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第一章 軋んでいく日常
日常の喧騒
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――――あれ?
今、僕は何をしている?
ていうか、今どこにいるんだっけ? ――――
「おおーっス!」
自分の“居場所”を求め、一瞬錯綜していた僕の意識の中に、聞きなれた声が響いてくる。
「おつかれ! 何ぼーっとしてんだよ。つか帰りにさ、“たむらや”寄ってかね!?」
声の主は、秋斗。
小柄ながらも、生意気な口調と性格で、しょっちゅう揉め事を起こしている。
一部のやんちゃグループからは一目置かれているみたいだけど、一般の生徒からは敬遠されがち。噛みつかれるのを怖れてか、誰も積極的に関わろうとしない(でも性格に反して可愛い? 顔立ちのせいか、一部の女子には人気があるようだ)。
でもまあ僕にとっては大切な友達。幼いころからずっと一緒にいる、家族にも等しい存在だ。
「ちょっと!! 帰りのホームルームはこれからなんだからね!!
隣のクラスのアンタが入りこまないでくれる!?」
反対側からも大きな声。
夏希だ。
ツインテールを揺らし、いつも問題児な秋人の行動を諌めようとする。二人のやりとりは、僕の中での日常茶判事。
さっきまでぼーっとしていた意識が、ようやく「自分」のものとして戻ってきた。
「うっせーな! いつまでも中坊みてーなこと言ってんじゃねーよ!」
「あんたと一緒にいると、私たちまで白い目で見られるんだから!
とっとと戻って! あ、先生、秋斗君がクラスに侵入しています!」
「ちっ、憶えてろっ!」
言い終わった瞬間、もうそこに秋斗の姿はなかった。
相変わらずスゴイ瞬発力。
一瞬で退散した秋斗の姿を見て、満足げな仕草の夏希。
ちなみに彼女も、同じく家族同然の仲。僕ら三人は、これまでずっと一緒にいた。
たぶんこれからも、ずっと――。
☆ ☆ ☆
「なー、シュン、たむらや、新メニュー出したの知ってるか?」
帰り道、両腕を頭の後ろに組んで、空を見上げながら聞いてくる秋斗。
裏門を出ると、長い坂道が続く。左側には木々の緑が茂り、右側に目を向けると、ガード柵の向こうは藪に覆われた崖。眼下には街が広がる。
「いや、それは知らないけど……」
相変わらず見晴らしの良い眺めを一望しながら、僕は答えた。
「そか。あそこのばーさん、いつも寝てっけどよ。よくオリジナル商品出したりとか、駄菓子屋の割にやたらとアグレッシブなんだわ。
こないだもさ、リンゴ飴の新味出したんだよ。“梅干しスパークリング”ってやつ。
キョーミあるんならさ、一緒に挑戦してみね?」
リンゴなのに梅干し!?
うーん、ちょっと挑戦する気にはならないかな……。そう言いかけた矢先、
「あー、また買い食いしようとしてるーー!」
後ろから自転車を引いて、夏希が近づいてきた。
「ダメだよ、陽人。不良の仲間入りしちゃ」
即座に秋斗が言い返す。
「だーかーらー、中坊じゃねぇんだって! 他のヤツらだってどっかしら寄り道してんだろが! 直行直帰て、小学生じゃねぇんだからさ!」
「他は他! ウチはウチ! あんた素行悪くてまあやさんから小遣い減らされてたでしょ。高校入っても全然変わらないじゃない」
「だから違ぇーって! アレはドブ高の奴らが勝手に向こうからカラんできたんだって!
これは最強の宿命ってヤツなのっ! しょーがないのっ!」
若干、駄々をこねる子供のような口調で言い返す秋斗を見て、僕も少し頬が緩む。
「な、シュンも見てたろ、ヘッドの権田林の極悪ぶりとしつこさ。俺なんも悪くねーし」
確かにメチャクチャな性格だけど、秋斗は理由なく暴れたりしない。こないだも、僕にまで手を出そうとした権田林にキレただけで……。
あれ?
……権田林?
ゴンダバヤシって……誰だっけ……?
「お、おい? どした、シュン?」
「あ、いや、うん……ゴンダバヤシ……君? って、誰だったっけ」
「え、ちょ、おま……、マジで言ってんかよ……」
「はい終了ー!」
間髪入れず、夏希が割り込む。
「話作るなら、ちゃんと口裏合わせることね!
サイキョーとか言って、バカなんじゃないの!?」
「はああアアーーッ? 全然作り話じゃありませんケド!? この物語はノンフィクションです、実際の登場人物とは関係ありまくりなンですケド!?」
「ワケわかんない! とにかく! ケンカしたのは事実でしょ! 停学にならなかったのが不思議なくらいなんだから。あんたはしばらく謹慎! お金もないのに陽人に集らない!」
ここでくるっと僕に目線を向けて、
「陽人も! 別に付き合う必要なんてないんだからね。何でも相手に合わせることが友達思いなんじゃないから。そこをはき違えないでね」
「ぐぬぬぬ……!」
またもやの天敵との遭遇に、苛立ちを募らせながらも何も言い返せずにいる秋斗を横目に、夏希は自転車を引きながら先へと歩いて行った。
さすがの暴れん坊も、模範的な優等生として皆からの信頼も篤い彼女には頭が上がらない。
小遣いの減額も、元々は彼女の案によるものだ。
ちなみに、まあやさんというのは、僕たちの暮らす施設を切り盛りする寮母さん。
僕たち三人は身寄りがなく、小さい頃から同じ施設で育ってきた。
家族同然といったのは、つまりそういうこと。
今、僕は何をしている?
