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第二章 忌み者たちの出会い
第六話 謎の住居と迫害されし民
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「……家、だよな?」
「…………家だね」
それから暫くの間、西へ西へと足を進めていた俺たちは、そろそろキャンプ地でも探そうかと時分に、とある建物を見つけた。
互いの一致した発言からも分かるように、それは家。生えている木をくり抜いて作られたようなものではない――木材を加工して作られた正真正銘の建築物だ。
一瞬、誤って獣人族の領土に足を踏み入れてしまったのかと考えるも、すぐに思い違いだということに気がつく。
彼らの住居は包と呼ばれるもので、骨組みを建て、その上から動物の皮を垂らす構造になっている。どう考えても目の前の建物とは特徴が合致しない。
ならば、これは一体誰の住処なのか。技術的にはドワーフ族や魔族に似ているが、前者はエルフ族との関係性が非常に悪く、後者は大戦のあと極西でひっそりと暮らしているはずだ。
「……はぁ、迷っててもしょうがないか」
いくら考えても答えの出ない問いに諦めを付け、覚悟を決める。
「大丈夫なの?」
「万が一の時は武力行使、最悪逃げれば何とかなる」
心配そうに袖を引くルゥに、俺はあっけらかんと言い放った。
「…………野蛮」
ジト目で言及する姿を視界の端に捉えるも無視。俺が歩けば彼女も付いてくるほかなく、二人分の足音が鳴る。
ドアの前に辿り着いた俺は改めて武装の確認を行い、どんな襲われ方をされてもいいよう心の準備をしてドアを叩いた。
「……誰かは知らんが、こんな老いぼれに何か御用かな?」
年季の入った声とともに姿を現したのは一人の小柄な老人。その特徴的な長い耳と口元から伸びた髭は、自然と俺の目を引く。
「あ、いや……こんな場所に家なんて珍しいと思ってな。ちょっと訪ねてみただけだ」
そう質問に答えを返していると、ジッと俺たちは見つめられていた。隣では居心地の悪そうにルゥが身を捩り、老人は何かを納得したように声を上げる。
「……ふむ。まぁ、こんな時間だ。支障がないのなら、ここに泊まるといい」
それだけ言うと、扉を開けたままにして奥へと引き上げて行った。
俺たちは二人して目を合わせるもなにか意見が出るわけでもなく、仕方なしにその後へ続く。
中は見た目以上に広く作られており、今居る大部屋の他に一部屋あるのが見て取れた。また、二階にも部屋が幾つかあるようだ。
気が付くと部屋には芳醇な香りが満ちている。
「里の方にも寄ったが、ここは随分とエルフらしからぬ造りだな」
部屋の中央に据えられた机と四脚の椅子、その上に用意された湯気の立つハーブティーを確認しながら、俺は老人に声をかけた。
「……そう思うのも無理はあるまい。その辺りも含めて、互いに話をしようじゃないか」
気になる物言いに眉をひそめながら、俺は用意された席につく。同じようにルゥも隣の椅子に腰掛けると、老人は一口お茶を飲んだ。
「儂の名前はカオス。小僧らは何と言う?」
ズズズッと鳴る音と共に、唐突に挨拶が放たれる。
「俺はレスコット。レスコット=ノーノだ。それで、こっちの子がルゥナー=ノーノ。よろしく頼む」
「……それで? 小僧らは何をしにここへ来たのだ?」
文言こそ違えど、意味する内容は俺たちがここへ来た時と同じもの。その真意を図りかね、俺は首を傾けた。
「ならば、聞き方を変えよう。……何を隠している?」
「別に隠しているわけじゃない。……が、その――」
言葉に詰まり、チラと隣の少女を見やる。傷心中の彼女の前でこの話題を出すのは少し気が引けた。
けれど、カオス老人も同じエルフ族である以上、言わないという選択肢は考えられない。
「――この子は吸血鬼なんだ。人間族から逃げてこの里まで来たが、それもバレて追い出されてしまった」
ルゥを見れば目を伏せ、静かに拳を握っている。机の下でその手は小さく震えていた。
「なんだ、そんなことか。どこまでいっても人は人だな」
――だから、アンタのお世話にはなれない。そう続けようとした口が止まる。
「気に、しないのか……?」
「気にする必要がない。儂も同じだ」
言われても意味が分からなかった。一体何が同じなのだろうか?
