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喜び勇んで訊ねたヒースに、男たちは顔を見合わせると、次の瞬間どっと吹き出した。
「そんなに簡単に会えるものか。相手は”石さま”だぞ。俺たちとは住んでいる場所が違う」
「え……っ。だけど、王都にいるんだよな?」
「いたとしても関係あるか。――さ、仕事だ」
男たちは立ち上がり、ぞろぞろと午後の仕事へと戻ってゆく。ヒースは呆然とした。男たちにとっては単なる暇つぶしに過ぎなくても、ヒースにとっては違う。ずっと探して、ようやくつかんだシュイの手がかりだ。
「ま、待ってくれ……っ! もっとその石さまの話を聞かせてくれ……っ!」
「ああ? 話すことなんか何もねえよ」
必死なようすで腕に縋りつくヒースに、リーダー格の男は困ったような迷惑そうな表情を浮かべた。
「ほら、そこをどけ。邪魔だ」
腕を乱暴に振り払われて、ヒースはその場に立ち尽くす。その姿があまりに哀れに見えたのか、一人の男がおそるおそる口を開いた。
「確かに俺たちとは住んでる場所が違うけどさ、今度の武芸大会で優勝したら、もしかしたら会えるんじゃないか?」
「武芸大会って何だ? それに出て優勝したら、その石さまとやらに会えるのか?」
ヒースの真剣なようすに気圧されたように、声をかけた男は「た、たぶん……」とうなずく。リーダー格の男はヒースのしつこさにうんざりするように顔をしかめた。
「あのな、参加するのは何もこの国の人間だけじゃない、他国からも腕に覚えのある者が出場するんだろ。優勝した者には山ほどの賞金と何でも願い事が叶うって話だ。優勝すると一言で言ったって、そう簡単にできるものじゃない」
お前には無理だろうという男の視線に、ヒースは気づかなかった。シュイに会えるかもしれないという希望がヒースの目の前を明るくする。そんなヒースに呆れたように、男たちは顔を見合わせた。
「だけどさ、優勝して会うのは難しくても、遠くから見ることくらいなら案外簡単にできるんじゃないか」
どこからかそんな声が聞こえてきたのはそのときだ。
一人の男が摘んだ雑草を指先でくるくると弄りながら、こちらを見ている。男のいるところはちょうど木の陰になっていて、その表情は見えない。こんな男、前からいただろうか。そのとき、記憶の糸が紡がれるように、男の名前がふっと脳裏に浮かんだ。そうだ、アルドという男だ。これまであまり話をしたことはないが、何度も一緒の現場で働いたことがある。寮の部屋も一緒だ。なぜ忘れていたのだろう。
男を見たときに一瞬だけ浮かんだ違和感の正体はつかめぬまま、ヒースは言葉の意味を問いかけようとする。だが、ヒースが訊ねるよりも前に、どういうことだよ、と問う仲間の声に、アルドは弄っていた雑草を捨てた。
「確かあれ王室の公式行事だろ。他国からも賓客を招いて行っているはずだ。当然石さまもその場にくるんじゃないか」
アルドの言葉に、男たちはあっという顔になった。
「そうか! それだったら確かに顔を見ることぐらいはできるかもしれないな」
男たちの話を、ヒースはもう聞いてはいなかった。
シュイに会える……!
それはシュイの行方を探してようやく見つけた、ひとすじの光にほかならなかった。
太陽が雲に隠れ、影が落ちる。木の陰で翡翠色に光る目がじっと自分を見ていることを、もの思いにふけるヒースは気づかなかった。
「そんなに簡単に会えるものか。相手は”石さま”だぞ。俺たちとは住んでいる場所が違う」
「え……っ。だけど、王都にいるんだよな?」
「いたとしても関係あるか。――さ、仕事だ」
男たちは立ち上がり、ぞろぞろと午後の仕事へと戻ってゆく。ヒースは呆然とした。男たちにとっては単なる暇つぶしに過ぎなくても、ヒースにとっては違う。ずっと探して、ようやくつかんだシュイの手がかりだ。
「ま、待ってくれ……っ! もっとその石さまの話を聞かせてくれ……っ!」
「ああ? 話すことなんか何もねえよ」
必死なようすで腕に縋りつくヒースに、リーダー格の男は困ったような迷惑そうな表情を浮かべた。
「ほら、そこをどけ。邪魔だ」
腕を乱暴に振り払われて、ヒースはその場に立ち尽くす。その姿があまりに哀れに見えたのか、一人の男がおそるおそる口を開いた。
「確かに俺たちとは住んでる場所が違うけどさ、今度の武芸大会で優勝したら、もしかしたら会えるんじゃないか?」
「武芸大会って何だ? それに出て優勝したら、その石さまとやらに会えるのか?」
ヒースの真剣なようすに気圧されたように、声をかけた男は「た、たぶん……」とうなずく。リーダー格の男はヒースのしつこさにうんざりするように顔をしかめた。
「あのな、参加するのは何もこの国の人間だけじゃない、他国からも腕に覚えのある者が出場するんだろ。優勝した者には山ほどの賞金と何でも願い事が叶うって話だ。優勝すると一言で言ったって、そう簡単にできるものじゃない」
お前には無理だろうという男の視線に、ヒースは気づかなかった。シュイに会えるかもしれないという希望がヒースの目の前を明るくする。そんなヒースに呆れたように、男たちは顔を見合わせた。
「だけどさ、優勝して会うのは難しくても、遠くから見ることくらいなら案外簡単にできるんじゃないか」
どこからかそんな声が聞こえてきたのはそのときだ。
一人の男が摘んだ雑草を指先でくるくると弄りながら、こちらを見ている。男のいるところはちょうど木の陰になっていて、その表情は見えない。こんな男、前からいただろうか。そのとき、記憶の糸が紡がれるように、男の名前がふっと脳裏に浮かんだ。そうだ、アルドという男だ。これまであまり話をしたことはないが、何度も一緒の現場で働いたことがある。寮の部屋も一緒だ。なぜ忘れていたのだろう。
男を見たときに一瞬だけ浮かんだ違和感の正体はつかめぬまま、ヒースは言葉の意味を問いかけようとする。だが、ヒースが訊ねるよりも前に、どういうことだよ、と問う仲間の声に、アルドは弄っていた雑草を捨てた。
「確かあれ王室の公式行事だろ。他国からも賓客を招いて行っているはずだ。当然石さまもその場にくるんじゃないか」
アルドの言葉に、男たちはあっという顔になった。
「そうか! それだったら確かに顔を見ることぐらいはできるかもしれないな」
男たちの話を、ヒースはもう聞いてはいなかった。
シュイに会える……!
それはシュイの行方を探してようやく見つけた、ひとすじの光にほかならなかった。
太陽が雲に隠れ、影が落ちる。木の陰で翡翠色に光る目がじっと自分を見ていることを、もの思いにふけるヒースは気づかなかった。
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