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第5話
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「せーすぅ! あのね、ぼくね!」
むっちりとした短い手をセスのほうに伸ばし、拙い言葉で一生懸命話しかけるが、うまく言葉が見つからないようで、不思議そうに首をかしげる。
「……ほんとうにアシュなのか?」
「うん!」
おそるおそる訊ねたセスに、子どもはうれしそうにうなずいた。どうやらこの見知らぬ子どもは本当にアシュリーらしい。
「せすぅ?」
呆然とするセスを心配するように、子どもはむちむちっとした手を伸ばし、セスの頬にぺたぺたと触れる。自分をまっすぐに見つめる蜂蜜色の瞳。そうだ、こんな目で自分を見るのはアシュリー以外いない。なぜだか理屈でも何でもなく、この子はアシュリーだとすとんと腑に落ちた。
「アシュリー」
無意識のうちに伸ばした手でアシュリーの頭を撫でると、子どもはうれしそうに笑った。そのとき、アシュリーの腹がぐうと鳴った。アシュリーがぱちぱちっとまばたきをする。そういえば食事がまだだったことに気がつく。
「ごめん、お腹が空いただろう。飯にしよう」
飯という言葉に、アシュリーの耳がぴくりと反応した。ふさふさとした白金色のしっぽが、毛布の隙間から左右に揺れる。セスは何度も洗濯して肌触りのよくなった下着を取り出すと、裸の子どもに着せた。当然のことながら、何度か袖をまくっても大きい。アシュリーははじめて着た服が珍しいのか、それとも服からセスの匂いがするのが興味深いのか、かわいらしい鼻をくんくんと動かしながら大きく開いた襟元から中を覗いたり、何度も裾をぱたぱたとめくったりしている。その間にも、アシュリーのしっぽは感情を表すかのように左右に揺れていた。自分のしっぽが動くのが面白いのか、アシュリーはベッドの上で勢いよく飛びつくと、捕らえるのに失敗して、こてんと転がった。きゃあきゃあと楽しそうな子どもの声を聞きながら、セスは狭いキッチンで頭を悩ませていた。
「……このくらいの子どもに何を食べさせたらいいんだ?」
そもそも人間の食べ物を与えてもよいのだろうか? ……わからない。
セスは戸惑いを覚えながらミルクをあたためると、スプーン一杯ほどの蜂蜜を垂らした。
「ほら、ここに座って」
子どもの身体を背後から抱き抱えるようにして椅子に座らせる。あしたになったら子ども用の椅子を買ってこようと頭にメモしながら、セスはとりあえずクッションなどで椅子の高さを調整した。
慣れない椅子に座ったアシュリーは興味深げにきょろきょろと周囲を窺っていたが、セスが目の前にミルクの入った皿を置くと、とたんにきらきらと瞳を輝かせた。
「あっ」
セスが止める間もなく、勢いよく皿に顔を突っ込む。おかげでアシュリーの柔らかな毛や顔は、ミルクまみれだ。
「んーっ!」
蜂蜜入りのミルクがよほど口に合ったのか、アシュリーは瞳を輝かせ、一心不乱にミルクを舐めている。慌ててタオルを取りにいったセスは、戻ってそこに広がる惨状に唖然とした。水が入っていたコップは倒れ、床に滴り落ちている。アシュリーが濡れた手で触ったせいで、そこら中が甘いミルクだらけだった。
「?」
全身ミルクまみれになりながら、不思議そうにこちらを見るアシュリーに、セスは「何でもないよ」とタオルで顔を拭いてやった。アシュリーは気持ちよさそうにセスに拭かれると、すぐに食事を再開した。どうせこの場にいるのは自分だけだ。子どもの行儀の悪さを咎める者はいない。ミルクまみれの身体は後で風呂に入れてやればいい。テーブルの汚れも片付ければいいだけのことだ。
むっちりとした短い手をセスのほうに伸ばし、拙い言葉で一生懸命話しかけるが、うまく言葉が見つからないようで、不思議そうに首をかしげる。
「……ほんとうにアシュなのか?」
「うん!」
おそるおそる訊ねたセスに、子どもはうれしそうにうなずいた。どうやらこの見知らぬ子どもは本当にアシュリーらしい。
「せすぅ?」
呆然とするセスを心配するように、子どもはむちむちっとした手を伸ばし、セスの頬にぺたぺたと触れる。自分をまっすぐに見つめる蜂蜜色の瞳。そうだ、こんな目で自分を見るのはアシュリー以外いない。なぜだか理屈でも何でもなく、この子はアシュリーだとすとんと腑に落ちた。
「アシュリー」
無意識のうちに伸ばした手でアシュリーの頭を撫でると、子どもはうれしそうに笑った。そのとき、アシュリーの腹がぐうと鳴った。アシュリーがぱちぱちっとまばたきをする。そういえば食事がまだだったことに気がつく。
「ごめん、お腹が空いただろう。飯にしよう」
飯という言葉に、アシュリーの耳がぴくりと反応した。ふさふさとした白金色のしっぽが、毛布の隙間から左右に揺れる。セスは何度も洗濯して肌触りのよくなった下着を取り出すと、裸の子どもに着せた。当然のことながら、何度か袖をまくっても大きい。アシュリーははじめて着た服が珍しいのか、それとも服からセスの匂いがするのが興味深いのか、かわいらしい鼻をくんくんと動かしながら大きく開いた襟元から中を覗いたり、何度も裾をぱたぱたとめくったりしている。その間にも、アシュリーのしっぽは感情を表すかのように左右に揺れていた。自分のしっぽが動くのが面白いのか、アシュリーはベッドの上で勢いよく飛びつくと、捕らえるのに失敗して、こてんと転がった。きゃあきゃあと楽しそうな子どもの声を聞きながら、セスは狭いキッチンで頭を悩ませていた。
「……このくらいの子どもに何を食べさせたらいいんだ?」
そもそも人間の食べ物を与えてもよいのだろうか? ……わからない。
セスは戸惑いを覚えながらミルクをあたためると、スプーン一杯ほどの蜂蜜を垂らした。
「ほら、ここに座って」
子どもの身体を背後から抱き抱えるようにして椅子に座らせる。あしたになったら子ども用の椅子を買ってこようと頭にメモしながら、セスはとりあえずクッションなどで椅子の高さを調整した。
慣れない椅子に座ったアシュリーは興味深げにきょろきょろと周囲を窺っていたが、セスが目の前にミルクの入った皿を置くと、とたんにきらきらと瞳を輝かせた。
「あっ」
セスが止める間もなく、勢いよく皿に顔を突っ込む。おかげでアシュリーの柔らかな毛や顔は、ミルクまみれだ。
「んーっ!」
蜂蜜入りのミルクがよほど口に合ったのか、アシュリーは瞳を輝かせ、一心不乱にミルクを舐めている。慌ててタオルを取りにいったセスは、戻ってそこに広がる惨状に唖然とした。水が入っていたコップは倒れ、床に滴り落ちている。アシュリーが濡れた手で触ったせいで、そこら中が甘いミルクだらけだった。
「?」
全身ミルクまみれになりながら、不思議そうにこちらを見るアシュリーに、セスは「何でもないよ」とタオルで顔を拭いてやった。アシュリーは気持ちよさそうにセスに拭かれると、すぐに食事を再開した。どうせこの場にいるのは自分だけだ。子どもの行儀の悪さを咎める者はいない。ミルクまみれの身体は後で風呂に入れてやればいい。テーブルの汚れも片付ければいいだけのことだ。
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