白木と武藤

一条 しいな

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火鉢を白木は武藤に近寄せて、白木が武藤の体を覆うように抱きしめる。こんなに体格差があっただろうかと考えていた武藤の唇に白木の冷たい唇が重なる。ゆっくりと唇をはむような動き、甘がみで官能を引き出す動きである。それに負けてたまるかと武藤はなにも感じないように、意識しないように別のことを考えていた。
 祐樹は生きているだろうか。それとも殺されたのか。今更、そんなことを考える。前歯にツンツンと舌がノックする。武藤は意味がわからず、白木を見つめていた。白木はなにを思ったのか、武藤の股間を触った。びっくりした武藤は声を上げそうになった。
 その隙をついて、口内に舌が入ってきた。温かな異物、しかも意識がある。それをかみちぎってやると考えていた武藤を鼻で笑うように、歯茎を刺激する。
 ゾクゾクと背すじになにかが走る。悪寒とも違う、腰のものを刺激するような感覚。ディープキスくらいで勃起しているのか、と武藤は冷静になろうとした。しかし、頭が混乱するというを忘れていた。
 なぜ男で勃起する。それに、キスだけで感じるのか。今まで人を避けて、性欲も淡泊だと思っていた自分がこんな浅はかな感情にもてあそばれるなんて、やはり白木に心を操作されたからか。そんなことを武藤は考えていた。
「大丈夫か?」
 気を遣われる。口から透明な唾液が二人の間から落ちた。それを見たとき、武藤の目は見開いていた。白木の顔が祐樹と重なったような気がしたからだ。幻だとわかっていても、武藤はそれだけで腰の奥のものがこわばる。それがわかった。
「大丈夫」
「人間のやり方を真似た?」
「ああ、俺達に交尾はない」
 そうかと武藤はつぶやいた。とっさに武藤は白木から目をそらしていた。
「つづきをしような」
 あっさりと服を脱がす白木がいた。寒いと言ったがなにかの魔法なのか、部屋の温度が上昇していた。武藤が興奮したせいか、それとも白木の体が熱いからか、武藤にはわからない。
 裸の武藤のへその下を触る。
「そこは女じゃないと」
 武藤が言うと男女のまぐわいを見てきたのだろう。白木はバケモノだ。その気になれば隣の夜の営みを見るだろう。
「あっ、そう。今度、作ろうかな」
「なにを?」
「子宮」
「自分の体に?」
「いや、おまえの体に」
 武藤は寒気がした。心を変えて、体まで変えるつもりだ。
「人間の男には子供を作る体ではない。それは、女性しかできまい」
「そうか。武藤が女になればいいのか」
「おい」
「冗談。まあ、それよりこっちだな」
 武藤の自身がゆるくだが、少しだけ勃ち上がっている。それを発見して白木は「本当にそうなるんだな」と感心したような口ぶりで、白木の言葉に武藤は恥ずかしくなった。
 まるで、キスをしたからゆるく勃ち上がっていたと言われたようなもの。それに観察するような目が場を白けさせることを白木は知らない。
「もういいだろう」
「まだ、だめ。発散したいだろう」
 手コキというものはしたことがある。武藤だって男である。それくらいの経験はした。武骨な男の手で女の手の柔らかさまでは再現されていない。しかし、他人の体温がある。白木の体温は異物と感じて、緊張して出ないかも。
「リラックスは、していないか」
 まるで実験台にされた被験者だと武藤は思った。そんな武藤に白木はゆっくりと腰の辺り、側面をなでていく。それは女に効果があってと言いたくなる。白木は武藤を女と言いたいのだろうか。まるで、なにかをほぐすような動きであると武藤は気がついた。
 なにも感じないはずが、気持ちがよい。そうマッサージを受けているような心地がする。腰のあたりをマッサージしていると気がついた。白木の手が冷えていると思っていた。しかし、違うのだ。武藤の体温が熱いからだと知る。
 お互いの肌と肌をすり合わせるとき、体温を知る。それは異物である。しかし、なじんでいくと不思議なもので武藤には心地よいものに感じられた。
「白木」
 緊張しているはずが、ゆっくりとほぐされる。そういえば座りつづける商売である。腰がこって当たり前である。気持ちがいいと思う。感じているのか、と脳が反応する。そんなことはないと武藤は考えていた。
「白木、もう」
 いいからと武藤は言う。白木はニヤニヤしながら、武藤の腰をさすりつづけている。柔らかくなる体で、ゆっくりと解されていく。緊張とか、誰かの体につなぐことに怖がっている自分がいると武藤は気がついた。人と関わりを避けていた。
 それは恐ろしいから。なにからと武藤はそこまで考えていた。
 自身がゆっくりと刺激される。手が熱いと気がついた。どんな形でどんなものでなんて考えられなかった。吐き出したいと考えていた。吐き出して、それで、自己嫌悪をするんだろう。それは女性の体で味わうものである。そう武藤は教わった。
 しかし、期待を裏切るように、生暖かい、柔らかいものが自身に覆う。びっくりした武藤は白木を見る。白木が自身を口に含んでいるのだ。
 あまりのことで体が固まっている武藤は頭が真っ白になった。脳が勘違いをする。
「汚いから、口から出せ」
 上目遣いで白木が武藤を見る。白木はしばらく動かさないまま、じっとしている。
「あっ」
 ゆっくりと喉の奥に自身が迎えられる。頭がショートしたように出したいと思った武藤は白木の喉を使いたくなる。それを必死に抑えていると、武藤は目をつぶる。柔らかな口が、喉が、あれに似ていると考えていた。そうして、感じてしまった武藤の体は勝手に動く。白木の管理下であるとわかった。
 白木の喉を使い、武藤は達した。
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