最高天使に恋をして~忘却の河のほとりには~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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淫欲に堕ちた妖精王子

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 どうでもいい―――とラシュレスタが背中を向けた。

 相手にしないで済むのなら、かえって都合がいい。その方が楽だ。既に勝手知ったる異なる道を通って、目的地を目指す。そこはさらに奥まった場所にある特別な栽培エリア。

 「ぁっ・・・ラシュレスタ公爵さま!!」

 談笑をしながら門番をしていた従僕たちが、麗しい存在の接近に気がつき、一斉に地面の上に両手両膝をついた。

 この城の主のこだわり。自分よりも美しくあってはならない。目立ってもならない――に加えて、その嗜好で、全員が黒の長いワンピースにフリルのついた白い前掛け姿を取らされている。

 それは伝統ある妖精王国での従事者を連想させる服装姿。違っているのは、一律、灰色となっている髪の色だろう。そして、白いフリルのついたカチューシャをつけ、引き立て役として統一が強制されている点。

 一見、女のように見える妖魔たちだが、抱かれるのを好む主人がいつでも性行為の相手としても所望できるよう、その服装の下の性は男だ。

 「花が見たい。開けてくれ」

 「は、はい。で、ですが・・・あの、この場所は、開閉に主の許可が必要でございまして・・・」

 自分が同行していない場合は、絶対に開けてはならないと主人からきつく言われている。だから、ここは断らなくてはならない。

 だけれども――請われた妖魔が頬を紅潮させ、モジモジと身をよじった。

 目の前にいるのは、あの魔界一有名な存在なのだ。堕ちてもなおも天界の属性を損なわない、極上な美貌。こんなにも美しい方に話しかけられるなんて。トクトクと胸が高鳴り、揺れ動く。

 「先ほど会いに行ったのだが、取り込み中だった・・・話はついている」

 従者にだろうが扉にだろうが、魔霊気を使えば容易に事は済む。だが間違いなく察知され、面倒だ。従者が後から叱られようが知ったことではない―――そんなことを密かに思いながら、ラシュレスタが儀礼的に微笑んだ。

 「さ、左様でございましたか・・・そ、それは大変失礼を。今すぐお開けします」

 「お待ち下さいませ」

 ときめきを隠しきれない従者たちがパタパタと整列し直し、高く重厚な囲いに手をかける。

 ギギギギィィィ・・・・・・

 先が矢のように尖った鉄がいくつも連なる頑丈な柵。手動で開け放たれた。一面、薔薇だらけの花園。踏み入れた途端に、ぶわんっと風が吹きつけて来る。

 まるで花園自体が来訪を喜んでいるかのように、花びらを舞い上がせる。実際に、その場に囚われてる風の精も花の精も美しき来客に歓喜している。

 どこもかしこも闇色がつきまとう魔界の大気の中。薔薇の渦に取り囲まれたラシュレスタが、そのかぐわしい香りを深く吸いこんだ。ふわりと身体が軽くなるような感覚。

 (腕だけはいい・・・)

 唯一の取り柄か。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。妖精王の堕落した子孫は、木々や草花を愛する気持ちとその育成能力は失っていない。

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