「先程、小僧がした問いの答えでもある。儂はな、ハーフエルフなのだ」
聞き覚えのない言葉に一瞬眉を顰めるも、その単語の意味を汲み、容姿を鑑みればすぐに答えは浮かんだ。
「いや、しかしまさか――」
有り得ない、などということは無いが事実なのだろうか?
種族の関係性、そして、かつての大戦のことを考えると到底信じられない。
「小童と同じ様に、だがそれよりもずっと昔から迫害されてきた。母がエルフ、父がドワーフだったためにな」
けれど、事実は小説よりも奇なり、という言葉が存在するように、現実は簡単に常識と思っていた事柄を覆す。
ふとその時、袖が引っ張られる感触を覚えた。
「――ねぇ、よく分かんない」
そこには困り顔で眉を下げるルゥの姿。
「あ、あぁ……そうだな。実は――」
説明しようとする俺の目の前に、シワの入った腕が差し込まれる。
「よい、儂の話だ。儂が話そう」
そう言うと、彼は静かに話し始めた。
「……まずは何から話したものか。我らが人類とは七つの種族のことを指し、生まれ立った時からこの世界を統治してきた。しかし、種族という敷居が互いの軋轢を生み、争いは絶えず、友好・敵対関係は当たり前のように現れる。例えば、小童のような吸血鬼族は魔族と盟友のような関係であったし、そして、エルフ族とドワーフ族は顔を合わせばすぐに戦争を引き起こすほどの犬猿の仲だった」
「えっ、でも……お爺ちゃんの両親って…………」
「そう、何の因果なのか恋に落ちてしまった。出会った原因も、寄り添うようになった切っ掛けも分かりはせん。なにせ、そんな話を聞くよりも先にどっちも床に伏せたからな」
そこで一度言葉を切ると、一口お茶を啜る。
唇を湿らせるように舐め、また続けた。
「大戦より前に出会った二人は仲を深め、しかし、当然のごとく互いの親族からは反対されたらしい。結果として父は国を追い出され、母はとある条件と引き換えにひっそりとここで過ごす権利を得たと聞く。けれど、それはあくまでも権利に過ぎず、事実を容認された訳では無い。特にエルフは、自身の血を至高と考える純血主義。二人――特に母は、血に異物を入れた外敵のような扱いを受け、その子供である私も混血ということで蔑まれてきたわけだ」
カオス老人が話し終えると、場はシンと静まり返る。カップを置く音だけがカチャリと響いた。
俺は元々この話を知っていたので、特に何か言うことは無い。
その一方で、事の発端であるルゥはといえば、またしても俯いた状態で何かを考えていた。
「…………なんだ、飲まんのか?」
目を移せば、そこには口のつけられていない、まだ並々に注がれたままの俺たちのカップがある。
「あー、すまない。この子は俺の出すもの以外、食べないんだ。俺だけでも頂こう」
取っ手を持ち、一口煽る。
この会話が場の空気を上手く変えたようで、変にしんみりとした雰囲気は消えた。
「ふむ、では夕飯は小僧に任せてもいいか?」
「もちろん。寝床を用意してもらえるんだ、それくらいのことはしよう」
そう言うと、脇に置いていた荷物を手に取り、二階の部屋へと案内してもらう。
「右の部屋は儂の寝室だ。左には両親共用の寝室、普通の一人用の寝室がそれぞれ一部屋ずつあるので好きに使ってくれ」
指差された方向を見れば確かにドアが二つ見えた。
「助かるよ」
「なに、気にするな。……あぁ、そうそう。ここは宿ではないんで鍵はかからんぞ。それと、久々に肉が食べたい」
言葉を言い残しながら階段を降りていくカオス老人に、俺は苦笑を向けた。
肉を所望するとは、疑っているわけではなかったが、やはりドワーフの血も混ざっているのだろうな。
「了解」
頭でレシピを考えながら、そう返した。
「…………家だね」
それから暫くの間、西へ西へと足を進めていた俺たちは、そろそろキャンプ地でも探そうかと時分に、とある建物を見つけた。