ていうか、今どこにいるんだっけ? ――――
「おおーっス!」
自分の“居場所”を求め、一瞬錯綜していた僕の意識の中に、聞きなれた声が響いてくる。
「おつかれ! 何ぼーっとしてんだよ。つか帰りにさ、“たむらや”寄ってかね!?」
声の主は、秋斗。
小柄ながらも、生意気な口調と性格で、しょっちゅう揉め事を起こしている。
一部のやんちゃグループからは一目置かれているみたいだけど、一般の生徒からは敬遠されがち。噛みつかれるのを怖れてか、誰も積極的に関わろうとしない(でも性格に反して可愛い? 顔立ちのせいか、一部の女子には人気があるようだ)。
でもまあ僕にとっては大切な友達。幼いころからずっと一緒にいる、家族にも等しい存在だ。
「ちょっと!! 帰りのホームルームはこれからなんだからね!!
隣のクラスのアンタが入りこまないでくれる!?」
反対側からも大きな声。
夏希だ。
ツインテールを揺らし、いつも問題児な秋人の行動を諌めようとする。二人のやりとりは、僕の中での日常茶判事。
さっきまでぼーっとしていた意識が、ようやく「自分」のものとして戻ってきた。
「うっせーな! いつまでも中坊みてーなこと言ってんじゃねーよ!」
「あんたと一緒にいると、私たちまで白い目で見られるんだから!
とっとと戻って! あ、先生、秋斗君がクラスに侵入しています!」
「ちっ、憶えてろっ!」
言い終わった瞬間、もうそこに秋斗の姿はなかった。
相変わらずスゴイ瞬発力。
一瞬で退散した秋斗の姿を見て、満足げな仕草の夏希。
ちなみに彼女も、同じく家族同然の仲。僕ら三人は、これまでずっと一緒にいた。
たぶんこれからも、ずっと――。
☆ ☆ ☆
「なー、シュン、たむらや、新メニュー出したの知ってるか?」
帰り道、両腕を頭の後ろに組んで、空を見上げながら聞いてくる秋斗。
裏門を出ると、長い坂道が続く。左側には木々の緑が茂り、右側に目を向けると、ガード柵の向こうは藪に覆われた崖。眼下には街が広がる。
「いや、それは知らないけど……」
相変わらず見晴らしの良い眺めを一望しながら、僕は答えた。
「そか。あそこのばーさん、いつも寝てっけどよ。よくオリジナル商品出したりとか、駄菓子屋の割にやたらとアグレッシブなんだわ。
こないだもさ、リンゴ飴の新味出したんだよ。“梅干しスパークリング”ってやつ。
キョーミあるんならさ、一緒に挑戦してみね?」
リンゴなのに梅干し!?
うーん、ちょっと挑戦する気にはならないかな……。そう言いかけた矢先、
「あー、また買い食いしようとしてるーー!」
後ろから自転車を引いて、夏希が近づいてきた。
「ダメだよ、陽人。不良の仲間入りしちゃ」
即座に秋斗が言い返す。
「だーかーらー、中坊じゃねぇんだって! 他のヤツらだってどっかしら寄り道してんだろが! 直行直帰て、小学生じゃねぇんだからさ!」
「他は他! ウチはウチ! あんた素行悪くてまあやさんから小遣い減らされてたでしょ。高校入っても全然変わらないじゃない」
「だから違ぇーって! アレはドブ高の奴らが勝手に向こうからカラんできたんだって!
これは最強の宿命ってヤツなのっ! しょーがないのっ!」
若干、駄々をこねる子供のような口調で言い返す秋斗を見て、僕も少し頬が緩む。
「な、シュンも見てたろ、ヘッドの権田林の極悪ぶりとしつこさ。俺なんも悪くねーし」
確かにメチャクチャな性格だけど、秋斗は理由なく暴れたりしない。こないだも、僕にまで手を出そうとした権田林にキレただけで……。
あれ?
……権田林?
ゴンダバヤシって……誰だっけ……?
「お、おい? どした、シュン?」
「あ、いや、うん……ゴンダバヤシ……君? って、誰だったっけ」
「え、ちょ、おま……、マジで言ってんかよ……」
「はい終了ー!」
間髪入れず、夏希が割り込む。
「話作るなら、ちゃんと口裏合わせることね!
サイキョーとか言って、バカなんじゃないの!?」
「はああアアーーッ? 全然作り話じゃありませんケド!? この物語はノンフィクションです、実際の登場人物とは関係ありまくりなンですケド!?」
「ワケわかんない! とにかく! ケンカしたのは事実でしょ! 停学にならなかったのが不思議なくらいなんだから。あんたはしばらく謹慎! お金もないのに陽人に集らない!」
ここでくるっと僕に目線を向けて、
「陽人も! 別に付き合う必要なんてないんだからね。何でも相手に合わせることが友達思いなんじゃないから。そこをはき違えないでね」
「ぐぬぬぬ……!」
またもやの天敵との遭遇に、苛立ちを募らせながらも何も言い返せずにいる秋斗を横目に、夏希は自転車を引きながら先へと歩いて行った。
さすがの暴れん坊も、模範的な優等生として皆からの信頼も篤い彼女には頭が上がらない。
小遣いの減額も、元々は彼女の案によるものだ。
ちなみに、まあやさんというのは、僕たちの暮らす施設を切り盛りする寮母さん。
僕たち三人は身寄りがなく、小さい頃から同じ施設で育ってきた。
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