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 すると笠井は珍しく躊躇うそぶりを見せた。
「……お前いま瀬戸と一緒か?」
「ええ、そうですが……」
 頷き、ちらりと視線を瀬戸に向ける。正体不明の嫌な予感が胸に広がる。
「あいつのな、悪い噂をAOCの上役が聞いたそうだ。デザインを盗用するようなやつをデザイナーにして、どういうつもりだとな」
 ざあっと頭から血の気が引いた。怒りのあまり、スマートフォンを持つ手が震える。
「何ですかそれ……。あんなの、ただの誹謗中傷でしょう。笠井さん、まさかそんなくだらない噂信じてるんですか?」
「信じてないよ。あほか、信じてたら最初から瀬戸をいまの会社に引っ張ってくるわけがないだろうが。そうじゃなくてさ、今の問題はAOCの上役がそのくだらない噂を信じているってことだろうが。腹が立つのはわかるが、少しは頭を冷やせ、バカが」
 耳元でチッと舌打ちが聞こえた。冷静なようで、笠井も相当腹を立てているらしい。
 犬飼は唇を噛んだ。わかっている、笠井がそんな人間じゃないことは。だけど、悔しかった。やり場のない怒りがこみ上げる。
「それでどうするんですか、まさか先方のたわごとをそのまま聞く気じゃないですよね」
「当たり前だろ。とりあえず担当の小島さんはな、こちらに同情的で申し訳ながっていた。ただ、上役の意見も無視できないようでな、この件はいったん白紙に戻して、他社との競合になるそうだ。これから詳しい話をするためにこちらにくるそうで、できればお前たちにも立ち会ってほしい」
「……わかりました」
 苦くこみ上げるものを押し殺すと、犬飼は通話を切った。
「くそっ」
 ぎゅっとこぶしを握る。気がつけば、瀬戸が犬飼を見ていた。
「俺の話ですか。デザイナーを代えろとでも言ってきましたか」
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