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第22話
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「あの、ひょっとしたらアシュリーさんと何かありましたか……? 気のせいかもしれないけど、最近セスさんが何だか元気がないような気がして……。よけいなお世話だったらすみません……」
躊躇うような青年の言葉に、セスははっとなった。思わずじっと見つめるセスに、手伝いの青年は慌てたように頬を染めうつむいた。セスのほうは青年の勘のよさに不意をつかれた思いがした。
正直、この青年を見くびっていた。誰にも気づかれていないと思っていたのに……。
内心苦い思いを抱えながら、セスは手伝いの青年を眺める。
「大丈夫です。何も問題はありません」
物言いたげな青年の視線を避けるように「アトリエにいます」と告げると、セスはその場を後にした。アトリエで一人になり、ようやくほっと息をついた。そのくせ心の一部を置き忘れたような、おさまりのないざわつきを感じていた。
――セス、愛してる。
ふいにアシュリーの声が蘇り、セスは衝撃からじっと堪える。アシュリーが自分に嘘をついているとは思っていない。だが、彼の告白をそのまま鵜呑みにするほど、セスは愚かではなかった。アシュリーはわかっていないだけだ。問題はアシュリーの言葉に動揺している自分だ。
実のところ、セスはここ数日あまり眠れていなかった。その理由ははっきりとわかっている。アシュリーだ。アシュリーにキスされてから、彼の隣でセスが意識して眠れなくなってしまったからだ。
夜中セスが目を覚ますと、触れるほどの距離にアシュリーがいる。アシュリーの寝顔はひどく穏やかで、彼がセスの隣で心から安心しきっているのがわかる。
そっと息を詰め、じっとアシュリーの寝顔を眺める。とくとくと胸の奥があたたかくなって、ずっとこのままこうしていたいような、満たされた思いになる。同時に自分以外の誰にもこの姿を見せたくないような、独占欲にも近い感情がわき上がり、とたんに我に返る。自分はいま何を考えた? そうなるともうだめだ、これ以上アシュリーの隣でじっと横になっていることはできない。
セスはアシュリーを起こさないようベッドから抜け出すと、一晩中椅子の上で膝を抱え、夜が明けるのをじっと待つ。アシュリーのそばにいるのは幸せで、同時に苦しかった。そんな夜をもう何日も過ごしている。
セスが心の内で葛藤を抱えていることなどつゆ知らず、アシュリーは告白などなかったかのように、以前とまったく同じようすで触れてくる。
いったいいつから自分はアシュリーに対してこんな思いを抱くようになってしまったのだろう。セスは自分の感情が恐ろしかった。決してアシュリーを避けたいわけではないのに、これまで普通にできていたことがまったくできない。そんな自分に誰よりも困惑しているのはセス自身だった。
アシュリーを心配させないよう食事は取っているが、自然と食べる量が減った。何よりもセスの身体は心よりも正直だ。体重は落ち、もともと細かったのがさらに細くなった。ときおり物思いにふけるように憂いを帯びた眼差しは、母親譲りの美貌に磨きをかけていることに、セスだけが気づいていない。
午後になると、セスは手伝いの青年に店を任せ、こっそり抜け出した。普段配達は手伝いの青年かアシュリーが行っているが、行き先がトーマスの屋敷だったため、自ら出向くことにしたのだ。秘密にしたのは、知ればアシュリーが反対するとわかっていたからだ。本当はトーマスに近づくなと警告したいが、言えばその理由を知りたがるのは明らかで、セスは明確な答えを持ち得なかった。
「――すぐそこの角で若い女性が襲われたそうだ」
「犯人はまだ捕まってないんだろ? まったく物騒な世の中になったもんだ」
躊躇うような青年の言葉に、セスははっとなった。思わずじっと見つめるセスに、手伝いの青年は慌てたように頬を染めうつむいた。セスのほうは青年の勘のよさに不意をつかれた思いがした。
正直、この青年を見くびっていた。誰にも気づかれていないと思っていたのに……。
内心苦い思いを抱えながら、セスは手伝いの青年を眺める。
「大丈夫です。何も問題はありません」
物言いたげな青年の視線を避けるように「アトリエにいます」と告げると、セスはその場を後にした。アトリエで一人になり、ようやくほっと息をついた。そのくせ心の一部を置き忘れたような、おさまりのないざわつきを感じていた。
――セス、愛してる。
ふいにアシュリーの声が蘇り、セスは衝撃からじっと堪える。アシュリーが自分に嘘をついているとは思っていない。だが、彼の告白をそのまま鵜呑みにするほど、セスは愚かではなかった。アシュリーはわかっていないだけだ。問題はアシュリーの言葉に動揺している自分だ。
実のところ、セスはここ数日あまり眠れていなかった。その理由ははっきりとわかっている。アシュリーだ。アシュリーにキスされてから、彼の隣でセスが意識して眠れなくなってしまったからだ。
夜中セスが目を覚ますと、触れるほどの距離にアシュリーがいる。アシュリーの寝顔はひどく穏やかで、彼がセスの隣で心から安心しきっているのがわかる。
そっと息を詰め、じっとアシュリーの寝顔を眺める。とくとくと胸の奥があたたかくなって、ずっとこのままこうしていたいような、満たされた思いになる。同時に自分以外の誰にもこの姿を見せたくないような、独占欲にも近い感情がわき上がり、とたんに我に返る。自分はいま何を考えた? そうなるともうだめだ、これ以上アシュリーの隣でじっと横になっていることはできない。
セスはアシュリーを起こさないようベッドから抜け出すと、一晩中椅子の上で膝を抱え、夜が明けるのをじっと待つ。アシュリーのそばにいるのは幸せで、同時に苦しかった。そんな夜をもう何日も過ごしている。
セスが心の内で葛藤を抱えていることなどつゆ知らず、アシュリーは告白などなかったかのように、以前とまったく同じようすで触れてくる。
いったいいつから自分はアシュリーに対してこんな思いを抱くようになってしまったのだろう。セスは自分の感情が恐ろしかった。決してアシュリーを避けたいわけではないのに、これまで普通にできていたことがまったくできない。そんな自分に誰よりも困惑しているのはセス自身だった。
アシュリーを心配させないよう食事は取っているが、自然と食べる量が減った。何よりもセスの身体は心よりも正直だ。体重は落ち、もともと細かったのがさらに細くなった。ときおり物思いにふけるように憂いを帯びた眼差しは、母親譲りの美貌に磨きをかけていることに、セスだけが気づいていない。
午後になると、セスは手伝いの青年に店を任せ、こっそり抜け出した。普段配達は手伝いの青年かアシュリーが行っているが、行き先がトーマスの屋敷だったため、自ら出向くことにしたのだ。秘密にしたのは、知ればアシュリーが反対するとわかっていたからだ。本当はトーマスに近づくなと警告したいが、言えばその理由を知りたがるのは明らかで、セスは明確な答えを持ち得なかった。
「――すぐそこの角で若い女性が襲われたそうだ」
「犯人はまだ捕まってないんだろ? まったく物騒な世の中になったもんだ」
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