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August
8月31日(土) 悩める乙女
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この一週間、ずっと考えていたことがある。
先週の日曜日の出来事から、今日という日まで。
私を苛み続ける、彼についての問題――あの時放った言葉と、その真意を。
だけども、一向に分からなかった。
結菜先輩が振られたという事実、それは理解できる。
元々、多くの女の子の告白を断っていたのだから、なにも不思議ではない。むしろ、予想できた結末だ。
だから、最近は無闇矢鱈に告白する子は激減していたし、挑む子の殆どは何も知らずに一目惚れした新入生か卒業間近で後がない上級生くらい。
結菜先輩もまた後者の人であり、卒部というタイミングで区切りをつけるために玉砕覚悟で向かったのだろう。
謎なのは、その告白を受けたときの表情。そして、結菜先輩の問いに関する返し。
気のない相手に告白をされた時、普通ならその好意に応えられない申し訳なさが滲むもの。
なのに、あの時の翔真くんの顔はもっと泣きそうで、辛そうな……痛ましい色に覆われていた。
いくら心の優しい翔真くんといえども、それは何かがおかしい。
良くいえば不自然なほどに過剰であり、悪くいうなら常軌を逸した反応だ。
…………まぁ、おかげで翔真くんはちゃんと女性が好きなんだってことが分かったから良いんだけど。
あまりに振りすぎていたから、もしかしたら男色家で相手はだいたい一緒にいる蔵敷くんなんじゃ――って噂がまことしやかに囁かれていたりしていたし……。
そして何より、告白を断ったときの理由。
自分は皆が思っているより高尚じゃない、本当の彼を知ったら幻滅する――と言っていたアレ。
一体どういう意味なのか。
成績は常に学年一位、スポーツに関しても大会で入賞しているし体育の授業でも活躍している――勉学・運動ともに優れているのは自明のはず。
容姿についても、たくさんの告白をされている以上は認めるべきものだろう。
なのに、どうして否定をするのか。
本当の彼、とは何を指しているのか。
幻滅という点から考えられるのは、整形・カンニング・ドーピングなどであるけど、とてもそんなことをしているようには思えない。
お母さんは綺麗だったから遺伝だろうし、カンニングする相手は誰って話だし、大会のときも翔真くんのことはよく見ていたけどドーピングらしき行動をとっている姿を目撃したことがないのだから。
どれも、証拠能力のない推測でしかない。
だけど、だからこそ、私は信じない。信じたくない。
「…………でもじゃあ、何なんだろう……?」
思考はいつも堂々巡り。
この六日間で何度目の繰り返しになるだろう。
「……私だったら、どんな翔真くんでも喜んで受け入れるのになぁー…………」
何となく呟いてみた。
でもきっと、そうじゃないのだと思う。
彼が抱えているのは、彼しか知りえない闇だ。
そこにどうにかして踏み込めない限り、本当の意味で彼を理解することは難しい。
そして同時に、踏み込ませてもくれないだろう。
拒絶されるのが怖い、というあの時の言葉通りに。
「はぁー……どうしたらいいのかな」
窓の外を見上げる。
輝く星々も、明るく照らす月も、雲に隠れてその姿はどこにもなかった。
私の頬を撫でる風は、秋らしく涼しいものへと変化している。
虫の声音も美しく響き、このまま穏やかに眠れることだろう。
だから、この時は全く気付かなかった。
その先に、冷たく苦しい冬の季節が到来するということを。
先週の日曜日の出来事から、今日という日まで。
私を苛み続ける、彼についての問題――あの時放った言葉と、その真意を。
だけども、一向に分からなかった。
結菜先輩が振られたという事実、それは理解できる。
元々、多くの女の子の告白を断っていたのだから、なにも不思議ではない。むしろ、予想できた結末だ。
だから、最近は無闇矢鱈に告白する子は激減していたし、挑む子の殆どは何も知らずに一目惚れした新入生か卒業間近で後がない上級生くらい。
結菜先輩もまた後者の人であり、卒部というタイミングで区切りをつけるために玉砕覚悟で向かったのだろう。
謎なのは、その告白を受けたときの表情。そして、結菜先輩の問いに関する返し。
気のない相手に告白をされた時、普通ならその好意に応えられない申し訳なさが滲むもの。
なのに、あの時の翔真くんの顔はもっと泣きそうで、辛そうな……痛ましい色に覆われていた。
いくら心の優しい翔真くんといえども、それは何かがおかしい。
良くいえば不自然なほどに過剰であり、悪くいうなら常軌を逸した反応だ。
…………まぁ、おかげで翔真くんはちゃんと女性が好きなんだってことが分かったから良いんだけど。
あまりに振りすぎていたから、もしかしたら男色家で相手はだいたい一緒にいる蔵敷くんなんじゃ――って噂がまことしやかに囁かれていたりしていたし……。
そして何より、告白を断ったときの理由。
自分は皆が思っているより高尚じゃない、本当の彼を知ったら幻滅する――と言っていたアレ。
一体どういう意味なのか。
成績は常に学年一位、スポーツに関しても大会で入賞しているし体育の授業でも活躍している――勉学・運動ともに優れているのは自明のはず。
容姿についても、たくさんの告白をされている以上は認めるべきものだろう。
なのに、どうして否定をするのか。
本当の彼、とは何を指しているのか。
幻滅という点から考えられるのは、整形・カンニング・ドーピングなどであるけど、とてもそんなことをしているようには思えない。
お母さんは綺麗だったから遺伝だろうし、カンニングする相手は誰って話だし、大会のときも翔真くんのことはよく見ていたけどドーピングらしき行動をとっている姿を目撃したことがないのだから。
どれも、証拠能力のない推測でしかない。
だけど、だからこそ、私は信じない。信じたくない。
「…………でもじゃあ、何なんだろう……?」
思考はいつも堂々巡り。
この六日間で何度目の繰り返しになるだろう。
「……私だったら、どんな翔真くんでも喜んで受け入れるのになぁー…………」
何となく呟いてみた。
でもきっと、そうじゃないのだと思う。
彼が抱えているのは、彼しか知りえない闇だ。
そこにどうにかして踏み込めない限り、本当の意味で彼を理解することは難しい。
そして同時に、踏み込ませてもくれないだろう。
拒絶されるのが怖い、というあの時の言葉通りに。
「はぁー……どうしたらいいのかな」
窓の外を見上げる。
輝く星々も、明るく照らす月も、雲に隠れてその姿はどこにもなかった。
私の頬を撫でる風は、秋らしく涼しいものへと変化している。
虫の声音も美しく響き、このまま穏やかに眠れることだろう。
だから、この時は全く気付かなかった。
その先に、冷たく苦しい冬の季節が到来するということを。
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