落ちこぼれ魔術師のシンデレラストーリー

アイリス

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エルウィンの覚悟

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「そんなっ、何かの間違いだわ!」

マリーのありえない主張に、エルウィンは思わずそう言った。
ずっと一緒にいたからこそ分かる、グレンはそんなことをする人ではない。

「ひどい!じゃあ私が嘘をついてるって言うの?!こんな風にドレスを破られて、押さえつけられたから手首だって真っ赤になっているわ!」

「それは…」

確かにマリーの格好はひどい有様だった。
高級そうなドレスは胸元がビリビリになっているし、髪もほつれている。
手首には確かになにかの跡がついていた。

「早くあいつを捕まえて!これじゃお嫁にも行けないわ!ちょっとやそっとの賠償金じゃ許さないんだからっ!」

「賠償金…?」

エルウィンはマリーの言葉に引っかかりを覚える。
こんな時、真っ先にお金の話をするなんて、少しおかしいのではないか。

だが泣き叫ぶマリーの鬼気迫った様子に、衛兵達は完全に信じきっている。
グレンは隣国の王族だからとその権威を笠に着てこの国の女性を襲ったのだ、と義憤に駆られている者もいた。

「王子、申し訳ありませんが、詰所でお話を伺えますか」

屈強な衛兵の一人がグレンに迫る。

「待って…!」

金切り声で泣き叫ぶマリーを近くにいた人に押し付け、エルウィンはグレンに駆け寄った。
そして衛兵の前に立ちふさがり、大きく腕を広げる。

「待って!絶対にグレンはそんなことしてない!今から…今から私が記憶抽出の魔法を掛けるから、それで判断してちょうだい!」

このまま連れて行かれたら、ここにいる人たちからすぐに悪い噂が広がる。
もしあとで無実だと証明されても、それを隅々まで訂正するのは難しい。
だからなんとしてでも、この場で無実を証明せねばならなかった。

「しかし…」

衛兵が渋る。
それもそうだ。記憶抽出は非常に大きな魔力を必要とする。
生きている人間から必要な部分の記憶を抜き取って公開するには、通常の魔術師ならば1年は魔力が枯渇したままになってしまうだろう。

それをやると言うのだから、エルウィンの覚悟は相当なものだった。
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