彼と彼女の365日

如月ゆう

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October

10月12日(土) 秋休み②

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 夕食を終え、まったりと寛ぐ時間帯。
 両親ともが用事で居ない――ということで、一緒にウチでご飯を食べた幼馴染は、俺と並ぶようにリビングのソファに腰掛けて、テレビを見ていた。

「……台風ヤバそうだな」

 番組の合間合間に流れる臨時ニュース。
 そこでは一部の地域に避難勧告が出ていることや川の氾濫、人気のない東京駅の様子を撮ったものなど、今回の台風がもたらした影響が映し出される。

「……ホント、ウチとは大違い」

 同意するかなたの言葉を聞きながら、窓の外を見やった。

 吹き荒れる風も、打ち付ける雨も、存在しない。
 時折、カーテンを大きく捲るほどの風が部屋の中を通るくらいで、その鬱陶しさに窓を閉めれば、何てことのないいつもの日常が帰ってくるレベル。

 今回の台風は範囲が広いということで、ここ福岡も暴風注意報が発令されているのだけど、そんな様子はこれっぽっちも見受けられない。

「まぁ、福岡ウチの場合は直撃したところで荒れないけどな」

 今年の夏と去年、二度にわたり台風の直撃を味わったわけだけれども、今回のような惨事は一切起こらず、何なら雨すら降らない穏やかなただの曇りだったのだ。

 母さんが心配して水を買いに走ったり、防災グッズのセットを買ってきたりしたのに、それらが全部ムダになったのは今でもお笑い草である。

 ……まぁ、『存在しないカテゴリー六』やら某アニメになぞらえて『ワルプルギスの夜』なんて呼称されているくらいに大きな台風と比べるのは少し違うのかもしれないけどな。

「しかし、会社は大変だな……。こんな状況でも出社を求めてくる所があるのかよ」

 でも、だからこそ、だったらもっと危機意識を持てよ――という事案が今回は多い気がする。

 ニュースからネットに、情報元を変更。
 わざわざタグ付けされたワードから、色々な人の投稿を読んでいれば、目に付くのはそんな話題だ。

 曰く、『台風だろうが、お客様には関係ない。だから出社しろ』や『交通機関がないなら、会社に泊まれ』などなど……挙句の果てには、大学の研究室でも似たようなことがあっているらしい。

 …………馬鹿げている。

「……そもそも、私たちお客様は自分の命が大事だから、外に出ない」

「それな。あと、停電になるかもしれないのに仕事もクソもあるかよ。お前ら、何で仕事してんだよ……。紙とペンで手書きか?」

 もちろん、ノートパソコンという手があるかもしれないが、バッテリーなんてせいぜいが数時間しかもたないはず。

 そんな状況下で命を懸けろだなんて、あまりにも滑稽ではないか。

「……自主休暇が、賢い選択」

「だな。それでクビになっても、少なくとも後悔はないだろうし」

 とはいえ、所詮は働いたこともない子供の戯言。
 所帯を持っているわけでも、自分で生活を支えているわけでもない。

 もしかしたら、やむにやまれぬ事情でそんな職場でも働かなきゃいけない人だっているだろう。
 そういった人たちを馬鹿にしているわけではないことだけは、どうか理解してほしい。

 間違っているのは社会の方だ。
 もっと海外を見習え。適度に休め。無理はするな。有給だって、もっと使っていいんだよ。

 そんな考えが、浸透したらいいのにな。

「俺たちが働く頃には、もう少し優しい世界になってないかなぁ……」

「……同意」

 何となく仰ぎ見ていた天井から、下に視線を落とす。
 付けっぱなしのテレビには、今後の台風の予想進路が映っていた。

 ……北海道が微妙に入っているのか。

 北海道といえば、ネッ友である七海さんが住んでいる場所。
 直撃ではないから大丈夫だとは思うが……後で連絡でもしてみるか。
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