白木と武藤

一条 しいな

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 不思議な世界だった。ここから見た世界は。すべてがあべこべだと武藤は考えていたが、異界に来てみると、そこは武藤の世界と変わりがないようだった。
 建物は広かった。探検でもできそうだが。調度品は円卓やら座布団がある。畳の部屋が広がっている。そこにはテレビ、パソコン、スマホがなく、あるのは織物機とか火鉢が置いてある。昔、誰かが使っていたものだろうか。武藤は埃がかぶった織物機を触る。
 埃が手についた。それを見ていた。白木の愛玩になった。それは確かだ。今までの自分と違うものになっているだろう。それは武藤自身、わかっていた。
 白木はどこにいるんだろうか。そんなことを武藤は考えていた。
「白木」
 白木がいた。扉、大きなもので、木でできている。引き戸になっている。それを開いて、扉の端に体をあずけるように白木は武藤を見ていた。
「どうした。祐樹がいなくて恋しいか?」
「恋しい? よく言えるな。そんなことを。おまえは狙っていたんだろう?」
「なにが?」
「俺を」
「それは、言わない。なぜって、秘密にした方が楽しい」
 白木はニヤリと笑った。それはいつもと変わらない。白木は武藤に近づいていく。足取りはゆっくりだった。それは迷いもなかった。武藤は怯えている自分に気がついた。
 前には感じたことがないことだった。白木の気持ち次第で、自分の命が握られていることに恐怖した。
「俺を殺す気か?」
 食らうのだろう。そんなことが予想できる。白木は意外そうな顔で武藤を見つめていた。白木の目は獣のような目をしていた。まるで、こちらを食いかかるように見える。
「そんなことはしない」
「俺は、ただの人間だ」
「それは、そうだ。だが、俺には宝物に見えた」
「は?」
 白木の言葉は哀願に近いものがあった。武藤は戸惑いを隠せなかった。白木の目が熱を帯びていく。
「俺にはおまえがかわいいと思う。かわいくてたまらない。なぜなら、おまえは俺のものだからだ」
「そうだな。だが、やり方が卑怯だ」
「じゃあ、素直におまえは俺のものになったか?」
 白木の問いはひどく乾いたもののように武藤には聞こえていた。告白という文化が白木にはないだろうか。白木は相手の気持ちを知って、また自分の気持ちを知らせることをしなかった。
「おまえは人間ではない」
 武藤の言葉に白木の手が伸びていく。白木の冷たい手が、武藤の頬に触る。冷えている、異物であると武藤は感じていた。そんな武藤に白木の顔が近づく。
「俺は人間じゃない。お守りでもない。秘密だったが言う。ずっとおまえがほしくてここにいたんだ。知らなかっただろう?」
 知らなかった、とは言えなかった。うすうす気がついていた武藤がいたのだ。武藤は知らないフリをしたことのツケがここに来たのだと思う。
「俺は、おまえを好きではない」
「嫌いでもない」
 そうだと言われたら、そうだと武藤は気がついた。
 白木は武藤の気持ちを変えていくのだろう。宮古がそうだったように。武藤は目を閉じた。
 冷たい空気が武藤の体に触る。ふわりと唇に柔らかいものが触る。目をギラギラと輝かせているくせに、白木は武藤をキスする。
「おまえがここにいていい。なぜなら、俺の愛玩だから。俺の気がすむまでここにいる。そうして、おまえと一緒に暮らそう」
「ずっとここに?」
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