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魔鏡 “アブラハムには十三体の子”
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「魔王妃さま、どうかお待ち下さいませ」
インが発した言葉に、ボッと出かけた銀色の炎が美しい手のひらの中に消えた。
(魔・・・王妃・・・・?)
ラシュレスタが永久凍土を彷彿させるような冷ややかな瞳で見下ろす。その眼差しに幼態成熟型の身体が反射的にザワワ・・・と泡立った。
低級な魔物が無条件で惹かれる美しさと強さなのだ。被虐性欲を刺激されたインが、アッ・・・と身を震わし、モジモジと床の上で両膝を擦り合わせた。
「・・・・・・どういう意味だ?」
聞き間違えたのか。到底、理解できるような響きではなかったが―――射抜くような視線で発言内容を問いかけてくるラシュレスタに、サツがこちらも頬を染めながら応じる。
「お、おそれながら・・・我が主より、お目覚めになりましたら、魔鏡にてお話の場を設けるよう・・・指示を承っております」
チッ・・・そんな舌打ちが聞こえてきてもおかしくないほどの怒気。実際わずかにしたのかもしれない。
だが魔気と霊気と、絶妙なバランスで聖邪を具有する無二の美貌を間近にして、二体はうっとりと魅入るばかりだ。この美しい存在に虐められたい。そんな本能が無意識に煽られる。
「・・・話すことなどない」
魔王自身が現れないのは幸いだが、魔鏡越しだろうとなんだろうと会うつもりはない。
交わした契約を安易に反故にした者への報いと償いは、とにかくこの怒りが収ってから――とラシュレスタがパチンと指を鳴らしてケープを身につけた。
「ま、魔王妃さま、お待ち下さいませ!! すぐに魔鏡を召喚いたします!!」
「・・・・・・だから、どういう意味だ?」
訝しげに聞き直したラシュレスタの前で、インが懐から小瓶を取り出すとポンッと蓋をあけた。
天井に向けて掲げ、モクモクと黒煙が溢れ出ている状態でぐるりぐるりと二回ほど手を回すと、
「我が主、魔王ゼフォーさまの名と呪において命ずる。魔鏡“アブラハムには十三体の子” ここに出でよ!!」
と叫び、パシャリと中の液体を床にまいた。
ボンッ!! ・・・・・・ボボボボボボ・・・・・・
黒い炎が燃え上がると同時に、床を滑るようにして円を作る。
正式な呪文を略せた点を踏まえても、おそらくは魔王の体液に呪をこめたモノだろう。それにしても、なんという名称の鏡か。感性の欠如にも程がある。誰が名付けたのかなんて聞くまでもないが―――
ラシュレスタが魔鏡に思いを寄せながら、モクモクとした黒煙が螺旋を描くようにして、上へと上へと立ち上り始めた様子を冷ややかに見つめる。
「ラシュレスタさま、どうぞこちらにおかけ下さいませ」
サツが魔力でさりげなく引き寄せた玉座をラシュレスタへと勧めた。
インが発した言葉に、ボッと出かけた銀色の炎が美しい手のひらの中に消えた。
(魔・・・王妃・・・・?)
ラシュレスタが永久凍土を彷彿させるような冷ややかな瞳で見下ろす。その眼差しに幼態成熟型の身体が反射的にザワワ・・・と泡立った。
低級な魔物が無条件で惹かれる美しさと強さなのだ。被虐性欲を刺激されたインが、アッ・・・と身を震わし、モジモジと床の上で両膝を擦り合わせた。
「・・・・・・どういう意味だ?」
聞き間違えたのか。到底、理解できるような響きではなかったが―――射抜くような視線で発言内容を問いかけてくるラシュレスタに、サツがこちらも頬を染めながら応じる。
「お、おそれながら・・・我が主より、お目覚めになりましたら、魔鏡にてお話の場を設けるよう・・・指示を承っております」
チッ・・・そんな舌打ちが聞こえてきてもおかしくないほどの怒気。実際わずかにしたのかもしれない。
だが魔気と霊気と、絶妙なバランスで聖邪を具有する無二の美貌を間近にして、二体はうっとりと魅入るばかりだ。この美しい存在に虐められたい。そんな本能が無意識に煽られる。
「・・・話すことなどない」
魔王自身が現れないのは幸いだが、魔鏡越しだろうとなんだろうと会うつもりはない。
交わした契約を安易に反故にした者への報いと償いは、とにかくこの怒りが収ってから――とラシュレスタがパチンと指を鳴らしてケープを身につけた。
「ま、魔王妃さま、お待ち下さいませ!! すぐに魔鏡を召喚いたします!!」
「・・・・・・だから、どういう意味だ?」
訝しげに聞き直したラシュレスタの前で、インが懐から小瓶を取り出すとポンッと蓋をあけた。
天井に向けて掲げ、モクモクと黒煙が溢れ出ている状態でぐるりぐるりと二回ほど手を回すと、
「我が主、魔王ゼフォーさまの名と呪において命ずる。魔鏡“アブラハムには十三体の子” ここに出でよ!!」
と叫び、パシャリと中の液体を床にまいた。
ボンッ!! ・・・・・・ボボボボボボ・・・・・・
黒い炎が燃え上がると同時に、床を滑るようにして円を作る。
正式な呪文を略せた点を踏まえても、おそらくは魔王の体液に呪をこめたモノだろう。それにしても、なんという名称の鏡か。感性の欠如にも程がある。誰が名付けたのかなんて聞くまでもないが―――
ラシュレスタが魔鏡に思いを寄せながら、モクモクとした黒煙が螺旋を描くようにして、上へと上へと立ち上り始めた様子を冷ややかに見つめる。
「ラシュレスタさま、どうぞこちらにおかけ下さいませ」
サツが魔力でさりげなく引き寄せた玉座をラシュレスタへと勧めた。
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