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人間界 約束の地にて 会う
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すぐさま涙を拭いて堪える。ルーカに気がつかれるわけにはいかない。だが、想いがこみ上げて止まらない。自分は間違っていなかったのだと。
人間界に来てから、復活した光の鳥。一年に一度、冬至の祭りの日にだけ現れては、下腹部に沈みこむようにして消えた。まだ気に留めてもらえていると、最愛の存在からの使者にどれほど救われたか。
アブラハムに魔鏡のバッジを作らせて持ち歩いているのも、もしかしたら、互いに持つことで見てもらえているのかもと。通じあえているのかもとすがるような気持ちからだ。
そして、それは間違っていなかったのだ。ここに来てよかったのだ。自分のためにこうして用意してもらえているのだから。
(シャルスティーヤさま・・・)
また会えるのだろうか。会いたい。許されるものならば。会いたくてたまらない。でも、許されるのだろうか―――揺れ動く。
「それで見て頂きたかったのは、この楽器だったのですが・・・」
ルーカが鍵盤にかかっていた白い布をスルリと取り払った。ラシュレスタがハッと意識を現実に戻した。
「水オルガンと類似点はありますが、それとも異なる、見たこともないような構造の楽器で驚かれたでしょう? 木や鉄、銅を使った合金など多様な材料から作られています」
水力によって空気を送り、手動で弁を開閉させることで音を奏でる水オルガン。おそらくは、その一般的に認知された楽器よりも遙かに複雑で、質も上だと言いたいのだろう。
何段にも連なる合金でできたパイプが、まるで壁面を飾るかのように縦状に組みこまれ、中央の演奏台には三段構えの手鍵盤が手前へと突き出している。
さらに、その両脇。音色を調整するための多数の音栓がボコボコと飛び出し、そして、床上には長短二段の立体構造で、演奏者の脚の長さ以上に幅広く、足鍵盤が並んでいる。
見た目においても素材においても音質においても、この時代の地上の人間であるのならば誰しも圧倒される類いの物だろう。だが、実情はまったく至っていないとも言える。
天界にある大元となった楽器は、さらに構造が複雑だ。その上、素材も天界にしかない金属が使われている。
それによって低い波動の波形信号が作り上げられ、音響装置部分を鳴らすことで、より大音量で多才な音色の発音が可能となる。
とはいっても、人の手で再現した類としては申し分のない出来であることは言うまでもない。
「おそらくは複数の人間が協力し合ってようやく奏でられる物だと思うのですが・・・名前は、ララシャ・シュレティーアと言います」
手で優しく楽器を撫でながら、ルーカが説明を続けた。
「ララシャ・シュレティーア?」
「はい。大天使さまがそう告げられたそうです」
ラシュレスタが目を見開いた。
「だ、大天使さまが・・・ですか? そ、それは一体・・・」
人間界に来てから、復活した光の鳥。一年に一度、冬至の祭りの日にだけ現れては、下腹部に沈みこむようにして消えた。まだ気に留めてもらえていると、最愛の存在からの使者にどれほど救われたか。
アブラハムに魔鏡のバッジを作らせて持ち歩いているのも、もしかしたら、互いに持つことで見てもらえているのかもと。通じあえているのかもとすがるような気持ちからだ。
そして、それは間違っていなかったのだ。ここに来てよかったのだ。自分のためにこうして用意してもらえているのだから。
(シャルスティーヤさま・・・)
また会えるのだろうか。会いたい。許されるものならば。会いたくてたまらない。でも、許されるのだろうか―――揺れ動く。
「それで見て頂きたかったのは、この楽器だったのですが・・・」
ルーカが鍵盤にかかっていた白い布をスルリと取り払った。ラシュレスタがハッと意識を現実に戻した。
「水オルガンと類似点はありますが、それとも異なる、見たこともないような構造の楽器で驚かれたでしょう? 木や鉄、銅を使った合金など多様な材料から作られています」
水力によって空気を送り、手動で弁を開閉させることで音を奏でる水オルガン。おそらくは、その一般的に認知された楽器よりも遙かに複雑で、質も上だと言いたいのだろう。
何段にも連なる合金でできたパイプが、まるで壁面を飾るかのように縦状に組みこまれ、中央の演奏台には三段構えの手鍵盤が手前へと突き出している。
さらに、その両脇。音色を調整するための多数の音栓がボコボコと飛び出し、そして、床上には長短二段の立体構造で、演奏者の脚の長さ以上に幅広く、足鍵盤が並んでいる。
見た目においても素材においても音質においても、この時代の地上の人間であるのならば誰しも圧倒される類いの物だろう。だが、実情はまったく至っていないとも言える。
天界にある大元となった楽器は、さらに構造が複雑だ。その上、素材も天界にしかない金属が使われている。
それによって低い波動の波形信号が作り上げられ、音響装置部分を鳴らすことで、より大音量で多才な音色の発音が可能となる。
とはいっても、人の手で再現した類としては申し分のない出来であることは言うまでもない。
「おそらくは複数の人間が協力し合ってようやく奏でられる物だと思うのですが・・・名前は、ララシャ・シュレティーアと言います」
手で優しく楽器を撫でながら、ルーカが説明を続けた。
「ララシャ・シュレティーア?」
「はい。大天使さまがそう告げられたそうです」
ラシュレスタが目を見開いた。
「だ、大天使さまが・・・ですか? そ、それは一体・・・」
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