白木と武藤

一条 しいな

文字の大きさ
2 / 24

1の2

しおりを挟む

 不思議な世界だった。ここから見た世界は。すべてがあべこべだと武藤は考えていたが、異界に来てみると、そこは武藤の世界と変わりがないようだった。
 建物は広かった。探検でもできそうだが。調度品は円卓やら座布団がある。畳の部屋が広がっている。そこにはテレビ、パソコン、スマホがなく、あるのは織物機とか火鉢が置いてある。昔、誰かが使っていたものだろうか。武藤は埃がかぶった織物機を触る。
 埃が手についた。それを見ていた。白木の愛玩になった。それは確かだ。今までの自分と違うものになっているだろう。それは武藤自身、わかっていた。
 白木はどこにいるんだろうか。そんなことを武藤は考えていた。
「白木」
 白木がいた。扉、大きなもので、木でできている。引き戸になっている。それを開いて、扉の端に体をあずけるように白木は武藤を見ていた。
「どうした。祐樹がいなくて恋しいか?」
「恋しい? よく言えるな。そんなことを。おまえは狙っていたんだろう?」
「なにが?」
「俺を」
「それは、言わない。なぜって、秘密にした方が楽しい」
 白木はニヤリと笑った。それはいつもと変わらない。白木は武藤に近づいていく。足取りはゆっくりだった。それは迷いもなかった。武藤は怯えている自分に気がついた。
 前には感じたことがないことだった。白木の気持ち次第で、自分の命が握られていることに恐怖した。
「俺を殺す気か?」
 食らうのだろう。そんなことが予想できる。白木は意外そうな顔で武藤を見つめていた。白木の目は獣のような目をしていた。まるで、こちらを食いかかるように見える。
「そんなことはしない」
「俺は、ただの人間だ」
「それは、そうだ。だが、俺には宝物に見えた」
「は?」
 白木の言葉は哀願に近いものがあった。武藤は戸惑いを隠せなかった。白木の目が熱を帯びていく。
「俺にはおまえがかわいいと思う。かわいくてたまらない。なぜなら、おまえは俺のものだからだ」
「そうだな。だが、やり方が卑怯だ」
「じゃあ、素直におまえは俺のものになったか?」
 白木の問いはひどく乾いたもののように武藤には聞こえていた。告白という文化が白木にはないだろうか。白木は相手の気持ちを知って、また自分の気持ちを知らせることをしなかった。
「おまえは人間ではない」
 武藤の言葉に白木の手が伸びていく。白木の冷たい手が、武藤の頬に触る。冷えている、異物であると武藤は感じていた。そんな武藤に白木の顔が近づく。
「俺は人間じゃない。お守りでもない。秘密だったが言う。ずっとおまえがほしくてここにいたんだ。知らなかっただろう?」
 知らなかった、とは言えなかった。うすうす気がついていた武藤がいたのだ。武藤は知らないフリをしたことのツケがここに来たのだと思う。
「俺は、おまえを好きではない」
「嫌いでもない」
 そうだと言われたら、そうだと武藤は気がついた。
 白木は武藤の気持ちを変えていくのだろう。宮古がそうだったように。武藤は目を閉じた。
 冷たい空気が武藤の体に触る。ふわりと唇に柔らかいものが触る。目をギラギラと輝かせているくせに、白木は武藤をキスする。
「おまえがここにいていい。なぜなら、俺の愛玩だから。俺の気がすむまでここにいる。そうして、おまえと一緒に暮らそう」
「ずっとここに?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...