騙されて異世界へ

だんご

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41 ミッション〜胃袋を掴め③

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 胃袋を掴め作戦改め、無事に帰還おめでとう会&宜しくね会は、調度よく昼食の時間だった。
 リックとタバサは、勢いよく食べ始めてからは、会話は一切ない。
 時折『旨い!』の独り言しか聞こえて来ない。
 いや、旨いならいいんだが……
 要研究のスープすら、旨かったらしい。
 まぁ俺も普通に食えたからな。
 一応カトラリー使って食ってる所を見れば、理性は残ってるなぁとは思うが。
 遠征中は、よっぽど酷い食事事情だった事が想像出来る。

 「食い物は逃げねぇから、ゆっくり食えよ?」
 
 「母ちゃん……」

 「うっせぇぞ!リックには、もう作んねぇぞ?! 」

 「申し訳ございませんでした‼」

 「お、おぅ……勢いが怖ぇよ」

 そろそろ空になる皿も出始めた頃、ようやく会話が出来る様になってきた。

 「しっかし、ソブルの飯、凄いな!」
 
 「ああ。あたしも夢中になったよ。なんか特別な物、使ってんのかい?」

 「特別なもんはねぇな……ハーブだって、ほれ。庭にあったヤツだぞ?」
 
 「ソブルが残してた、あの草か?」

 「あの草な。食い方によっちゃ旨いんだよ」

 「へぇ~……」

 「雑草だと思ってたもんだって、手を加えりゃご馳走になるってこった。まぁ、食材をたんまり仕入れて、ふんだんに使ったってのもあるな」

 「だよな。色々な味がして旨かったし!」

 リック、あれだけかき込んで食ってたのに、しっかり味わってたのか。
 俺はそれに驚きだ。

 「ソブル……すまないね。大出費だったんじゃないかい?」

 「今回は気にすんなって。キナコの件もあるしな?それに、無事に帰って来てくれて嬉しいのもあるんだからな?」

 「か……」

 「2度は言わねぇぞ?リック?」

 慌てて口を抑えたリック。
 母ちゃん扱いする子にゃあ、飯抜きだよっ!
 ……モロ母ちゃんだな。 

 「ソブルは料理で稼いだ方が良かったんじゃないかい?」

 「難しいんじゃねぇか?……俺より上手いヤツは沢山いるんだ。まだまだ試してかないとな」

 「そうなのか?かなり旨いし、俺はいけると思ったんだが……」

 「3人分作るのだって、ゆっくり作ってんのに、店屋なんか開いてみろ?俺は死ねるぞ?」

 「そっ、そっか……客が押し寄せてきたらソブル、死にそうだもんな……」

 何故に可哀想なモノを見る目になってるのか?
 なんか、こう……スライム突撃直後の事をさ?
 思い出してなかったか?
 今よ?今。
 なんか胸の痛みを感じたんだけど?

 「うん、まあ、そう言うこった」

 「ソブルは料理、誰に教わったんだい?」

 「ばぁ様かな?後はネットとか、自力だな」

 「ばぁ様の腕が良かったって事だね?」  

 「俺の努力も褒めてくれよ……」

 「「ぶふっ」」

 おうおう。笑え笑え……
 つーか、笑いの沸点低いよな……ったく。
 腹の底から笑えるって事は、幸せだって事だからな。
 いい事だろうさ。
 ……俺も腹から笑ってるのは、キナコに会えたからな。
 幸せだな。

 なんだかんだしながら楽しんだが、リックもタバサもボンヤリして来たな……

 「そろそろ2人共、休んだらどうだ?」

 「……」

 「リック。飯がかかってる事、覚えてるよな?」

 「なっ、何も言ってねぇぞ?」

 「そうだね…あたしも帰らないとね」
 
 「タバサの部屋準備してんだろ?そこで休めばいいだろ?」

 「「あっ?! 」」

 「なんだ2人して……いつから住むとか決めてなかったのかよ……」

 2人共に真っ赤になったな。
 ビル程ではないが、疲れた時だと倒れるんじゃないか?
 血圧大丈夫か?
 若いと平気なのか?
 
 「いや、時期とか、決めて、なくてな……?」

 「その、あの、ちょっと……な?覚悟とかな?」

 「なんだ?一緒の部屋で暮らすつもりだったのか?」

 「「ちがっ?! 」」

 おっ!
 ビル並の瞬間沸騰だ!
 
 「遠征行ってる時と同じ様なもんだろ?近くで休んでんだから」

 「いや、気持ちの問題って言うか……」

 「状況の問題と言うか……」

 「危険な場所でもないだろ?俺はキナコがいるから無害だと言っておこう」

 俺はキナコがいるだけで、他に求める事はない。
 求めるとすれば、キナコの幸せ環境だけだ。
 俺の無償の愛は全て、キナコへと続く。

 「いや、そうじゃなくて……」

 「安全が危険と言うか、なんと言うか……」

 「なるほど。リックがウルフになるって事だな?」

 「「なっっ?! どう言う状態?!」」

 あっ……ヤベェ。
 こっちでの『狼』の使い方と違うのか。
 
 「えっ?ガバッって。ガブッて。素早い攻撃的な?」

 「まっ、まっ、まっ、まっ……」

 リックが『まっ』しか言わなくなったな。
 機械系統か?
 ショート寸前か?
 タバサはショートしてるな。
 
 「まだ早いっっっ‼」

 プラトニックラブに過ぎるぞ?!
 いつならいいのか?!
 今でしょ?!
 ……いや、まだ早い。
 全然、まだ早い。

 「だな。リックには、まだ早い。ちゃんと自分の事、自分で出来る様になってからだな」

 「か……ソブル……?」

 「それまで、部屋は別々だ。そこはケジメつけておいてくれよ?」

 「あぁ……頑張る……」

 「頑張れよ?タバサを守れるイイ男になってからだ」

 「あぁ……頑張る!」

 頑張れ。
 掃除、洗濯、家事、育児。
 リックの腕を上げたら、イイ事尽くめの明日が来る。

 「ってな訳で、リックとタバサはそれぞれの部屋だからな?」

 「あぁ……」

 リック……あんなに熱く語ったのに、残念そうな視線が、全部を台無しにしてるぞ?
 どこのアオハルだよ。 
 タバサはショート中か……

 「タバサ……タバサ?」

 「はっ?! あたし……?」

 「おう、タバサ。今日はでゆっくり休んでくれ。引き出しに寝衣入れてあっただろ?」

 「あぁ!あぁ、わかった」

 「声、裏返ってるぞ?リックにも言ったが、まだ早い。リックの準備が整うまで、まだ早い。だから、ゆっくり休んでくれよ?」

 「そ……そうか……。わかった」

 ホッとした様な、残念な様な複雑な顔だな。
 まだ早いからな?
 本当にな?
 出来れば、なんとかなる前に引っ越ししたいからな?
 オッサンの取り扱い、結構繊細だって事、忘れんなよ?

 「ほれ、休んでこい」

 「「わかった……」」

 「晩飯は用意しとくか?」

 「「食べる!」」

 「わかったよ。お休み」

 「「お休み!」」

 2人共に笑いながら部屋に向かったな。
 図体のデカい子供かよ……
 って、俺、マジで母ちゃんじゃねぇか?!

 『※その認識でOKです』

 ……晩飯の仕度でも始めるかね……
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