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魔鏡 “アブラハムには十三体の子”
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四方が黒い魔煙で覆われている空間―――
見上げるほど大きい山が存在している。室内の大理石の床の上にはおよそそぐわない光景。ボヤンと薄白い光を発している砂の塊。
突如、円錐型の頂点がサラサラと下へと零れ落ち始めた。解除の気配に待機していた者がハッと顔を上げる。
砂はそのまま流れるように落ち続け、裾野の範囲をどんどんと広げていく。半分ほどの高さが失われると、平らな面となった頂きに、スーッと下から石棺のような物体が現れた。
こちらも、サラサラサラ・・・・・・とわずかにわかる程度だった凹凸が砂を削り落としていくことで、徐々に徐々にとその境界線を顕著にしていく。
棺ほどの厚みだったモノが、中に入っている骸そのものの大きさとなった。さらに頭部、胴体部、四肢と均整の取れた形へと変容していくことで、見守る側の胸をドキドキと高鳴らせる。
(いよいよ・・・)
それは待ち望んでいた時間。
無機質な石の塊に過ぎなかったモノが、まるで名工が精魂こめて手掛けた彫刻のように、息づくような肌の質感を帯び始める。
引き締まった身体の輪郭が完璧な筋肉の凹凸を浮かび上がらせた途端、表面がパァァ・・・と青白い輝きを放った。
覚醒した者がパチッとその美しい琥珀色の瞳を開く。美しくかたどられた唇がフゥゥ・・・と息を吐き出した。
片膝を上げてゆったりと半身を起こしたことで、腰まで長い銀髪が生気を取り戻した裸体へとキラキラとかかる。けだるげに美髪をかき上げた。そのあまりにも優雅な仕草。
(ステキ・・・)
傍らで魅入っていた存在がため息を零す。それらの視線から隠すように、指をパチンと鳴らして衣服を身につけた。
「お目覚めでしょうか。ラシュレスタさま・・・」
サササ・・・と砂山近くまで接近してきた者が同時に、両手両膝を床について頭を垂れた。下等な妖魔が上位の魔族に敬意を示す時の正式な作法。
魔王に可愛がられている稚児とはいえ、魔族と妖精の雑種である妖魔。中でも低級な淫魔が、憧れの存在を前に声を震わせて申し出た。
「なんなりとお申し付け下さいませ。私はインでございます」
「私はサツでございます」
既に見知っている間柄にも関わらず、あえて名乗った理由はひとえに呼んでもらいたいからだ。
力のある魔族に呼ばれるとそれだけで低級の身に祝福、魔界でいうところの呪がもたらされる。
ましてや、天界の属性を帯び続ける稀有で極上な存在。天上の清らかさを失わない美貌。お近づきになれる機会が来るなんて・・・と二体は嬉しくてたまらない。
露出を好まない麗しの公爵に合わせて、衣装も前合わせの腰まである上衣を帯で締めて、下半身は長ズボンを履いている。とにかく気に入られたいのだ。
見上げるほど大きい山が存在している。室内の大理石の床の上にはおよそそぐわない光景。ボヤンと薄白い光を発している砂の塊。
突如、円錐型の頂点がサラサラと下へと零れ落ち始めた。解除の気配に待機していた者がハッと顔を上げる。
砂はそのまま流れるように落ち続け、裾野の範囲をどんどんと広げていく。半分ほどの高さが失われると、平らな面となった頂きに、スーッと下から石棺のような物体が現れた。
こちらも、サラサラサラ・・・・・・とわずかにわかる程度だった凹凸が砂を削り落としていくことで、徐々に徐々にとその境界線を顕著にしていく。
棺ほどの厚みだったモノが、中に入っている骸そのものの大きさとなった。さらに頭部、胴体部、四肢と均整の取れた形へと変容していくことで、見守る側の胸をドキドキと高鳴らせる。
(いよいよ・・・)
それは待ち望んでいた時間。
無機質な石の塊に過ぎなかったモノが、まるで名工が精魂こめて手掛けた彫刻のように、息づくような肌の質感を帯び始める。
引き締まった身体の輪郭が完璧な筋肉の凹凸を浮かび上がらせた途端、表面がパァァ・・・と青白い輝きを放った。
覚醒した者がパチッとその美しい琥珀色の瞳を開く。美しくかたどられた唇がフゥゥ・・・と息を吐き出した。
片膝を上げてゆったりと半身を起こしたことで、腰まで長い銀髪が生気を取り戻した裸体へとキラキラとかかる。けだるげに美髪をかき上げた。そのあまりにも優雅な仕草。
(ステキ・・・)
傍らで魅入っていた存在がため息を零す。それらの視線から隠すように、指をパチンと鳴らして衣服を身につけた。
「お目覚めでしょうか。ラシュレスタさま・・・」
サササ・・・と砂山近くまで接近してきた者が同時に、両手両膝を床について頭を垂れた。下等な妖魔が上位の魔族に敬意を示す時の正式な作法。
魔王に可愛がられている稚児とはいえ、魔族と妖精の雑種である妖魔。中でも低級な淫魔が、憧れの存在を前に声を震わせて申し出た。
「なんなりとお申し付け下さいませ。私はインでございます」
「私はサツでございます」
既に見知っている間柄にも関わらず、あえて名乗った理由はひとえに呼んでもらいたいからだ。
力のある魔族に呼ばれるとそれだけで低級の身に祝福、魔界でいうところの呪がもたらされる。
ましてや、天界の属性を帯び続ける稀有で極上な存在。天上の清らかさを失わない美貌。お近づきになれる機会が来るなんて・・・と二体は嬉しくてたまらない。
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