」
「俺も信じられなかったっス…まさか犯人が身近にいたなんて」
「ちょっと!ちょっと…待って?何で幸人の上司とやらが奏人を殺す必要なんてあるの?」
 凛七は突然の事実に取り乱していて口調がしどろもどろ。
「桐野が本名じゃないってことで気付いたんだ。奴は元殺し屋組織のアサシンだ…それも伝説のな」
 そう。2000年から起きた凄惨な少年睾丸切り取り殺人事件の犯人は、華理州警察署刑事課の刑事課長、警視の桐野賢一だったのだ!本名は城倉利充(ジョウクラトシミツ)。年齢も55歳ではなく、5歳サバ読んで50歳。幸人を育て上げ、皆から尊敬される最早上司として鏡のような存在が奏人を殺した張本人なのだ…しかし何故桐野がこのような凶行に及んだのか?
「でも何で犯人がそいつだって言い切れるの?」
「昔見たんだよ。桐野が街中で半グレをボッコボコにしたのを…俺の出る幕かと思ったら、あの人は一瞬にして粛清した…この前殺人級の空手パンチ喰らって確信に変わった」
「それだけじゃ犯人なんて言えなくない?」
「確かにそうだ…けどこれが決定的な証拠だ」
 幸人は警察用手袋をして出したのはカランビットナイフ。それも長年使用しているのか、どこか錆びたようにも見える。これはまさか!?
「幸さんが奴から命懸けで奪取した犯人の凶器っす。遠藤さんが他の警察にバレないようDNA鑑定してくれたんすが、奏人君含め被害者のDNAが確認されたっす…」
 凛七は信じられない表情でナイフを見る。あんな刃渡りの鋭いナイフで大事なところを切られたなんて…と考えると奏人への無念を募らせる。
「わずかに残っていた指紋が桐野のDNAと一致した。犯人の正体を突き止めるのにそう時間はかからなかったが、それ以上に問題なのは殺害動機だ…」
「調べを進めていたら、実際の桐野賢一は既に死んでた…それも殺害で」
「また追いつかなくなってきたんだけど…」
 実際桐野賢一が本名の男性は過去に存在しており、同じく華理州警察署の刑事だった。当然血の繋がりはないが、2人は顔立ちと雰囲気がそっくりであり、城倉は殺し屋組織を辞めた後桐野を殺害して入れ替わったのだった。要するに影武者…それからはずっと桐野賢一として正体を隠しながら、何人もの男の子を殺害し、歪んだ欲を満たしていた…
「俺が桐野と会ったときは既にもう入れ替わっていたんだろう…流石殺し屋だっただけあって正体が見抜けないくらい変装と適応力がハンパなかった」
「ずっと俺たちは騙されていた…桐野賢一という名前と皮を被った悪魔に…!」
「そいつは今どこにいるのよ?」
「知って何をするんだ?」
「奏人の仇を取る!刺し違えてでも…」
「気持ちはわかる…けど、実際問題奴に対抗できるのは俺だけだ。最終的に奴は、俺の仲間も殺したしな…」
「…!奏人…!ぅぅ…」
 いくら聞く覚悟があったとはいえ、こんな事実は辛すぎる…それに直接的な死因が刺し傷ではなく、まさか睾丸を切り取られたことの失血死だなんて…奏人、相当痛かったよね…?私は絶対、幸人と一緒に…奏人の仇をとるから!

 廃病院の極秘施設で冷凍保存された女性の遺体。原型こそ留めているが、苦しい表情で亡くなったのか苦悶に満ちており、見る者に恐怖を与える。そして、それをずっと眺めている男こそが、桐野賢一だ…そして撫でるように触れる。
「 もうすぐだ…もうすぐ新しい君が生まれる…」
 !?新しい君とは一体?奴が被害者から睾丸を切り取る理由は、その睾丸から精子を採取し、誘拐した少女の子宮に挿れて着床させるのだ。だが13歳未満の女の子を選んでいるため、無事生まれたとしても強い身体ができていない少女では出産の痛みに耐えることなどできず、既に何人も亡くなっている。どうして睾丸を切り取ることにこだわるかの理由は、ただ最も強烈な痛みを与えて快楽を得るためでしかなかった…
「コレクションにはもう一人必要だ…」
 奴は既にもう一人の標的を決めていた。何と殺された芳川伸也の息子、5歳の芳川春利君だ!

