官能小説短編集

椿

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亡国の巫女

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巫女はただ一人、神の前で膝まついて祈りを捧げていた。




祈りの内容は巫女自身わからなかった。



陽という国が自分を岩でできた祠に閉じ込めた。神の怒りを沈めるための人柱として。


母は陽の皇帝から一時的な情けを頂戴した。


母が自分を身籠ると寵愛はなくなった。


それでも、二人だけで平和な日常を送っていた。


おぼろげに巫女は母の顔を思い出す。


祠にある記録によれば、私は4歳で巫女となったらしい。


母は同じ年に病死した。


きっと殺されたのだろうと巫女は考えた。


そんな母娘を、他の公主や妃ではなく、私たちから日常を奪った陽という国の戦祈願をするなんて皮肉だと巫女は考えた。



巫女である自分は必要以外話さなくなり、周りからは、巫女らしくなったと言われた。



昨年15になった時、父である皇帝がなくなり、腹違いの兄が皇帝の代替わりの挨拶に祠に訪れた。


久しぶりの肉親にまみえたのに、何も感じなかった。


そう、私はただ疲れたのだ。16で、世間では花も恥じらう年なのに、屍同然だ。


私の役目は燕の国が攻めてきたら、和平交渉の役目を全うし、民の安全と皇帝一家の命乞いを自分の命と引き換えにするだけだ。

もうすぐ終わるのだ。


そう考えにふけっていると、祠の玄関でガヤガヤする音が聞こえてきた。


侍女の声と太い男性の声が聞こえる。



巫女殿はこちらかな?太く、楽しんでいる声が静かに響いた。



巫女は声の主を振り返ってみた。



そこには自分をまっすぐ見る鷹の様な目があった。


祠の天井が低い様で彼は体をかがめていた。




ゆっくりと彼が巫女との距離を縮めてきた。



お前が巫女か?



こくり。





口が聞けないのか?


まあ いい。今日からお前は俺の妻だ。


一応お前抜きで祝言はあげた。お前の兄も承知している。




言っていることは理解できた。理屈では。ただ感情がついてかないだけだった。



とりあえず、ここから出ろ。ここは寒い。湯に漬かれ。病気になりたいのか。


硬直している自分を見て、その男はため息をついた。そして何を思ったのか男の広い背中に担ぎあげた。



外の空気を一気に浴びて私は失神した。


気がついた時私は湯船の中にいた。








髪は洗われ、体は花びらを浮かべた湯でほぐされていた。






































































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