互いの一致した発言からも分かるように、それは家。生えている木をくり抜いて作られたようなものではない――木材を加工して作られた正真正銘の建築物だ。
一瞬、誤って獣人族の領土に足を踏み入れてしまったのかと考えるも、すぐに思い違いだということに気がつく。
彼らの住居は包と呼ばれるもので、骨組みを建て、その上から動物の皮を垂らす構造になっている。どう考えても目の前の建物とは特徴が合致しない。
ならば、これは一体誰の住処なのか。技術的にはドワーフ族や魔族に似ているが、前者はエルフ族との関係性が非常に悪く、後者は大戦のあと極西でひっそりと暮らしているはずだ。
「……はぁ、迷っててもしょうがないか」
いくら考えても答えの出ない問いに諦めを付け、覚悟を決める。
「大丈夫なの?」
「万が一の時は武力行使、最悪逃げれば何とかなる」
心配そうに袖を引くルゥに、俺はあっけらかんと言い放った。
「…………野蛮」
ジト目で言及する姿を視界の端に捉えるも無視。俺が歩けば彼女も付いてくるほかなく、二人分の足音が鳴る。
ドアの前に辿り着いた俺は改めて武装の確認を行い、どんな襲われ方をされてもいいよう心の準備をしてドアを叩いた。
「……誰かは知らんが、こんな老いぼれに何か御用かな?」
年季の入った声とともに姿を現したのは一人の小柄な老人。その特徴的な長い耳と口元から伸びた髭は、自然と俺の目を引く。
「あ、いや……こんな場所に家なんて珍しいと思ってな。ちょっと訪ねてみただけだ」
そう質問に答えを返していると、ジッと俺たちは見つめられていた。隣では居心地の悪そうにルゥが身を捩り、老人は何かを納得したように声を上げる。
「……ふむ。まぁ、こんな時間だ。支障がないのなら、ここに泊まるといい」
それだけ言うと、扉を開けたままにして奥へと引き上げて行った。
俺たちは二人して目を合わせるもなにか意見が出るわけでもなく、仕方なしにその後へ続く。
中は見た目以上に広く作られており、今居る大部屋の他に一部屋あるのが見て取れた。また、二階にも部屋が幾つかあるようだ。
気が付くと部屋には芳醇な香りが満ちている。
「里の方にも寄ったが、ここは随分とエルフらしからぬ造りだな」
部屋の中央に据えられた机と四脚の椅子、その上に用意された湯気の立つハーブティーを確認しながら、俺は老人に声をかけた。
「……そう思うのも無理はあるまい。その辺りも含めて、互いに話をしようじゃないか」
気になる物言いに眉をひそめながら、俺は用意された席につく。同じようにルゥも隣の椅子に腰掛けると、老人は一口お茶を飲んだ。
「儂の名前はカオス。小僧らは何と言う?」
ズズズッと鳴る音と共に、唐突に挨拶が放たれる。
「俺はレスコット。レスコット=ノーノだ。それで、こっちの子がルゥナー=ノーノ。よろしく頼む」
「……それで? 小僧らは何をしにここへ来たのだ?」
文言こそ違えど、意味する内容は俺たちがここへ来た時と同じもの。その真意を図りかね、俺は首を傾けた。
「ならば、聞き方を変えよう。……何を隠している?」
「別に隠しているわけじゃない。……が、その――」
言葉に詰まり、チラと隣の少女を見やる。傷心中の彼女の前でこの話題を出すのは少し気が引けた。
けれど、カオス老人も同じエルフ族である以上、言わないという選択肢は考えられない。
「――この子は吸血鬼なんだ。人間族から逃げてこの里まで来たが、それもバレて追い出されてしまった」
ルゥを見れば目を伏せ、静かに拳を握っている。机の下でその手は小さく震えていた。
「なんだ、そんなことか。どこまでいっても人は人だな」
――だから、アンタのお世話にはなれない。そう続けようとした口が止まる。
「気に、しないのか……?」
「気にする必要がない。儂も同じだ」
言われても意味が分からなかった。一体何が同じなのだろうか?
