例え変なオバサンと呼ばれようとも

もずく

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「おばさーん、なんだよ、そのデッカイ箱。ダンジョンでそんなの背負って頭おかしーの?つか、その中何入ってんの?」

一昨日見つけた誰も来ない小道に入る前に、めんどくさい輩に見つかってしまった。仕方ない。

私は視線を反らし体を揺らしながら自分から若い3人組にゆらゆら近づいて行く。男2人に女が1人だ。

「ねぇ?ポーション持ってない?ポーション探してるんだけど落ちてないんだぁ。この前ね、うちの子死んじゃって………ダンジョンのポーション飲ましたら生き返るんだよね?ポーション落ちてないんだぁ。ねぇ?ポーション持ってる?ほら、家に置いとくと寂しいでしょ?だから連れてきてるの。は、箱。箱に入れてね。ポ、ポーション。ポーション持ってる?」

体はゆらゆら。声は一定のトーンで。視線は合わせず。

「バ、ババア。近寄んなよっ。」

男は右手に抜き身の剣を持っている。他二人は槍を持っている。剣や槍が届かない距離は開けている。凶器持ってる人間の攻撃範囲内に入る訳がない。

「ね、ねぇ、このオバサン。最近出るっていう箱オバサンじゃない?なんかブツブツ言いながら歩いててスライムしか相手しないっていう。」

「なんだ、それ?」

「もう、いいから、行こっ?変なオバサンは放っといてさぁ。」

「あ、ああ。」

若者達はやべぇオバサンやべぇオバサン、ギャハハハハッと笑いながら遠ざかって行った。何が楽しいのかわからない。

人の事、ババアとかオバサンとか言い過ぎじゃないだろうか。どんな教育を受けているのか。私の長男が私の事をババアとか呼んだら即効拳骨である。まぁ、あの子はいい子だからババアとか使ったことすらないけど。

それより、頭おかしい人作戦で切り抜けられて良かった。

私は早足で誰も来ない小道まで行って、昨日見つけた小さな小さな小部屋のセーフゾーンに入った。ダンジョンにはこうした魔物がわかないセーフゾーンと呼ばれる部屋が各階にある。見分け方は簡単。ドアがついているかついていないかだけだ。

ゆっくりと腰を降ろして背中に背負ってる箱が傾かないように床に降ろし、箱と私を固定している留め具を外す。

かなり重い箱から解放されて一息つきたくなるが早く箱の中身を確かめなくてはいけない。
私は首から下げている南京錠の鍵を取り出し箱の上部についている南京錠の鍵を外す。

中を覗く。

………今日は駄目だったみたいだ。

ゆっくりと装着具を外して中身を抱きしめる。

「今日は駄目な日ですかぁ?こんなに顔真っ赤にして。そんなに泣いてると引きつけ起こしちゃうよ?ほら、ママ見て?ママいたでしょ?ママ、ここにいるよ?ごめんねぇ。こんな箱嫌だよね。あぁ、そんなに泣かないの。よしよし、ほら、ギューっ。ママいるでしょ?…………駄目かぁ。じゃあ、仕方ないなぁ。ほら、お顔拭いて。ちょーっとここに横になってね。ほらほら、大丈夫。大丈夫だよー。ちょーっとだからねぇ………」

私は万が一でも誰か他の人がこのセーフゾーンに入って来ないように箱を小さなドアの前に固定して足で箱を押さえつけてセーフゾーンの小さなドアが開かないようにした。

そして、上着を捲り上げて床に置いていた我が子を抱き上げて横抱きにした。

「ほら、パイパイ、ねっ。パイパイ好きでしょ?あぁ、いい子だねぇ。ごめんねぇ、大丈夫だからねぇ。」

ダンジョンの中で丸出しにしたパイにかぶりつくように吸い付き始めた我が子の頭を撫でながら涙が滲みそうになる。訳のわからない箱に押し込められて可哀想すぎる。そりゃ、ギャン泣きもするよね。

ダンジョンが出現してもうすぐ10年。世界中にあるダンジョンの中で授乳している人はどれだけいるだろうか?

世界は広いし、外国は日本より緩いダンジョン法の所もある。だから世界には結構いるのかもしれない。だけど、日本で今ダンジョンに潜っている人で今現在授乳真っ只中なのは私以外いないんじゃなかろうか。そもそも、赤ちゃんを連れて入っている人がいないんじゃないかな。

これは普通に法律違反である。14歳以下の未成年は保護者付きでもダンジョンに入ってはならないっていう法律を破っている。


授乳を始めて20分もすれば腕の中で口を開けて寝る我が子がいた。今、箱に入れたら寝てくれるだろうか?さっきまで顔を真っ赤にして泣いていたことを思い出したら後30分ぐらいは抱っこして寝かしてあげたい気もするが、時間は限られている。私はスキルを重ね掛けして、やっぱり起きて泣いてしまった我が子を箱の中の装着具に固定してしっかりと鍵を閉めた。










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