彼と彼女の365日

如月ゆう

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September

9月29日(日) メンバー発表

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 テストが明けて最初の部活動。
 その終わり時に、部員全員を体育館へと招集した先生は一枚の紙を持って私たちの前に立っていた。

「三週間後に控えている新人大会――そのメンバーが決定した。いつもではあるが、この新人戦ではなるべく多くの部員の実力を見るために、団体戦と個人戦とで出場が被らないようにしている」

 そう切り出されると、自然と空気は緊張感を持つようになる。
 とはいえ、それは選手だけであり、私たちマネージャーはただ落ち着いて見ているだけなのだけど。

 ついでに言えば、私は選考に参加していたこともあり、大体の結果も知っているため、余計に焦りはない。

「それでは、メンバーを発表する。呼ばれた奴は返事を」

 どこかで生唾を飲み込む音が聞こえた。
 それくらいには静まり返っているし、皆して気になっている内容なのだろう。

「まずは団体戦だ。ダブルスⅠ――石川・金沢ペア!」

『はい!』

 最初に呼ばれたのは、二年生の選手二人。
 確か、私やそら・畔上くんと合わせて一緒にいた二人組……だったはず。

「ダブルスⅡ――小栗・塩原ペア!」

『あっ……は、はい!』

 こちらは一年生の二人。
 推薦されていた人だったはずだけど……私は入部したてなので、あまり見覚えがない。

「続いてシングルスⅠ――|蔵敷そら

「……はい」

 気のない、弱々しい返事をしたのは我が幼馴染。
 馴染みの仲というだけあり、隣に座る詩音は肩をつついて囁き声で話しかけてきた。

「蔵敷くん、呼ばれたね。シングルスⅠだから、もしものことがあっても、ダブルスに出場できないけど……」

「……そらは、協力プレイとか得意じゃないから大丈夫」

「あっ…………そ、そっか……」

 そう答えると、何やら詩音の瞳に憐憫の情が浮かぶ。
 でも、残念ながら事実であり、小・中学と団体スポーツを行った経験のあるそらであるが、終ぞまともにプレイすることはできていなかった。

 逆に、授業の一環で学んでいる剣道のような個人技は楽しんでいるようで、私としては何よりだ。

 ……なんか、話が逸れた気がする。

「シングルスⅡ――畔上翔真」

「はい」

 私たちの会話など関係なく続く、メンバー発表。
 その指名に、マネージャーらは軽く声を上げた。

 流石は、彼目的に集まっただけはある。相変わらずの人気っぷり。

「シングルスⅢ――宮内みやうち晋也しんや

「はい!」

 で、最後に呼ばれた人。
 この人も同様に推薦されてたような気がするけど……知らない。

 何はともあれ、団体戦のメンバーの発表が終わり、少し空気が弛緩した。
 正しくは、選ばれなかった落胆によるため息などと、あまり良い意味ではないのだけど……それでも一先ずは緊張から逃れられる。

 先生もまた、他の部員を納得させるためなのか、選考理由について語りだす。

「この並びにした理由だが、引退した三年生どもと違い、お前たちには必ず五戦目まで繋げられる保証がない。だから、先行逃げ切りで行く。一年のカバーはお前たち二年で果たせ!」

『はい……!』

 レギュラー陣の力強い返事――まぁ、そらだけはいつも通りのやる気のない返事だけど――が発せられれば、先生は再び手元の紙に視線を落とした。

「では続いて、個人戦のメンバー発表だ」

 そうしてまた到来する、緊張の波。
 本命の団体戦ではないものの、選ばれし大会出場者ということで、皆が意識を向ける。

「まずはダブルスから。一組目は――」

 ――のだけど、割愛しようと思う。
 だって、見知った人はすでに全員呼ばれてしまい、あとは私の知らない無名の一・二年生だけなのだから。
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