「先程、小僧がした問いの答えでもある。儂はな、ハーフエルフなのだ」
聞き覚えのない言葉に一瞬眉を顰めるも、その単語の意味を汲み、容姿を鑑みればすぐに答えは浮かんだ。
「いや、しかしまさか――」
有り得ない、などということは無いが事実なのだろうか?
種族の関係性、そして、かつての大戦のことを考えると到底信じられない。
「小童と同じ様に、だがそれよりもずっと昔から迫害されてきた。母がエルフ、父がドワーフだったためにな」
けれど、事実は小説よりも奇なり、という言葉が存在するように、現実は簡単に常識と思っていた事柄を覆す。
ふとその時、袖が引っ張られる感触を覚えた。
「――ねぇ、よく分かんない」
そこには困り顔で眉を下げるルゥの姿。
「あ、あぁ……そうだな。実は――」
説明しようとする俺の目の前に、シワの入った腕が差し込まれる。
「よい、儂の話だ。儂が話そう」
そう言うと、彼は静かに話し始めた。
「……まずは何から話したものか。我らが人類とは七つの種族のことを指し、生まれ立った時からこの世界を統治してきた。しかし、種族という敷居が互いの軋轢を生み、争いは絶えず、友好・敵対関係は当たり前のように現れる。例えば、小童のような吸血鬼族は魔族と盟友のような関係であったし、そして、エルフ族とドワーフ族は顔を合わせばすぐに戦争を引き起こすほどの犬猿の仲だった」
「えっ、でも……お爺ちゃんの両親って…………」
「そう、何の因果なのか恋に落ちてしまった。出会った原因も、寄り添うようになった切っ掛けも分かりはせん。なにせ、そんな話を聞くよりも先にどっちも床に伏せたからな」
そこで一度言葉を切ると、一口お茶を啜る。
唇を湿らせるように舐め、また続けた。
「大戦より前に出会った二人は仲を深め、しかし、当然のごとく互いの親族からは反対されたらしい。結果として父は国を追い出され、母はとある条件と引き換えにひっそりとここで過ごす権利を得たと聞く。けれど、それはあくまでも権利に過ぎず、事実を容認された訳では無い。特にエルフは、自身の血を至高と考える純血主義。二人――特に母は、血に異物を入れた外敵のような扱いを受け、その子供である私も混血ということで蔑まれてきたわけだ」
カオス老人が話し終えると、場はシンと静まり返る。カップを置く音だけがカチャリと響いた。
俺は元々この話を知っていたので、特に何か言うことは無い。
その一方で、事の発端であるルゥはといえば、またしても俯いた状態で何かを考えていた。
「…………なんだ、飲まんのか?」
目を移せば、そこには口のつけられていない、まだ並々に注がれたままの俺たちのカップがある。
「あー、すまない。この子は俺の出すもの以外、食べないんだ。俺だけでも頂こう」
取っ手を持ち、一口煽る。
この会話が場の空気を上手く変えたようで、変にしんみりとした雰囲気は消えた。
「ふむ、では夕飯は小僧に任せてもいいか?」
「もちろん。寝床を用意してもらえるんだ、それくらいのことはしよう」
そう言うと、脇に置いていた荷物を手に取り、二階の部屋へと案内してもらう。
「右の部屋は儂の寝室だ。左には両親共用の寝室、普通の一人用の寝室がそれぞれ一部屋ずつあるので好きに使ってくれ」
指差された方向を見れば確かにドアが二つ見えた。
「助かるよ」
「なに、気にするな。……あぁ、そうそう。ここは宿ではないんで鍵はかからんぞ。それと、久々に肉が食べたい」
言葉を言い残しながら階段を降りていくカオス老人に、俺は苦笑を向けた。
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