「パパずっと帰ってこないね?」
 芳川春利君。彼は普段から父親が帰ってこない理由を当然ながら知らず、妻の彩芽は不倫の事実を黙認していた。彩芽は伸也の訃報を既に聞いていたが、息子に亡くなったなんて言えるわけがない。
「パパはね、遠くの国に行っちゃったの…だから今度からママと2人で暮らそう?」
「そうなんだ…」
 家では良いパパだったようだ。子供には優しい伸也だったからこそ離婚に踏み切れず、自分が我慢していれば済む話と言い聞かせていた。彩芽はパート先に相談して正社員登用してもらい、保育園に預けながら子育てすることを選ぶ。
 その頃、孝之介は次の標的となるのは確実に春利君だと睨んでいた。
「幸さん、この前芳川が殺されたので思い出したんすけど、海里を狙わせたのはおそらく自分の家族を脅しに使われたからっス!芳川が死んだ今ほぼほぼ標的にされたのは春利君で間違いない!俺は保護に向かうッス!」
「わかった!」
「春利君は必ず助けるッス!」
「孝之介君!気を付けろよ?」
「ハイッス!」
 孝之介がどうして春利君が狙われていると考えた理由は、まず海里の襲撃に芳川を利用したこと。そもそも殺害された被害者たちには共通点があり、全員が比較的優秀な家柄で生まれた子供であったこと。会社経営者や医師などの子供たちだ。奏人は刑事の息子、そして先日殺された怜也君の両親は消防士と看護師、次に狙われたのは刑事の息子海里。刺客に伸也を使ったのなら次に狙われるのは春利君だと直感で感じ取ったのだ。
「もしかしたら桐野は、優秀な子を選んでいるのか?けど睾丸を切り取る理由は何だ…?」
 走りながら自分に問いかける孝之介だが、やはり犯人から無理矢理にでも聞かせなければ突き止められない。幸人と共に行けばよかったのではないかと思われるが、以前伸也に「自分の息子さん守らないってなら、俺が守ってみせる!」と言ったように、何の罪もない春利君を伸也の代わりに守ると誓ったからだ。いつまでも幸人に頼っているようじゃ強くなれない…

「あの人一人で行っちゃったけど大丈夫なの?」
「大丈夫さ。孝之介君は誰より強い」
「でも心配じゃないの?」
「そりゃ心配だよ。けど奴を追う以外にやることがあれば俺一人じゃ手が回らないのも事実だ…」
「他の?」
「どうも引っ掛かるんだ…回収した睾丸をどこに隠し持ってんのか。コレクションに加えてるんだとすれば、保管場所が絶対にある…」
 話を聞いた凛七は「う~わ…」な表情しか浮かべられず、軽く考えれば悪い趣味だが、奴の尋常じゃない異常性を感じて身の毛もよだつ。
「あくまで俺は桐野と決着をつける役…孝之介君は奴のヤサを突き止めて世間に暴く役だ」
「ナミナミコンビの役割分担…ね?」
「これは俺の予想だが、おそらく奴のもとに人質がいる…もしそうなら、無論助ける!」
「うん…(何だろう…?やっぱり幸人の目はとても嘘言ってるように見えないな…感じたことのない情熱なのかな?でも奏人の真剣な表情に似てる…)」
 奏人の真剣な表情を思い出すと、自分自身がどれだけ奏人のことを愛していたのかを改めて感じる。そんなときあることを聞いてみた。
「そういえば昔の写真とかないの?」
「俺の?」
「うん…」
 携帯のアルバムから昔の写真を探すと、母親に抱っこされている写真から学生時代の写真まで、意外にも多く残っていた。
「これ母さんでこれが俺。で、これが中学のとき」
「ちょっと待ってよ!完全に奏人じゃんこれ?コピペしたってくらい激似なんだけど」
「まあね…」
「(幸人は奏人が大人になった姿と丸っきり一緒なのかな?でもやっぱり…同じ匂いがする)」
 思い出すと幸人への恋愛感情がますます高まる。お互い裸で抱き合った日から既に好きになっているが、抱き合っただけでキスにセックスはしていない。だが我慢できなくなり、凛七は幸人に気付かれないよう唇を近付け、そのままキスをしようとするが…
「さてとっ…ってどうした?」
「わあ!?急に振り向くなよ…!」
「ごめんごめん、よしっ俺たちも向おう!今は遠藤君たちが心配だ…おそらく桐野も動き出す…(誕生日に欲しいものがキスなら…素直に言ってくれればいいのにな?けど言ってくれるまで待つか)」
 そう。凛七がプレゼントに欲しがっているものは幸人のキスだ。
「(本当なら奏人とキスしたかったんだろうな…でも、あの子のファーストキス相手が俺なんかでいいのかな?)」
 お互いに想いが膨らむ。正直幸人は咲子を亡くしてから恋愛なんてもうどうでもいいと思っていた。だが幸人も凛七に言いかけた言葉が「好きだから守る」。「好き…」と言っただけで終わり、それも聞こえないくらい小さな声だった。考えれば自分から裸を見せた凛七の行動は勇気を振り絞り、恥ずかしさを捨てている。まだ幸人は恥ずかしがっているようだが、一つ確実に言えることは既に両想いであること。
 お互い好きな人が目の前にいる状況だが、そうこうしないうちに着信が鳴り響く。相手はめぐみだ。
「もしもし?」
「名波さん!大変です…さっき遠藤さんと一緒だったんですがいなくなっちゃったんです!それに桐野さんが…キャア!」
