中島と暮らした10日間

だんご

文字の大きさ
上 下
25 / 53

25 中島6日目。一仕事、二仕事

しおりを挟む
 朝1で郵貯に振り込む自分。
 多分、哀愁が漂っているに違いない。
 振込詐欺が流行っている昨今。
 これも詐欺に入る気がする。
 妹による『助けて詐欺』。
 絶対、遊ぶ金欲しさの犯行だ。

 いや、実際に帰れないのかもしれない。
 行く金しかなかった場合もある。
 ……どうするつもりだったのだろうか。
 結局犯行に及んでいた事だろう。

 さて、振り込んだし電話しとくか。

 『おかけになった電話は、電波の届かない所におられるか、電源が入っていない為、かかりません』

 「…………またか」

 妹がまた消えた。
 充電しっかりしとけよ……
 まっ明日か明後日には帰るだろうけどな。
 一応、メールも入れて……振り込んだぞっと。
 また夜でも電話しとくか。


 「ただいま、中島。いるな」

 「ガサッ………ガサッ」

 「中島の部屋、葉っぱだらけになったなぁ……フンもだけど」

 薫に渡す前に、少し綺麗にしとくべきか?

 「しゃーないな。やっておくか……」

 さて、外で……待て待て。
 外で入れ替えして、無防備な中島が、獰猛な野鳥に襲われたら、どうする?
 良かれと思って、食われました?
 それに、どうやって中島をケースに戻す?
 出すのは大丈夫だ。
 多少、中島に転がって貰えばいい。
 ソ~っとコロコロ、ケースを傾ければいい。
 問題は戻す時。
 手では絶対無理。
 箸でも、あの感触が伝わるから無理。
 中島本人に入って貰うか、葉っぱに乗った所をケースに引き込むしかない。
 モタモタしてる間に野鳥にパッサーっと持って行かれたら……

 「無しの方向だな。屋内だ」

 玄関に新聞を広げて頑張った。

 「ぬぁっ?! 中島っ!! はしゃぐなっ?!」

 ケースから出された中島。
 広い世界を満喫するべく、即行動。
 いや、急な刺激にビックリして逃げ出したという線が濃厚だろうけど……

 「うわっ?! 中島、足には絶っ対くっつくなよっ?!」

 中島が案外素早い事を知った。
 予想速度の上を行っていた。
 勘弁して欲しい。

 その後もギャーギャー言いながら、何とか終了。
 新しい葉っぱも入って、落ち着く中島ケースとなった。

 「こんなもんが、自分の限界さ……」

 ゲッソリだ。
 中島はやっぱり青虫だ。
 何だかんだ苦手な生き物だと再認識した。
 まぁ綺麗なケースで引き渡せるから、文句はないだろう。

 「あぁ~……昼過ぎちゃったなぁ」

 出掛ける前に炊いたご飯があるし……
 納豆もあるけど、何かこぅ……油が食べたい。
 何か油が食べたいって、表現おかしいな。
 マヨネーズ的な何かが食べたい。
 
 よし。
 ご飯を耐熱皿によそり、上に油を切ったシーチキンを乗せる。
 まんべんなく平らに延ばし、塩と粗びき胡椒をふりかける。
 マヨネーズを編み目状にかけたら、レンジで焼くだけ。

 シーチキンマヨご飯の出来上がり。
 マヨネーズたっぷりなのが、実に罪深い。
 が、マヨネーズ好きな自分にとってはサイコーです。

 味を変えたい時は、醤油をちょこっと入れてもいい位の塩加減。
 簡単でいい。
 簡単なのがいい。
 1人で料理するのは、なかなか長続きしないもの。
 かといって毎日外食したら、確実に財布が空だ。

 昼だけ外で済ますとして。
 夜は家で作った方がいい。
 飲み代を捻出して行く為に必要だ。
 買ってきた食材を無駄にせず、しっかり回さねば。




 「うわぁ……昨日の自分、殴りたい」

 後片付けを終え、冷蔵庫チェックして唖然とした。
 昨日テンションが上がって、普段なら信じられない量の買い込みをしたからだ。
 何故牛肉まで買ってしまったのか……
 何故セロリがいる……
 何故インスタントがいない……
 普段、大根は1本丸ごとは買わないだろう……

 空腹のテンション、恐ろしい。
 この冷蔵庫内、どう見ても『数人家族がいます』って量だよ。
 普段の御一人様生活じゃ、もっとこぢんまりとしてたのに……
 実家の冷蔵庫サイズが空になると、妙に焦って『補充を急がなくては!』と思ってしまうのは、自分だけだろうか……?
 誰かと共有したいな、コレ。
 少数派だと思うけど。
 共有出来ないと、今の自分が悲し過ぎる。

 『飲みに出ちゃおうか……』

 脳内の黒いヤツが言ってくれるが……
 行った所で悪化するだけだな。
 今、見ちまったら忘れる前に行動した方がいい。

 鶏肉が悪くなるのも怖いから……
 多めに作って、冷凍だな。
 いや、食いきれるかも?
 
 よし。
 まず玉ねぎを輪切り。
 人参は5mmのサイコロ切り。
 なすびも輪切り。
 キャベツは1口大にザクザク。
 トマトもザクザク。
 鶏肉も1口大。

 さて、鍋に敷き詰めようか。
 玉ねぎ→人参→鶏肉→なすび→キャベツ→トマトの順。
 水分が少ないから、ホールトマト缶も追加。
 その上に固形のコンソメの素を数個置き、弱火で煮込む。
 野菜がとろとろになるまで、時たま混ぜながら、しばらく放置だ。
 途中に味調節で、昆布醤油を入れる。
 もしくは、出汁醤油。
 これでちょこっとマイルドになる気がする。
 これをご飯にかけ、バジルを振り食べると結構ススム。
 粉チーズとも勿論美味しい。
 とけるチーズを乗せて、オーブン焼きでも美味しい。
 パスタと絡めるのもいいなぁ……
 完成図にヨダレが止まらない。

 んっ?メールだ。
 
 『兄ちゃん、ありがとう!助かった!』

 マジに困ってたのか……
 ……電話は一瞬かかったかと思ったが、電波が届かない所に入ったらしい。
 山にでも入っているのか?
 薫の生態は謎が多すぎる。

 
 
 
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

水茶屋『せんり』の未亡人

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

義務婚と牢獄

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

一匹狼

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:10

からかう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

処理中です...