最高天使に恋をして~忘却の河のほとりには~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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魔鏡 “アブラハムには十三体の子”

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 あれか――最後に触れてきた感触をラシュレスタが腹立たしく思い起こす。

 よくもまぁ、悪びれることもなく。どうしてくれようか、どうしてくれようか・・・この言葉自体が怨念と化したかのように、ラシュレスタの心を占めて止まらない。

 「ラシュレスタよ~ 我からすればのぅ、ご褒美よ、ご褒美・・・我の自慰? に付き合い、我をこのように消滅間際まで追いこみ・・・結果・・・わかるよのぅ? フフフ・・・今、我がどれほど感極まっているか・・・そなたへの・・・我の感謝の印よ・・・フフフ・・・」

 やはりそうか―――合点がいくと同時に、悔しさがにじみ出る。まんまとしてやられたのだ。 

 今こうして会話をしているにも関わらず、姿を現さない理由。おそらく崩れかけた泥人形のように、形を保つのにすら労を要しているには違いない。

 だが、それだけであるのならば、かえってその悲惨な状態を自慢げに見せびらかしてきてもおかしくない。

 遮断する理由は他にあるのだ。ひとえに独りで噛みしめたいという訳が。極限状態になった自分を消失させまいと、不浄の地にまで光の波を送り続ける、あの存在との繋がりを。独り浸っていたいのだ。

 身に起きている現象。その実感。その至福。それを得たいがために踏み台にされたのだ。当初から仕組まれていたとはさすがに思えない。が、石化で拒まれた際に腹いせも兼ねて思いついたのだろう。

 許しがたい機転。だが、それほどまでに執着している相手であることも容易に理解できる。

 「我の不在中・・・魔王代理として好き勝手にすごすがよい・・・許すぞ・・・フフフ・・・司令官など、そんな青臭い肩書きではのぅ、他の公爵どもは抑えられぬが、魔王妃となれば、古顔の誰からも何をしても文句は出まい・・・なんと言ったって、我の妃だからのぅ・・・フフフ・・・・・・ほんにそなたのおかげよ・・・好きに羽を伸ばせ・・・フフフ・・・」

 「・・・・・・褒美というのなら、魔王妃というふざけた呪を今すぐ解け」

 もはや体裁を繕う気もない。自分のおかげでご満悦な状態であるのなら、それぐらいやれ―――ラシュレスタが唸るようにして言葉を発した。

 「おぅおぅ・・・怖い怖いのぅ・・・そなたはきれいな顔してて怒ると怖いのだ・・・フフフ・・・落ち着け、落ち着けぇ・・・ラシュレスタ・・・解くのなんぞ、いつでもできるぅ~ が、我が不在となると、虚無やら疫病やらいさかい好きのあの者たちが地上で何をする? 我という抑止力がないと・・・どうなるのだぁ? 

 もちろん・・・放置して? アレの気を引くのも自由だがのぅ・・・それこそ天界からのぅ、魔王代理として制御せよぉ~ といったお手紙も届くかもしれないしのぅ・・・会いたいですぅ~ なんて書いてお返事を送ったら、会えるかもしれないぞぉ・・・そなたならばなぁ・・・フフフ・・・」

 思いがけない魔王の言葉にラシュレスタの瞳が見開かれた。

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