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July
7月1日(月) 試験対策②
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『いやー……やらかした』
日も傾き、眩い西日が校舎全体を照らす中で、未だに教室に居残っていた私とそらはそんな声を出す。
『まさか、明日から定期考査だったなんて……』
思わぬ伏兵だった。
九州大会が近いということで試験休みも免除となり、部活を続けていたそらたちバドミントン部。
その練習に同行していたものだから、すっかり週明けから試験が始まるということを失念していた。
「いや……そらは出場選手だったからしょうがないとしてもさ……」
「かなちゃんは、忘れてちゃダメじゃないのかな……? 私と違ってマネージャーでもないんだし……」
そして、そのことをこの場にいたいつもの二人に打ち明ければ、なんとも冷たく、悲しい言葉を贈られる。
「…………酷い」
確かに入部はしていないけど、この一年と少しの間、一緒に過ごしてきたというのに……!
――などと茶番を行っていれば、ふと畔上くんは私たちにあることを尋ねてきた。
「あれ……でもさ、二人の全く勉強してない――っていう状況は確かにヤバいけど……そもそも、そんなに勉強してたっけ?」
なんとも失礼な態度。
それを詩音は優しく窘める。
「し、翔真くん……この二人でもさすがにそれは――」
『…………………………………………あっ』
「――してないの!?」
が、申し訳ないことに確かにしてない。
それは自他ともに、親から先生までもが認める事実だ。
そして何より、今日は詩音のツッコミが冴え渡ってて良いと思う。
そんな気持ちの良い反応を前に、畔上くんは困ったような笑みを浮かべていた。
「いや、詩音さん……この二人は割と昔から自白してたと思うけど……」
「うん、それは知ってたけど……でも、勉強会に誘ったら結構来てくれるし、実は裏で勉強してるんだと思ってた……」
『ははは、それはないない』
あぁ……本当になんていい子なんだろう。
そんな、私たちを擁護してくれるような意見であったけれど、自分自身で笑って否定する。
「でもじゃあ、普段の高い点数って……もしかして勉強してない素の実力なの?」
「まぁ、文系だけだけどね」
「まぁ、理系だけだけどな」
哀しいかな。
結局、得意な教科しかできないし、やらない、怠惰な人間ってわけなのだ。
「ホント凄いよなー……勉強してる俺がバカみたいだよ」
だから、畔上くんはそう自虐するけど、私は……きっとそらもそんなことは少しも思っていない。思わないし、思えない。
努力をする、続けられる――そしてそれを結果に出すというのは存外難しいことであると知っているから。
それはとても素晴らしい才能だと思う。
「そ、そんなことないと思う! 頑張れる人って、すごくカッコイイよ!」
「そ、そうかな? ……ありがとう、詩音さん」
「えっ――あ…………う、うん」
……まぁ、口に出すのは恥ずかしいし、そうしなくとも私の代わりにちゃんと想いを伝えられる子がいるから、黙っておくけどね。
そして、あまりにも良いムードに私たちがここに居ていいのかと思案、ついでに目だけで隣のそらと相談していると、話を変えるように畔上くんは話題を振ってくる。
「ん…………? でもそれならさ、そらたちが教室に居残る理由はないんじゃないのか?」
けれど、その答えはノーだ。
残念ではあるけれど、私たちにはやらなければいけないことが一つだけ残っているから。
「そらに文系科目を教えないといけない」
「かなたに理系を教えなきゃいけないんだよ」
そうでないと、お互いに目も当てられない事態になってしまうだろう。
『……何だ、結局勉強するんだ』
そんな私たちに対して、二人は呆れ顔で返すのであった。
日も傾き、眩い西日が校舎全体を照らす中で、未だに教室に居残っていた私とそらはそんな声を出す。
『まさか、明日から定期考査だったなんて……』
思わぬ伏兵だった。
九州大会が近いということで試験休みも免除となり、部活を続けていたそらたちバドミントン部。
その練習に同行していたものだから、すっかり週明けから試験が始まるということを失念していた。
「いや……そらは出場選手だったからしょうがないとしてもさ……」
「かなちゃんは、忘れてちゃダメじゃないのかな……? 私と違ってマネージャーでもないんだし……」
そして、そのことをこの場にいたいつもの二人に打ち明ければ、なんとも冷たく、悲しい言葉を贈られる。
「…………酷い」
確かに入部はしていないけど、この一年と少しの間、一緒に過ごしてきたというのに……!
――などと茶番を行っていれば、ふと畔上くんは私たちにあることを尋ねてきた。
「あれ……でもさ、二人の全く勉強してない――っていう状況は確かにヤバいけど……そもそも、そんなに勉強してたっけ?」
なんとも失礼な態度。
それを詩音は優しく窘める。
「し、翔真くん……この二人でもさすがにそれは――」
『…………………………………………あっ』
「――してないの!?」
が、申し訳ないことに確かにしてない。
それは自他ともに、親から先生までもが認める事実だ。
そして何より、今日は詩音のツッコミが冴え渡ってて良いと思う。
そんな気持ちの良い反応を前に、畔上くんは困ったような笑みを浮かべていた。
「いや、詩音さん……この二人は割と昔から自白してたと思うけど……」
「うん、それは知ってたけど……でも、勉強会に誘ったら結構来てくれるし、実は裏で勉強してるんだと思ってた……」
『ははは、それはないない』
あぁ……本当になんていい子なんだろう。
そんな、私たちを擁護してくれるような意見であったけれど、自分自身で笑って否定する。
「でもじゃあ、普段の高い点数って……もしかして勉強してない素の実力なの?」
「まぁ、文系だけだけどね」
「まぁ、理系だけだけどな」
哀しいかな。
結局、得意な教科しかできないし、やらない、怠惰な人間ってわけなのだ。
「ホント凄いよなー……勉強してる俺がバカみたいだよ」
だから、畔上くんはそう自虐するけど、私は……きっとそらもそんなことは少しも思っていない。思わないし、思えない。
努力をする、続けられる――そしてそれを結果に出すというのは存外難しいことであると知っているから。
それはとても素晴らしい才能だと思う。
「そ、そんなことないと思う! 頑張れる人って、すごくカッコイイよ!」
「そ、そうかな? ……ありがとう、詩音さん」
「えっ――あ…………う、うん」
……まぁ、口に出すのは恥ずかしいし、そうしなくとも私の代わりにちゃんと想いを伝えられる子がいるから、黙っておくけどね。
そして、あまりにも良いムードに私たちがここに居ていいのかと思案、ついでに目だけで隣のそらと相談していると、話を変えるように畔上くんは話題を振ってくる。
「ん…………? でもそれならさ、そらたちが教室に居残る理由はないんじゃないのか?」
けれど、その答えはノーだ。
残念ではあるけれど、私たちにはやらなければいけないことが一つだけ残っているから。
「そらに文系科目を教えないといけない」
「かなたに理系を教えなきゃいけないんだよ」
そうでないと、お互いに目も当てられない事態になってしまうだろう。
『……何だ、結局勉強するんだ』
そんな私たちに対して、二人は呆れ顔で返すのであった。
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