「もしもし市川さん!?もしもし!?もしもし!」
「どうしたの!?」
「クソっ…!どうやらマズイことになった…桐野は俺らを徹底的に潰す気だ!すまないが凛七ちゃん急ぐぞ!」
「わかった…わよ!」
 幸人の傍にいて自然と体力を取り戻している。本来凛七はスポーツ万能で奏人と互角に渡り合えるほどだ。
「私も走れるわ!」
「いいねぇ!」
 幸人と凛七は一斉に走り出した。桐野が完全に敵となった今、犯罪組織大空の刺客も一斉に仕向けるに違いない。それと同時に、これで凛七の無罪を証明できる糸口が生まれた。

 一方、春利君の行方を追っている孝之介は同時に桐野が身を潜めている場所を捜索していた。だが肝心の桐野は行方を晦ましているため、本人から聞き出すより仲間から聞き出すしかない。
 今回幸人から任されたのは犯人の実態を掴むこと。そして桐野、城倉利充の秘密を暴くことだ。憧れの幸人から与えられた使命に気合が入る反面、決して失敗は許されないという緊張で心が破裂しそうでもあった。本当なら上司の遠藤にも頼りたいところだが、桐野の戦闘力や恐ろしさを知った今、誰にも迷惑をかけられない気持ちで頼ることは考えなかった。
 しかし孝之介には一つの疑問があった。2000年から犯人の正体が一切わからなかったにも関わらず、どうして今になって証拠ばかりを残したのかだ。いくら相手が幸人とはいえ凶器のカランビットナイフを懐の取りやすい位置にしまっていたこと、わざわざ警察である伸也を海里の刺客として送り込んだこと。どれも大胆な行動だ。もしかしたら
「こんにちは」
「あぁ山波さん…ご無沙汰してます」
「旦那様の件は、お悔やみ申し上げます…」
 まるでキャラ変しているが、これは勿論場をわきまえた言葉遣い。今回彩芽に接触した理由は当然保護だ。
「突然なんですが、旦那様を殺害した犯人が芳川さんを襲撃してくると考えられます。今春利君は保育園ですか?」
「はい、もうすぐ迎えに行きますが」
 孝之介の予想なら今日にでも襲ってくるはず。果たして来るのか…?
「そのことですが、遠くから見張らせてもらっても大丈夫ですか?」
「そう、ですね…本当は信じたくないですが、あの人が亡くなってから色々怖くて…」
「わかりました。必ずお守りしますので」
 果たして孝之介の予想通り刺客は現れるのだろうか?孝之介はすぐに駆けつけれる距離から保育園を見張り、いざというときのペン型スタンガンを忍ばせる。とはいえペン型スタンガンは人一人気絶させる威力はなく、あくまで「ビリっ」てする程度だ。
「それでは皆さんさようなら!」
「さようならぁ!」
 それぞれの両親のもとへ駆け寄る子供たち。無邪気な笑顔がとても可愛いと思う孝之介だが、子供ばかり眺めているわけにはいかない。現時点で予想している標的は春利君だが、もしかしたら他の子供が狙われるかもしれないと考えると、より緊張感が走って冷や汗すらかく。
「春くん!」
「ママ!」
「帰ろっか?今日何食べたい?」
「シチュー食べたい!」
「オッケー!」
「(今のところ襲撃の影はない…幸さんからびっしり気配の消し方は教わったが、大丈夫か…)」
 幸人から教わったのは戦闘技術のみでなく、何と気配の消し方とスニーキングも教わっていた。武芸百般だけでなくあらゆる特殊能力を持っている幸人。孝之介こそその力を引き継げる者だ。
「(案の定現れたな…さてと)」
 やはり予想通り春利君を狙う黒スーツでサングラスをした男が尾行していた。奴は孝之介の気配すら気付いておらず、どうやら教訓が発揮されているようだ。だが奴は
「例のガキを尾行します。このまま女ごと殺しますか?」
「(何…?狙いは春利君だけじゃないのか?)」
 何か裏がありそうだが、奴に知っていることがあるなら捕まえて聞き出すのが早い。それに一切気配に気付かず奴は
「おわっ!?」
 マヌケな声が出た男。
「はいボクちゃんこっちねぇ!」
「離せ!」
 抵抗して孝之介の腕を振り払うと、奴は無駄にゴツいナイフを持って刺し掛かる。しかし鍛え上げられた孝之介に対抗できるはずがなく
「うわぁ…!」
 自慢の関節技で折らない程度に捻る。
「さて早いとこネタバラシしてもらおっか?」
「何のことだ!?」
「君桐野賢一の差し金だよねぇ?俺は元部下の山波孝之介なんだ。孝ちゃんって呼んでいいぜ?けどそれより、君の目的教えてくんない?教えてくれたら無傷で消してあげるから」
 男は一瞬で戦っても勝てないことを悟ったのか、急に喋り出した。だが意外な答えが返ってくる。
「いや、俺は城倉利充って人に雇われた無戸籍者なんだ!」
「無戸籍者だと?」
 無戸籍者とは生まれてから出生届が何らかの理由で役所に提出されず、簡単に言えば人々が当たり前に行っていることができない。例えば義務教育以降の進学や仕事などだ。
「そうだ。俺に働ける場所なんなかったから、その城倉って男に雇われて」
「それで、あの子を襲う理由は何て聞かされた?」
「えぇっと…代替品になる子供を殺して持って来いって」
「代替品…!?」
 全く想像できなかった答えが返ってきた。代替品とは?
「その持って来いと言われた場所は?」
「ここからそうとお…!?クッ…!、ウウウぅ!」
「どうした!?」
 突然苦しみ始める男。まるで毒物を盛られたようにもがき苦しむ。毒は非常に強力なのか、吐血するとすぐに息絶えてしまった。
「何が起きてる…!?」
 周りを見渡すと、銃のような物を向けている謎の人物がいた。孝之介がそれに気付くと奴も気付いたのか、そのまま逃走を図る。それを見逃すわけがない。
「待て!」
 必死に追いかけるが奴は相当な足の速さ。捕まえるには至らないが見失わないよう追跡することならできる。だが一歩のところで見失ってしまい、今日はこのまま泣き寝入りなのかと思われた。だがそのまま走っていると、何故か例の廃病院に辿り着いた。
「ここは、相当前に潰れた病院か?」
 まるで吸い寄せられるように足を踏み入れる。廃病院の如く中は暗いが、何故か機械は動いているような気配だ。やはり誰かいるのか?すると
 チャリン…
「…?誰かいるのか?」
 明らかに誰かいる。まるで鎖が重なり合ったような音だ。まさかと考えて進み続ける。だが物音は1階からではなく、下の階から響いている。地下の階があるのか?と考えたが、進んでみると先程の室内とは打って変わり、まるで軍の施設のような階だった。本来こんな場所などないはずなのだが、まさか廃病院と化した理由と何か関係しているのだろうか?
 ガシャン!
「!?」
 突然扉が締まる!さらにオートロックが作動していてびくともしない。今確実に言えることは
「嵌められたか…!?」
 さらに完全に閉ざされているせいで携帯の電波すら届かない。これで幸人と位置情報を共有することすらできなくなってしまう。だが入ったと同時に突然部屋の明かりが点いた。先へ先へと進んで行くと、そこにいたのは痩せ細った少女。それも2年前行方不明者として捜索願が出されていた張本人だった!
「君…大丈夫か!?」
「あぁ…ぁ…」
 衰弱していてまともに喋れていない。だが鎖はかなり老朽化していたため、少し強めに引っ張ると簡単に千切れた。だが問題はそれだけではなく、近くのテーブルには何とも悍ましい光景が広がっていた。
「これは…酷い!」
 孝之介ですら吐き気を催す。そこには犠牲者の写真と、その横には切り取られた睾丸をミンチにされ、そのまま容器に入れた物があるのだ!本当はやりたくないが、携帯のカメラでその証拠を抑え、桐野の悪事を暴くためには仕方ないと自分に言い聞かせる。さらに周りには胎児のような腐乱した遺体がこれでもかと並べられ、最早死体処理場のような光景だ。すると突然モニターが勝手に点き、眺めていると
「ようやく来たか…山波君」
 モニターに映っているのは何と桐野本人だ!奴は差し金や使い物にならない人間を使って行動を見ていたのだ。
「桐野!?」
「まさか私が隙を見せたとでも思ったのか?最初っから、君にはここに来てもらう運命だったんだよ…君はここで死んでもらう。それと、君が大切にしている名波君は私がたっぷり可愛がってあげるか…」
「桐野貴様!?」
 何かを聞き出す前にモニターは切れてしまった。今室内でまともに動けるのは孝之介だけ。せめて今生きている少女だけでも助けたい。ここから孝之介の、3日間に渡る壮絶な戦いが幕を開ける…
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